ひさしぶりにその喫茶店をおとずれたある日、僕から通路をはさんだ窓際の席には、4人のおばあちゃんが昼ごはんを食べておりました。4人がけとは言うものの、皿を4枚並べればテーブルからはみ出るくらいの、ちいさな席です。そこでめいめいがくっつき合って、オムライス、ミートソース、ナポリタン、ハヤシライスといった軽食の千年クラシックを脇目もふらずにパクパクと消化しています。そのまま箱に詰めて持ち帰れそうな窮屈さをのぞけば、たいへん微笑ましい光景であって、何しろ和やかです。もうすこし広い席に案内してあげたらいいのにとおもう。
僕がはじめてここに来たのは、かれこれ10年くらい前のことです。家屋調査の仕事を手伝っていて、帰りしなに先輩が「お茶していこう」と言うから、とりあえず地下鉄の駅から徒歩1秒(!)のここをえらびました。とくに希望もないけれど、むさくるしい野郎2人づれにあんまりお洒落なのも困ります。しいて言うなら仕事中に作業着でも立ち寄れるお店が気楽です。その点ここはあつらえ向きでした。昔ながらのつくりで佇まいも昭和そのものだし、思いのほか広い。あちこちの談笑が耳をくすぐるくらいには賑わっているけれど、そのざわめきに会話が消されることもない。とにかくほどよい距離感で、居心地が良いのです。しまいにはねむたくなってきます。
要はそういうお店です。一見するとどの町にもありそうなごくごくふつうの喫茶店にも思えます。誰にでも好まれそうな反面、強烈な印象に欠けるのかもしれません。そのつつましさたるや、次に町をおとずれるまで忘れているくらいです。今まで何度となく好きな喫茶店を聞かれた気がするけれど、そういえば思い出して答えたためしがない。わかっていたはずなのに、行くたびにハッとして首をかしげてしまう。
なつかしいピンクの電話もあるよ!
どうしてもっと早くここのことを吹聴しなかったんだろうと悔やまれるのは、その気取りのなさ、居心地の良さ、つつましさのためばかりではありません。というのもここはコーヒー、とくに豆に関して他の追随をゆるさない信条と哲学をもった店でもあるからです。押しつけがましさの欠片もないせいか、店の印象からしてついメニューもひらかずに「ブレンド」と注文してしまいそうになるけれど、よくよく見るとよそではお目にかかったことがないようなコーヒーがメニューにずらずらと並んでいます。どれを飲んでもワンコインでお釣りがくるし、2杯目からはほぼ半額です。上質の豆なんかべつに求めてない僕でさえ飲み比べてみたいとおもうし、実際どれもこれも味わいがはっきり異なっています。シンプルに楽しい。
3 件のコメント:
こういうたたずまいのお店、大好物です。
今度東京へ行った時に行きます!
ホットケーキも美味しそう。
むむ。歩いていける。行ってきます。
> うえはらさん
百戦錬磨にはむしろ不向きなお店です。そのために行っちゃダメですよ!
> mioさん
徒歩圏内…うらやましすぎです。ガッデム。
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