2023年6月30日金曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その395


アレサトランポリンさんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)


Q. 電車内でのスマートな席の譲り方を教えてください。


あ、これは僕に訊いても何の参考にもならないやつですね。なんとなれば僕はもうだいぶ以前から、よほどスッカスカでないかぎり、電車の席には座らない男だからです。絶対にとかでは全然なくて、ひどくへとへとだったり、誰かと一緒だったりしたら逆に気を遣わせてしまうので普通に座るけれども、基本的に座ることを求めていません。少なくとも一人で移動のときは仮に席が空いていてもだいたい立っています。

というのも、長年電車を利用してきて、座れるかな、座れたらいいな、座れなかったな、空くかな、あっ空いた!とかそういうことを考えるのにほとほと嫌気がさしてしまったからです。待てよ、なぜそうまでして座る必要があるんだおれは?とある日うっかり自問してしまったわけですね。

その結果、同じ距離を歩いて移動するよりは断然速くて楽なわけだし、あれこれ考えたり気を遣わなくてすむし、今のところは座らないとアラートが鳴る体でもないし、べつに立ったままでもいいか、と考えるようになりました。本当に必要な人が座れるならそのほうがいい。

おかげで今では空いてる電車も混んでる電車もあまり印象が変わりません。どのみち立っていることには変わりないので、広いな、とかちょっと人が近いな、とおもうくらいです。今の僕にとっては動く歩道みたいなものなのかもしれません。1時間くらいだったら問題なしです。僕としてはとにかくめちゃめちゃ気が楽になったの一言に尽きます。ときどき座れることよりも圧倒的にストレスフリーで、何ならずっと快適です。

しかしこれでは何の回答にもなっていないので、ここはひとつ考えてみましょう。

席を譲るのに気を遣ったりためらったりしてしまうのは、口下手で声をかけるのが得意でなかったり、思いのほかいろんな理由で断られる可能性がなきにしもあらずだからです。個人的には席を譲られたらどうあれ受け入れて座るのが譲るのと同じくらい大事なマナーという気がするけれど、断る側も断る側で申し訳なく思っていたり、すぐ次の駅で降りることもあるので、それは考えても仕方がありません。

だとすればどう考えても最善なのは、目の前に立つ人と知らぬ間に体が入れ替わっていることです。目にも留まらぬ速度で入れ替えてしまい、何食わぬ顔でスマホの画面をスクロールでもしていれば、譲られた当人以外は誰も気づきません。コミュ力を必要としない点でも文字どおり言うことなしです。

とはいえ具体的にどうすればそんなことが可能なのかちょっとイメージしにくいとおもうので、参考までにMARVELにおける最速のヒーロー、クイックシルバーの動画を載せておきましょう。こんなふうにやるのです。


為せば成ります。がんばってください。


A. クイックシルバーみたいな所作を身につけることです。




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その396につづく!

2023年6月23日金曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その394


ちょっとGPTさんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)GPTは牛乳パン玉子、もしくはごめんパンツ取っての略です。


Q. 最近ささくれが多くてよくちぎってしまいます。ささくれはちぎると血が出たりして痛いです。なのでちぎったことは絶対に後で後悔します。それでも何度も繰り返しちぎってしまいます。後悔するってわかっているのに何度も同じ過ちを繰り返す、それは人類が歩んできた歴史にとても似ていると思います。そこで僕は、全人類が指のささくれをちぎってしまうのを我慢出来れば争いが起こらない平和な世の中になるのではないか、と考えました。なので世界平和のためにささくれをちぎらない方法を教えて下さい。


ふむふむ、ささくれをむしりさえしなければ、争いも起こらず、世界が平和になるというわけですね。おっしゃる通りです。世の争いごとは元を辿ればすべて誰かのささくれに起因していると言っても過言ではありません。そして人の指先には例外なくささくれができます。何千年たっても問題が尽きないのも道理です。

しかしそれさえわかればこっちのもんだという気もするので、いくつか考えてみましょう。


1. 迷信をすりこむ

一般的にはどうなのかわからないけど、僕が子どものころは「ミミズにおしっこをかけるとちんちんが腫れる」という迷信がありました。これには超常的な驚きとインパクトがあって、かなりの抑止効果があったとおもいます。なんとなれば、そんな心配をしてまでやるほどのことでは全然ないからです。

