2013年12月28日土曜日

百戦錬磨なジゴロのいななきを聞け




正直、今年はもうムリだ…と7割がたあきらめていたのです。


<ここから20行ほど言い訳がつづいたので全部カット>


それでまあ、それはたしかにそうなんだけれども、といってもカットしてしまったので何がたしかなんだかこれではさっぱりですけれども、ともあれなんだかんだ言いながらこれまで年末になると思い出したようにポロリとやってきたちいさなことを、どんな理由であれ途切れさせてしまっては後生がわるいし、この先だって覚束ないよな、と今朝にいたって考え直した上、大慌てでとりかかり、ようやくどうにかこうにか目鼻がつきました。よかった!

そういうわけで今年も全体的にみればとくに何をしていたわけでもないのに、ふらりと立ち寄りがてら縁側でお茶をすするような塩梅でのんびりとお付き合いくださったみなさまに心からありがとうのきもちをこめて、年賀状を20名くらいのみなさまに贈ります。



ご希望のかたは件名に「あるジゴロのいななき」係と入れ、

1. 氏名
2. 住所
3. わりとどうでもいい質問をひとつ
4. きもち

上記の4点をもれなくお書き添えの上、dr.moulegmail.com(*を@に替えてね)までメールでご応募くださいませ。言うまでもなく競争率は低いです、いつも。

締め切りは例によって12月31日の大晦日が目安です。が、このありさまではどのみち年が明けてひと息ついてから書き始めることになるのと、そもそも応募がそんなにないので、3が日くらいまでなら意外と間に合うかもしれません。(仮に抽選となった場合でも、いただいたメールには必ず返信しています)

今年あらたに追加された4番目の項目は、毎年1/3くらいは妙に無機的なメールが投函されるので、せめて「こんにちは」くらいあってもいいじゃないの、という僕のしょんぼり解消のために設けられました。あと、これで低い倍率がさらに下がるならそれはそれで好ましいと言えなくもないこともないではないような気がしなくもない、というふくざつな魂胆もあります。

そしてこれまた例年のごとく、まだ答えていない質問をうっちゃったまま前のめりに募集する不義理な点については、そっと棚に上げてぼたもちでも供えておいてください。

今年はあと1回くらい更新できるかしら。どうかしら。

とりいそぎ、お知らせまで!


2013年12月25日水曜日

安田タイル工業のクリスマス慰安旅行2013


目がさめたらきりきり冷える外気との温度差に窓がしたたりまくっています。じぶんの部屋ではありません。のっぴきならない事情もあったとはいえ、まさかクリスマスイブイブの朝を専務の部屋で迎えることになるとは……。




世界に向けて遠吠えを!

あるかなきかの零細企業、あの安田タイル工業のクリスマス慰安旅行が、何ごともなかったような顔をして2年ぶりに帰ってきた!去年は専務リア充につきあっさり中止となった慰安旅行が、なぜ今年になって復活したのかという点については聞かないであげていただきたい!

※これまでの旅行については2010年版2011年版をご参照ください。


2011年12月以来となる今回も、とくに得るものもない自虐的な旅にタカツキ専務とダイゴ主任、総勢2名の大所帯でくりだします。

「朝だ!出かけるぞ」
「でもさっき寝たばかりですよ」
「今年も日帰りだ」
「前回はハードでしたからねえ」
「今回はソフトだから心配いらない」
「おや!」
「ハートウォーミングでラブリーな旅になる」
「四十路間近の男ふたりでいく旅のキャッチフレーズとしてはぎりぎりアウトじゃないですか?」
「さらに今回は車でいく」
「なんですって!」
「小粋にドライブとしゃれこもうじゃないか」
「イヤッホウ!」



さむくて凍りついたフロントガラスの霜をせっせとかき落とす専務




よく見るとケースもないむき出しのiPhoneでかき出していて目を疑います




おまけになぜかかき出した霜を運転席のほうに寄せたまま出発しようとする詰めの甘さ




ともあれそそくさと高速に乗った一行の前に、雲ひとつない澄み切った晴天が広がります。こいつァ幸先がいいぞ!



