2011年12月29日木曜日

ムール貝博士が不思議な獣の肉を持参したこと



ある晩、ひたひたと音もなく忍びよる大晦日を前に珍しくムール貝博士が訪ねてきたのです。


ドカン


「おや、久しぶりに聞くこの呼び鈴的な爆発音は…


ボゴン

ズガン

パリンパリンパリン

ゴゴゴゴゴ

ドドドドド

バキバキバキ

ガラガラガラ

ヒューン

ドパーン!


「痛たたたた」
「やァ久しぶり」
「いくら何でもやりすぎですよ!」
「ピンピンしてるじゃないか」
「この瓦礫の山が目に入りませんか?」
「スマンスマン。誤爆した
「どう考えても集中砲火でしょうが!」
「情報がまちがってたんだ」
「正しさなんて歯牙にもかけないくせに」
「世界の誤爆はだいたい大目に見てもらえるもんさ」
「遺憾の意を表明します」
「まァそれくらいしかできることはないだろうな」
「人でなし!」
「誰がヒトデだ」
「年越しの雨露をどうやってしのげばいいんだ…」
よければいいだろ
「ふつうの人間は雨をよけられるほど敏捷じゃないんです」
「まァそう言うな。土産を持ってきたんだぞ」
「土産?」
「土産だ」
「博士が?」
「そうとも」
槍が降る!
「心外だな、おい」
「だったら爆撃なんてしないで普通に来てくださいよ!」
「しないと誰だかわからないだろう」
「得体の知れない土産より、僕は頑丈な住まいを望みます」
「ひ弱なのを建てるからだ」
「集中砲火を浴びれば大抵の家は崩れ落ちますよ!」
「それはさておき、ちょっと獣を狩ってきたんだよ」
「さておかれても困ります」
「首尾よく仕留めたはいいがデカすぎて食いきれない」
「はァ」
「仕方なくおすそわけという結論に至った」
「いま仕方なくって言いましたね」
「食おうとおもって食える肉じゃないぞ」
「何の肉ですか」
「それを訊くのは野暮ってものだ。ほら」

ドスン

「デカい!」
「これで年を越すといい」
「越す家なくなっちゃいましたけど」
「何しろ売るほどあるから閉口してるんだ」
「あ、値札貼ってある」
「目ざといやつだ」
「ホントは買ってきたんじゃないですか」
「バカ言うな。これから売るんだよ
「しかも安い!」
「良心的だろう」
「貴重な良心をこんなところで浪費しないでください」
「これを解体するのは骨が折れた」
「肉だけにね」
「…」
「…」
「…」
「ずいぶん半端な額ですね」
「ん?」
2012円…
「こまかいやつだな。買うのか買わんのか、どっちだ」
「さっきおすそわけって言ったじゃないですか!」





いうわけで、例のごとくと言うべきか今年もまたと言うべきか、今年も細々とお付き合いいただきありがとうございましたの気持ちをこめて、ムール貝博士が狩ってきた得体の知れない肉を10名くらいの方に贈ります。気がつくと毎年の恒例行事になっている気がする。





こんなんでもほしいと手を挙げてくれる物好きなかたは、

1. 氏名
2. 住所
3. わりとどうでもいい質問をひとつ

上記の3点をもれなくお書き添えの上、dr.moulegmail.com(*を@に替えてね)までメールでご応募くださいませ。毎度のことだし、胸をはれるようなことでもないですが、競争率はそんなに高くありません。

締め切りは例によって12月31日の大晦日が目安です。が、枚数に届かない場合も大いにあり得るので、あきらめきれないバレンタインチョコのように、明けて3日くらいまではひっそりとお待ちしています。気軽に応募してみてください。(仮に抽選となった場合でも、いただいたメールには必ず返信しています)

ちなみに今年は「折り紙、新聞、ボールペン、消しゴム」というどの家庭にもあるチープな素材をもとにしているため、手作り感がハンパないことになっています。肉を吊り上げるクレーン部分にいたっては1枚として同じ柄がありません。(慣れない人からするとその手間に驚かれるんだけれど、特装版をひとりで500部用意したことに比べたら圧倒的に余裕というか、こんなのモノの数ではないのです)


応募してもらえるといいなあ…

(毎年毎年、ためらいながらおそるおそる発信しています)


 *


思い返せば今年も多くの人にお世話になりました。いまだに路上生活と背中合わせな身の上でありながらどうにかこうにか糊口をしのげているのも、ひとえにみなさまのおかげです。石高は一向に増える気配がないのに、一生かけても返せない恩だけが雪ダルマ式に増えていきます。でもいい年こいて日本海を眺めるためだけに日帰りで鈍行列車に乗る人生も、そんなにわるくないとしみじみおもう。

