2011年6月28日火曜日

腐草為蛍/tryin to be a piano wire



すぎたことのように
太陽はまたのぼり
列車は今日もおだやかに人をはこぶ
燃えのこった不条理に手をつけるのはやめた
もがけば沈むとわかるくらいの大人にはなった
何が彼をあの場所に追いやったのか?
それを知っていたらまたちがった結末があったか?
すぎたことのように
太陽はまたのぼり
視線に気づいた風見鶏がうろたえて背を向ける

空っぽになったかつてモダンだった家には
黒蜜みたいに甘い沈黙が焼きつく
物干竿から垂れたきれいな糸の先には
あまりの孤独に気を失った蜘蛛が1ぴき
悟るにはわかく
逃げるには遅く
地団駄をふもうにも地面ははるか遠く
つむじ風に吹かれてめくれたいろはかるた
ココンと庭の芝にはねてくだけちる涙

害のない質問にイエスとうなずくこと
帰りの電車賃を残して勝負すること
チョークで描いた 領域になんぴとたりとも
足を踏み入れてはならないと定めること
つぶれた店をいつまでも惜しむこと
およそすべてのできごとを車窓から眺めること
生きているかぎりはいつだって立ち去る側なのに
失ったと錯覚したまま悲嘆に暮れること

and all these fuckin things, you know

手に負えやしないと人がみな言うのを
さもありなんて顔でぼんやり聞いている
目に見えないものをどうかするのは至難の業だ
強いられるのは撓みなくはられたピアノ線のように
つとめてしずかに、
タフであること
ひとかけのバターをパンに塗るように
ただそれとなく、
なだめていくこと
あるいは…


 *


なおも引き出しをさぐる思い切りのわるさ
まちまちの大きさ
不埒なおうさきるさ
すりむいたむきだしの指さきにふれたのは
とっておきの秘密をうすく貼ったプレパラート
知れば知るほどわからなくなるなら
すがるのも冥利がわるいと考え直すそばから
首根っこをつかまれて大人になってゆく
つま先からのびる影が手をふるのをみた

ことの次第を知った物忘れの激しい幽霊が
うらみを忘れて蜘蛛をそっといたわる
泣くなよ、人生ってたぶんそういうもんだろう?
そんなこと言うならおれはどこへ行けばいいんだ?
お互いさまだから慰めるのはむりでも
気をそらすやりかたなら心得たものさ
真っ暗なところでないと見えない星のかすかな
またたきをみるとか、まあそんな具合に

すぎたことのように
太陽はまたのぼり
列車は今日もおだやかに人をはこぶ
多くの人の胸にぽっかりと空いた
丸い穴からのぞく青空と鈴生りの枇杷
蚊遣り火の消えた部屋で折りたたむ黒い服…

腐草為蛍頃

風船に逃げられた子供が

外で泣く以外は

いつもと同じ

暑い一日


 *


何が彼をあの場所に追いやったのか?
それを知っていたらまたちがった結末があったか?
とくべき謎ではなく不可思議としてそのまま
世界はたぶん
そんな理由でうつくしい
強いられるのは撓みなくはられたピアノ線のように
つとめてしずかに、
タフであること
ひとかけのバターをパンに塗るように
ただそれとなく、
なだめていくこと…



2011年6月24日金曜日

ムール貝博士が足をすべらせて地獄に落ちた話



ミス・スパンコール秘蔵のアルバムから1枚

それはエレベーターなのか?それともバナナなのか?


 *


どうもこう、きもちがモヤモヤして晴れきらないと首をひねっていたのだけれど、ふと、近ごろはブログといえば宣伝というか喧伝というかプロパガンダというか、よくいえば合理的、わるくいえばセルフボースト的な更新しかしていなかったことに気がついてポンと膝を叩きました。

いえ、それはそれでいいのです。お知らせできる事柄自体が四葉のクローバー並みに少ないという致命的な弱点はこのさい掃除機でゴーと吸い取ってしまうとして、発信という意味ではこれ以上なくまっとうだし、どこまでも正しい。ですよね?

しかしこのブログはちがいます。今さら何をつくろうことがありましょう。頻度で言ったらお知らせのほうがここではよほど箸休めみたいなものじゃありませんか?そもそもこのブログは一日の終わりにお茶をすすってフーとひと息つきながら、本を2、3ページぺらぺらめくるような感覚で目にふれてくれればそれに勝るよろこびはない、とおもって始めたはずなのに、告知ひとつでそのお茶をにごすなんて、われながらおこがましい話です。ピンカートン先生のくだらないツイートをみて満足している場合ではない。ムール貝博士はいったいどこへ消えたのか?