…とはしゃぐそばからわかりやすく垂れこめ始める暗雲



この数分前まで最高の上天気だったと言っても信じてもらえないかもしれませんが



後ろの空はあざ笑うように晴れ渡っています



しかしまあ考えようによっては空の色がちょっと変わっただけだし、この程度の凶兆をいちいち気に留めてもいられません。暗雲にも慕われる気さくな町工場、それが安田タイル工業です。


「朝飯を食ってなかったな」
「そういえばそうですね」
「どっかで食っていくか」
「というとまさか…」
「列車の旅では味わえない大きな醍醐味のひとつだ」
「サービスエリアですね!」
「よし、寄るぞ」
「イヤッホウ!」












とてもきれいで洗練されたゴージャスなサービスエリア内をうろうろと見て回り、なんとなく釈然としない思いを抱えながら、なんだかよくわからないテーブルで軽い朝食をすませ、ふたたびドライブに戻ります。

「あの、専務」
「どうした?」
「僕まだちょっと受け止めきれてないんですけど」
「何を?」
「さっきのあれ、サービスエリアですよね?」
「そう書いてあったろう」
「でもユナイテッド・アローズ入ってましたよ」
「入ってたな」
フリーズ・マートも入ってましたよ」
「そうだっけ?」
「屋内でBMW売ってましたよね
「そういえばあったなあ」
「あまつさえコンシェルジュです」
「何をそんなにぷりぷりしてるんだ?」
「それにあのスタイリッシュなトイレ」
「ぴかぴかだったな」
「お洒落すぎておちおち用も足せないんですよ!」
「ケツの穴の小さいやつだな、はははははは!」
「お腹を抱えて笑うほどおもしろくありません」
「そう言うな、ほら前を見ろ」
「なんですか?」


「やや、晴れてきましたね!」
「ちがうちがう、山だ、よく見ろ」
「あっなんか書いてある…」


茶だ
「茶ですね…」
「静岡に来たという実感が湧いてくるだろう」
「あ、静岡が目的地だったんですね」
「人工衛星からも見えるんだぞ」
「ナスカの地上絵ってひょっとしてこういうことだったんですかね?」





そんなこんなで砕け散った恋の話などにキャッキャと花を咲かせつつ、車でのんびり4時間かけて辿り着いた先は…


大井川鐵道の新金谷駅です。


趣たっぷりの駅舎にしばし見とれる安田タイル工業の面々。ハートウォーミングという専務の言葉もあながちまちがいではなかったようです。

「いい雰囲気ですねえ」
「そうだろう」
「わりとあっさり目的地着いちゃいましたけど」
「ちがうちがう、ここがスタート地点だ


呆気にとられるダイゴ主任をよそに、いそいそと列車にのりこむタカツキ専務。静岡県島田市の中心部から大井川に沿って北にのびる大井川本線は、よその大手私鉄から譲り受けた車両のみで運行している(つまり独自の車両を持たない)、ふしぎな路線です。これは元南海高野線の急行車両。


そういえば行き先をまったく聞いていなかったことに今さら慄然としながら、列車は軽やかに走り出します。





前回の重機的な恋とその後を彷彿とさせる黄色い彼氏のしんみりした後ろ姿



これは元近鉄の特急車両








長いこと揺られてようやく辿り着いた終点駅に降り立つ安田タイル工業の面々。澄んだ空気を胸いっぱいに吸いこみながらウーンと伸びをしているところへ専務の声が朗らかに響きます。

「よし、乗り換えるぞ!」
「まさかの中継地点!」


「わあ、蒸気機関車じゃないですか!」
「まあな。でも乗るのはこっちだ」


「めっちゃちんまり!」
「もともとダムをつくるための専用鉄道だったからな」
「さっきまで乗ってたのとはちがうんですか?」
「さっきのは大井川本線で、これは井川線」
「なんか真ん中あたりに寒そうな車両がありますよ」


凍てつく寒さのなか山間部に向かうにはいささかエクストリームすぎる感がなくもない、スケルトンな車両に躊躇なく乗りこむ専務






一見するとぽかぽかして暖かそうにおもえますが、遮るものが何もないので暖かいどころの話ではありません。窓1枚へだてた隣の車両には暖房がガンガンきいているとわかっているだけに、なおさら寒さがつのります。またこの路線はそれでなくとも山間だけにトンネルが多く(たしか50箇所以上)、このトンネル内の冷えこみ具合といったらほとんど懲罰です。あと至極当然の帰結として、音がすごいうるさい。







ここでふと先頭車両のあるものに目が止まり、忘れかけていた現実へ否応なく引き戻される安田タイル工業の面々



メリークリスマス!