これに倣って、たとえば「ささくれをむしるたびに終末時計の針が進むよ!もう残り1分半なんだからね!ひとむしり1秒だよ!となるべく幼いうちにすりこみましょう。そうはならないと思っていても、むしろうとするたびにいちいちそんなイメージが思い浮かべば誰だってイヤになります。平和との関連性という点からしても、ちょいちょい終わりかけの世界を憂えることになるわけだし、わりと理にかなっている気がしないでもありません。


2. 腕をサイボーグ化する

しかし子どもはともかく、大人になってからではそうそううまくいきません。ここは思い切って、腕をサイボーグ化しましょう。指先だけでいいじゃないかと思われるかもしれませんが、その切り口にささくれができないともかぎらないし、指先だけでは機械化の甲斐もあまりありません。いっそ腕ごとチェンジが見た目もよくて最善です。

ただ平和との関連性で言うと攻撃力が意図せず大幅に上昇し、握手ひとつで相手の手を粉砕してしまう可能性も否定できないので、やや注意が必要です。でもささくれはなくなります。


3. 精神を鍛える

でなければ、精神を鍛えることです。むしらないだけの心の強さを持てればそれに越したことはないけれど、それができなくて苦労するわけだから、それよりむしっても動じない精神力に焦点を当てたい。

むしっても血が出てもその痛みをモノともしない強靭な心があれば、いずれささくれのほうが根負けします。ささくれからしたら痛みも血も感じない人を相手にすることほどつまらないことはありません。頼まなくても向こうから匙を投げてくるでしょう。

ただこれも平和との関連性で言うとほぼ根性論であり、またかつて日本が積極的に関与した戦争がこの非合理的な根性に依拠していたことを考えると、やはり注意が必要です。でもささくれはなくなります。


4. やさしくする

ささくれができるのは多くの場合、指先が乾燥しているからです。日々摂取する栄養や、新陳代謝のサイクルなんかも密接に関わってくるでしょう。だとすれば食生活や習慣を改めて見直し、ハンドケアに気を配ることがいちばんの近道ということになります。

いかにも訳知り顔の大人がドヤ顔で出してきそうな最悪の回答ですが、平和との関連性から言ってもおそらく最も理にかなっています。誰も気に留めない指先に心を注げる心の持ち主が平和的でないわけがありません。

僕自身はぜんぜんできていないししてもいないけれど、ふだんから爪を磨く習慣のある人の手はネイルやマニキュアをしなくても本当にきれいです。純粋な美と、それからやさしさがここにはあるとおもう。

そうは言っても自分さえ美しければ他人はどうでもいいという人も少なからずいるので、やはり注意は必要です。もたらす結果は他の例と大差ない可能性もある。でもささくれはなくなります。


5. 結論

現時点で僕がこれさえなくせればだいぶ状況が変わると考えているのはたとえば、呵責罵倒唾棄軽視です。一般的に正しいとされる側にいる人たちも、そうでない人たちと同じくらいこれを用いる印象があります。率直に言って、僕もそうです。だからこそなるべく胸に留めておきたい。

その上で、ささくれをむしるのは誰かを責めたり、罵ったり、見下すことと同じだ、と考えてみましょう。その誰かは他人かもしれないし、自分かもしれない。とりわけささくれにおいては、傷つけるのも傷つくのも自分です。自分を大切にすることなくして誰かを大切にすることなど絶対にできません。そのことに気づきさえすれば、いずれ自然とむしる頻度が減り、巡り巡って世界も平和になるんではないかとおもいます。


A. 個人的にはサイボーグ化がおすすめです。




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その395につづく!

2023年6月16日金曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その393


ファイナルファンタオレンジさんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)


Q. 30代になり、さいきん歳をとるのがこわいです。歳をとって良かったなってことがあれば教えていただきたいです。


これはもう、単純かつ明快に断言していいと思いますが、歳をとるのがこわくなくなることですね。

歳をとるのがこわいのは、ある時点から下り坂に転じる印象があるからかもしれません。そしてそれはまあ、概ね事実です。それまでずっと上り坂だったのにすぐ先に下り坂が待ちかまえているとしたら、それは誰だってこわい。ジェットコースターと同じです。

しかし実際のところ、ジェットコースターは下り坂に突入してからが真骨頂です。下り坂のまま地面に激突して死ぬわけでは絶対にないし、「あのガタゴト登るとこまでは楽しかったのになあ」と振り返る人はまずいません。だいたい、下り坂にならないと「うおわああああああ」と絶叫することもできないのです。「歳をとるのがこわい」までが序の口である、と言い換えてもよろしい。