そういうわけで、このブログ本来の趣旨にのっとって、どうでもいい話をしようとおもうのです。


 *


行方どころかいまだに素性も知れない博士のことはさておき、日本のどこかに実在する、とあるお店でポイントカードを発行していたのです。500円で1ポイント、10ポイント貯まったらこんなサービスが、というアレですね。

そのお店の説明にはこうありました。
----------------------------------------------------------------------------------------
1)100円お買い上げごとに、1ポイント貯まります。
2)100ポイント貯まると、次回合計額から100円値引きいたします。
3)カード代として100円いただきます。
----------------------------------------------------------------------------------------

それでまあ、ひいふうと指折りかぞえてみたのです。
100円で1ポイントだから…100ポイント貯めるには、えーと…それで値引額が…待てよ、さいしょに100円払ってて…

……あれ?


いくら考えてもこのお店でポイントカードをつくる理由がちっとも思い浮かばないんだけれど、キツネに化かされているようなきもちになるのは気のせいだろうか…?


 *


「ピス田さんピス田さん」
「あれダイゴくんひさし…ヒゲのびた?」
「このポイントカードなんですけど」
「このカードがどうしたの」
「あれ、そういえば博士は?」
「しばらく見てないけど」
「お出かけですか」
「さァ…ここにいないとすれば、そういうことになるよね」
「ものすごい他人事ぶりだ」
「あ、博士がいたほうがいいの?」
「いなくていいです」
「で、そのカードがどうしたの?」
「じつはかくかくしかじかで」
「べんりな日本語をつかうもんだな!」
「そういうわけなんですよ」
「フーム、じゃもう1回計算してみよう」
「100円で1ポイントでしょ…」
「100ポイント貯めると…」
「でもさいしょにカード代が…」
「…」
「…」
「釈然としないね」
「なんかちょっと変なかんじがするんです」
「まァいいじゃないか、1億円も引いてもらえるんだぜ」
「100億円ぶん買ったらでしょ!」
「買えばいいんだ」
「だってケーキ屋さんですよ」
「ほう。ケーキ屋のカードなのかこれは」
「口がすべった」
「散財すればいいんだよ」
「それはそうですけど…」
「イチゴみたいにちっちゃい悩みだ」
「でも肉を切らせて骨を断つというか…」
「…」
「あくびしないでくださいよ」
「だって何言ってるかよくわからないよ」
「つまりですね…」

ドカン

「うわァ」
「しっかりしろダイゴくん、博士が帰ってきただけだ」
「帰ったぞ!」
「おかえりなさい」
「長旅だった」
「何だ博士か…あいかわらず心臓に…アレ?」
「おや」
「何だ」
博士が松葉杖をついている!
「これか。わたしとしたことが、まったく」
「どうしたんですか一体」
「足をすべらせて地獄に落ちた」
「え?」
「足をすべらせたと言ったんだ」
「地獄に落ちたって言いましたよ」
「落ちたよ!だからこのザマだと言っとろうが!」
「足1本で済むものなんですか?」
「足1本とは何たる言い草だ。重傷だぞ」
「地獄に落ちて骨折で済む人はいないですよ、ふつう」
「骨折とは言ってない」
「じゃその足は…」
「捻挫した」
「なんて軽い代償なんだ!」
「せっかくだから湯治してきた」
「血の池は温泉じゃないですよ」
「足裏マッサージもよかった」
「針山だったんじゃないですか?」
「おみやげは閻魔せんべいだ」
「おみやげって…どうして帰ることが前提になってるんですか?」
「うるさいやつだな。何が気に食わないんだ」
「気に食わないことがあるとすれば博士が帰ってきたことですよ」
「いたぶるということを知らんのか」
「いたわるのまちがいでしょ」
「そうだった。いたぶるのはいつだってわたしだ」
「自覚してるんだ!」
「…」
「…」
「…」
「何だ、話は終わりか?」
「そうみたいですね」
「オチはどうした」
「もう落ちたでしょ。博士が。地獄に」