それはそれとしてやはり寄る年波には勝てず、無言で暖房車へと避難しています





「おい、着いたぞ!」
「え、ここですか」
「ハートウォーミングでラブリーなポイントがここだ!」
降りるの僕らふたりだけみたいですけど…」
「望むところじゃないか。何が不満なんだ?」







この駅は湖上のど真ん中にあって施設らしい施設もなく、むしろ恋人たちがお互いの愛を再確認するためのスポットとしての機能に特化しています。したがってホームに降りてひとしきり愛を確認し合ったあとはとくにすることがありません。次の下り電車は1時間半後、しかも16時43分発のこれがこの日の終電です。

これまでの流れ上、いやでも永遠の愛を誓い合わざるを得ない専務と主任


それではここで、数キロ四方にまったく人の気配がない山間の湖畔からタカツキ専務が世界に向けて放つ渾身の遠吠えをご覧ください。




手本を見せようとしゃしゃり出る主任



ちなみにふたりの遠吠えはここから放たれています


「とりあえず愛は確認しましたけど」
「うむ。したな。たっぷりした」
「これあと帰りの電車を待つしかないですよね?」
「いや、待たない」
「でもどこにも行きようがなくないですか」
「四の五の言わずについてこい」

















「橋が見えてきましたね」
あれを渡り切った先に最終目的地がある
「あ、まだ最終目的地があったんですね」
「ハートウォーミングで超ラブリー」
「愛ならさっきさんざん確認しましたけど」
「クリスマスにはうってつけなんだ」
「橋の手前に大きな鉄琴みたいのがありますよ」
「うむ。あるな」
「奏でましょうか」
「奏でよう」




心温まる可憐な演奏を終えた安田タイル工業の面々は、いよいよ最終目的地へとつながる大きな吊り橋を渡ります。



 その先にあったのは……


八橋小道、通称ラブロマンスロードです。

「どうだ」
「ははあ」
「胸がいっぱいになるだろう」
「なりすぎて胸焼けしそうです」
「これ以上クリスマスにふさわしい場所があるか」
「でも人っ子ひとり見当たらないですよ」
「貸し切りだ」
「誰に借りたんですか?」

説明には、「恋愛という戦いに必勝を祈り末広がりを意味する"八つ"の橋と小道を歩いていく。起伏に富んだ遊歩道はさながら"人生の道"のよう」とあります。

「戦うみたいですよ、専務」
「戦うからには勝たねばなるまい」
「僕ら中年なんでもうあんまり体力が」
「いくぞ、つづけ!天運我にありだ」









ぶじすべての橋を渡りきり、非の打ち所のない圧倒的な勝利に鬨の声を上げる安田タイル工業の面々。

「あれ?」
「どうした」
「橋、8つ渡りました?」
「渡っただろう」
「ひいふうみい…7つしかないですよ」
「いや、渡ってるはずだ」
「見落としたっぽいですね」
「荒ぶってたからな。瞬殺だったんだろう」
じゃあ帰りますか
「うむ。まだ16時すぎだがじき終電がくる





♪パ〜パラララ〜(エンディングテーマ)


飽くなき探究心と情熱を胸に、安田タイル工業は今後も逆風に向かって力強く邁進してまいります。ご期待ください。


安田タイル工業プレゼンツ「聖夜のラブリーな過ごしかた」 終わり




※このあと9時間かけて帰りました。




おまけ1:列車を見送る専務




おまけ2:「帰りにさわやかなハンバーグを食わせてやる」と専務が連れていってくれたさわやかなハンバーグレストラン