あれからだいぶ月日がたった今も、次のアルバムはまだですか、とときどきおたよりが届きます。そういえば古川さんにもさりげなくその話を振られました。いつもありがとう!心のどこかで「もう済んだ」というきもちがなくもないので、次の予定は今も全然ありません。でもそもそも名を成したくて始めたわけではないし、何から何までぜんぶ一人でやっていると却って辞める区切りも全然ないので(詩人としての活動がほとんどないのにぽつぽつとつづいているこのブログがその証です)、またみなさまのお世話になることもあるかとおもいますが、ほんのちょっとでもご愛顧くだされば幸甚です。来年もひきつづき、どうぞよろしくおねがいします。

今年は、えーとNEWSの加藤くんにアルバムを紹介してもらったことがいちばん大きなニュースでした。生きているといろんなことがあるものです。

みなさま、良いお年を!


2011年12月25日日曜日

安田タイル工業のホワイトクリスマス2011



そのメール(誤字あり)が届いたのは、まだ町にハロウィンの余韻が水たまりのようにちらほらと残る、11月半ばのことでした…




世界に向けて遠吠えを!

 あるかなきかの零細企業、あの安田タイル工業のクリスマスが1年ぶりに帰ってきた!

 2010年12月以来となる今回も、鈍行列車で行く牧歌的な旅に専務と社員、総勢2名の大所帯でくりだします。


「ただし今回は日帰りだ」
「ガッデム!」
「去年みたいにコーヒー飲み放題・朝食食べ放題・温泉付きで一人一泊2,500円の宿がそうそう見つかるわけないだろう!」
「言われてみればそうですね」
「その代わりクリスマスイブにふさわしい場所へ連れてってやる」
「日帰りじゃたかが知れてますけどね」
「そんなことはないよ」
「ホントですか」
「うむ。ただしスケジュールが分刻みだから遅刻厳禁だ」
「忙しないですね」
「下手をすると帰れなくなるんだ」
「いったいどこへ行くんですか」
「どこでもよろしい。とにかく池袋駅に6時だ、遅れるなよ!」


12月24日(土) AM 6:00 池袋駅構内


早速乗車して、うつくしい朝焼けに見送られながら出発です。
「きれいですね、専務」
「うむ。だが君の方がもっとうつくしい」
「キャッ専務ったら!」

(クリスマス仕様でお送りしています)



スタートしてからまだ15分とたっていないのに、専務が「今どこだ?」と言い出しました。
「どこって…まだ出発したばかりですよ」
「いや、赤羽で乗り換えなんだ」
「あ、そうなんですね。えーと今出た駅が…北赤羽です」
「お、じゃあ次っぽいな」
「そうですね、次は…アレ?」
「どうした」
「次は浮間舟渡です」
「赤羽はどこへ行った」
「…北赤羽の1つ前です」


いきなり乗り過ごした!


分刻みのスケジュールが出発10分で早くもガラガラと崩れ落ち、狼狽する安田タイル工業の面々。

「専務…」
「まあ何とかなるだろう。とにかく着けばいいんだ

着いたあとはどうするんですかという至極当然の疑問を丸呑みし、気まずい沈黙のまま列車は走りつづけます。


「あれ?高崎って去年も来ませんでしたか?」
「そういえば来たなァ」
「ひょっとしてまた峠の釜めしですか」
「釜めしはもういい。第一、新宿駅に売ってたじゃないか







渋川駅に到着する安田タイル工業の面々。ハクセキレイがお出迎えです。


「ここで乗り換えだ」
「ふむふむ」
「ただし次の電車まであと70分ある」
「長い!」
「赤羽を乗りすごした数分の影響が顕著に出てるんだ」

せっかくだからと駅前をうろつき出す安田タイル工業の面々。



はじめて来ても再会できるうれしいスナック



時代がエコであることを如実に物語る看板



さんざんほっつき歩いて今どのあたりなのか道を失い始めたころ、ふと気がついて専務に聞きました。
「電車来るまであと何分ですか?」
「えーと、あと…6分だ!」
「エー!」
「これはマズい」
「もうだいぶ遠くまで歩いてきちゃいましたよ!」
「走れ!」


70分もありながら再び乗りすごすかもしれないという奇妙な悪夢をぶじ乗り切り、おだやかに列車は走り出します。



オヤ…畑にまでクリスマス的な粉砂糖が…



とおもったらページをめくるみたいにいきなり白銀の世界へ



「なんか突然景色が白くなりましたよ!」
「唐突だったなァ」
「ここはどこですか」
「まだ群馬県だ」
「…まだ?