2011年6月19日日曜日

ムール貝博士の安全宣言/doctor's view



専門家がおれであるから心配はご無用

そこかしこに落ちているこの爆弾は

点火しても爆発をしない。

ただ点火しなくとも爆発をする。

とはいえ専門家がおれであるから心配はご無用

こっぱみじんだ。痛みもないし

問題はない。死人が出るというがしかし

ひとは死ぬものだ。死なないのなら

なおさら問題ない。したがって

対策チーム編成の必要はない。

爆弾は高性能である。また仮に全人類が

ふっとばされたとしても心配はご無用

だれも気づかない。

爆弾は高性能である。


2011年6月10日金曜日

Mr. Jukebox と鋼鉄の乙女ふたたび



ミス・スパンコール秘蔵のアルバムから1枚

※写真は本文といっさい関係ありません。


 *


ほとぼりの冷める頃合いを見計らって、雨だれのようにポツポツとキーを叩きはじめているのですが、先日は日曜夜のメロウな憂鬱なぐさめミュージック・プログラム「Happy Sad」にゲストとしてお呼ばれしてきたのです。縁あってのお話とはいえ、人前でろくにしゃべったこともない馬の骨を引っぱりだすとは Happy Sadクルーもだいぶむちゃなことをなさいます。

※当日の写真が1枚もないのは、持っていったカメラに電池が入っていなかったからです。


番組の後半30分は「グッド・フレンズ」と題して、「毎週、週替わりのゲストを迎えてクロストーク。音楽の魅力をワンテーマでトリッキーに語り合」う時間なのだけれど、僕が「ことば」をテーマに3曲をえらび、20分しゃべくりたおしてきたのはこのコーナーです。

この「グッド・フレンズ」しかり、御大・高橋芳朗が大いに語る音楽ミニ・コラム「マイ・フェイヴァリット・シングス」のコーナーもしかり、Happy Sad の魅力はオンエアされるすべての曲に「視点」を加える、そのジャーナリスティックな姿勢にあります。全編をきもちのよい音楽でたっぷりと満たしながら、一方では情報番組としての濃度もある、ということですね。おいしいだけじゃなくて、おなかもいっぱいになるのです。満足度高い!

それから、曲を選ぶ基準のひとつに「甘酸」という新鮮なキーワードがあることも、すごく大きい。というのもこのキーワードによって、多岐にわたるジャンルをつねに一貫した視点で語ることができるばかりか、番組の主体がパーソナリティではなく曲そのものに与えられることになるからです。主役はいつも音楽であり、パーソナリティはあくまでその忠実な介添人であるということ。それでいて主役を引き立てるトピックの引き出しをわんさか持っていること。書いてしまえば当たり前のように響くけれど、じっさいにそれができる人はどれくらいいるだろう?

だいたい、本来はブラックミュージックが専門のはずなのに(I.N.I.という伝説的なヒップホップグループにリアルタイムでインタビューをしたことがあるような人ですよ!)、それに気づいてないリスナーもいるんじゃないかとおもうくらい、守備範囲がひろくてビックリしてしまう。「広く浅く」ならゴマンといるけど、広いうえにメチャメチャ深い、まるで海みたいな「本物の音楽好き」を目の当たりにしたのは僕の人生で初めてかもしれない。Mr. Jukebox と呼びたくなる所以です。


何よりそんな奥行きを微塵も感じさせずに、スタジオからラジオのスピーカーを通して聴く人の耳をふわふわと包みこむ、雰囲気からしてもう甘酸っぱい!オンエアされないブース内でのキャッキャとしたやりとりには、アドバイザーの古川さんも「こっちとあっちで一体何がちがうんだ」と苦々しく舌打ちをするくらいです。僕もその場にいたから、きもちは痛いほどわかります。

実際にお会いしてつくづくおもったけれど、コミュニケーション能力に致命的な欠陥があって第一印象がつねに最悪な僕としては、本気で生まれ変わったら高橋芳朗になりたいです。何を食べて育ったらあんなキュートな人柄になれるんだ?あのまろやかでやさしい語りくちを見習いたい。


 *


というわけで、一聴しただけではそのモノ凄さが1ミリたりとも伝わってこない、Happy SadはTBSラジオで今週も明日夜18時30分から。CDショップでうっかりジャケ買いをすることも減り、音楽がよりピンポイントでパーソナルな嗜好品としての意味合いを強くしつつある今にあって、本来なら至極当然の「共有」を前面に掲げるホントに貴重な番組です。とっとと全国ネットにしていただきたい。

ぜひお聴きあそばせ。


ちなみにアシスタントの川瀬さんも周囲を惹き付ける魅力にあふれたたいへん美しい人ですが、プロ意識がハンパないせいか、じかにお話をしても素顔がぜんぜん伺い知れない鋼鉄の人でした。師匠が翻弄されるわけだ…。


 *


ここまで書いて読み返したら知らないうちにラブレターみたいになっていてきもちがわるいから公開するのやめようかとおもったんだけど、まあいいや!

僕がきもちわるいのは今に始まったことではない。

ヨシアキさんの目にふれないことを祈ろう。