次の電車までまた1時間ばかりあるというので、ここでも町に繰り出します。水上といえば温泉で知られる観光地ですが、着くまで気づかなかったため観光気分が上乗せされてにわかに高揚する安田タイル工業の面々。赤羽でまちがいなく乗り継いでいればすでに2時間ちかく先を行っていたはずなのですが、あまりふかく考えないようにしています。



廃屋となったホテルを物色したり



まっさらな雪が積もる遊歩道に足跡をのこしたり



光の剣(@超人ロック)を手にしてみたり




このあたりで「そもそもどこへ何をしにきたのか」すっかり忘れています。



黄色い彼氏にオレンジの彼女が駆け寄る、重機的なカップルのクリスマス風景


再会



抱擁と接吻



合体



そして別れ




彼との思い出を豪快に捨てています



今しがた目撃した男女のドラマに何となくしんみりした気持ちを抱きながら、さらにその先へと向かう安田タイル工業の面々。



よく見ると手前にいる専務の髪がいつの間にか七三分けになっていて目を疑いますが、それはそれとして鉄道好きには地上の改札まで500段近い階段を歩かなくてはいけないことでよく知られた土合駅(トンネル内にあります)



雪景色はここからさらに加速していくのです




一面の白銀を見つめながら、安田タイル工業の行く末に思いを馳せる専務…






白く目映い風景に目を細め、気づけばよだれをたらしてぐうぐう眠りこけていたところを、タカツキ専務に叩き起こされます。

「起きろ」
「はっ、ねてました」
「見ろ」
「やや、ここは」


安田駅!
「われわれの故郷みたいなものだ」
「もしやここが目的地ですか」
「いや、通過するだけだ」


「次が最後の乗り継ぎだ」
「遠かったですね」
「腹ごしらえといくか」

三たび町にくりだす安田タイル工業の面々。


「専務、タイヤキです」
「見ればわかる」
天然物なんですよ!
「何がちがうんだ?」
「いっぺんに何十匹も同時に焼く養殖物とちがって、1匹ずつ焼いてるんです」
「ほう」
「東京じゃそれだけで話題になるくらい貴重な焼き方ですよ」
「それより『鯛やき』の文字変換バランスのほうが気になる」



鯛やきは後回しにして、地元のスーパーに突入する安田タイル工業の面々




(そういえば)クリスマスイブなのでツリーをひとつ購入



てきとうな中華屋の暖簾をくぐり、ふうふうと体を温めているところでふとたいへんな事実に気づき、目が釘付けになりました。


タカツキ専務の胸にクリスマスリースが!

さりげない気配りに目頭が熱くなり、「いや、ちがいます、この味噌ラーメンが熱すぎて…まいったな」と必死に涙をごまかすダイゴ主任



心と体の温まる腹ごしらえをすまし、一息に最終目的地へ



片道だけで約9時間を費やし、たどり着いた先は…



低気圧で荒れ狂う日本海です。




日本でいちばん海に近い駅のひとつ。


写真では全然わかりませんが、じつは激しいみぞれに叩き付けられており、よろこびにうち震えているのか、極寒にうち震えているのか、頭の中が真っ白という意味では確かにホワイトなクリスマスを堪能する全身水びたしの専務(極寒です)



それではここで、ふりしきるみぞれのなかタカツキ専務が世界に向けて放つ渾身の遠吠えをご覧ください。



「よし帰るぞ!」
「専務、なぜ山をのぼるのですか」
「次の電車が来るまで1時間、じっとしてろっていうのか?」
「でも、なんかさっきにも増して吹雪いてきてますよ」
去年だって吹雪いたろうが!妙義山で!」



このあと、安田タイル工業の面々は去年とは比較にならない猛吹雪に見舞われ、体の前面に雪が積もった状態で極寒のなか本気でずぶ濡れになり(写真をとる余裕すらない)、ぼたぼたとしずくを垂らしながら仮死状態で電車に乗りこむことになるのですが、それはまた別のお話…



♪パ〜パラララ〜(エンディングテーマ)


 飽くなき探究心と情熱を胸に、安田タイル工業は今後も逆風に向かって力強く邁進してまいります。ご期待ください。


 安田タイル工業プレゼンツ
「東京から日帰りで行く聖なる夜の日本海」 終わり




おまけ:ホントに日帰りでした。