歳をとってからのほうが楽しいよ、とまではさすがに正当化のニュアンスもありそうで言いたくないけれど、年齢を感じるより以前に想像していたほど単純なものでは全然ない、いやもうホントに、全然、まったく、1ミリもないよ、とは請け合えると思います。

例えば僕がリーディングを始めたのは、20代も半ばを過ぎてからです。トラックを作り始めたのはもっと後で、1枚目のアルバムをリリースしたのは30手前です。誰がどう見ても、圧倒的に遅い。こう言っちゃなんだけど、10代のころからバンド活動をしていた人が音楽と距離を置いてもおかしくないくらいの時期です。そしてその時まで、というのはつまり、20代後半まで楽器もできなければ歌も歌えないじぶんがどうあれ音楽的な活動に携わるとは想像もしていませんでした。そこからさらに20年たって、第一線で活躍するミュージシャンと共に作品をこしらえたりしているのだから、それこそ想像を絶するものがあります。30代でもそんなことは考えていなかった。というか、まだ人前でライブをすることがあるとはなあ、と他人事みたいに驚いてるとこさえある。

そう考えると、こわいどころの話じゃないですね。まじでいったい何をやってるんだろう。今ごろになって背中に冷たい汗が流れます。そんなこと言ったってもう、どうにもならないんだけど。

もっと若いうちからいろいろできる人もいっぱいいるし、そうできたらよかったな、とは思わないでもないけれど、一方で何度やり直してもたぶん同じタイミングになるんだろうな、という気もします。そこは本当に、人それぞれです。人生も終盤になってからとんでもない花を咲かせる人もいます。ですよね?

この先に何が起きてどうなるのか知る由もないという意味では、僕は今でもこわいです。いつ伴侶に見捨てられるかわからないし、明日ぽっくり死ぬかもしれない。それはいつも胸に刻むようにしています。

でもそれも含めて「ま、しゃーねーな」と思えることがまた、歳をとって得た大きなもののひとつかもしれません。

正直、30代なんて後から振り返ったらそれほど惜しまれるもんでもないですよ。大体ちゃぶ台のひっくり返し甲斐があるほどの蓄積や重みもまだそんなにないし、その甲斐があるのはむしろこれからです。腕まくりをして備えましょう。


A. 歳をとるのがこわくなくなることです。




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その394につづく!

2023年6月9日金曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その392


スローな麦にしてくれさんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)


Q. オーヘンリーの魔女のパン、大吾さんはどう読みますか?


「魔女のパン」とはまた、渋い一編をチョイスなさいますね。僕も好きです。

ご存知ない方のためにこの掌編をざっくり説明すると、パン屋を営む独身の中年女性が主人公です。店にはいつも古いパンだけを買う男性の常連客がいて、彼女は彼のことが気になっています。

彼女の見立てによるとその男性は芸術家で、食べるものにも困っているようです。日々の観察によって、彼女の妄想は捗ります。やがて彼のことを理解できるのは自分だけかもしれないと確信するようになるのです。そうだ!と彼女はある日ひらめきます。彼がいつも買う古いパンに、こっそりバターを挟んでおいたらどうだろう?思いがけない贈り物に、きっと彼はびっくりして、そして……と、彼女の胸はときめく一方です。何食わぬ顔でバター付きのパンを渡すという恋の電撃作戦を遂行した翌日、いつもより素敵な服を着て、いつもならしないお化粧をして、喜びに満ちた彼の来訪を待ちます。

ここまでくれば大体おわかりかと思いますが、話は考えうるかぎり、最悪の結末を迎えます。一体何が起きたのか、気になる人は青空文庫にもあってとても短いので読んでみてください。

はっきりしているのは、彼女が夢のような恋のために着ていた可愛いオシャレなブラウスを全力で脱ぎ捨て、自ら調合したスペシャルな化粧品を全力でゴミ箱に投げ捨てたことです。わかるわかる!そりゃ誰だってフルスイングでぜんぶゴミ箱にぶち込むことになるでしょう。

僕が好きなのはまさにこのシーンです。ここに彼女の彼女たる所以がすべて詰めこまれています。

実際のところ、この物語における被害者は、圧倒的に男性客です。店主である彼女の「思いやり」によって、彼は大きな仕事を失う羽目にもなっています。なぜ自分がこんな目に遭わなくてはいけないのか彼にはさっぱりわからないし、気の毒すぎて目も当てられません。

にもかかわらず、店主である女性は「自らの行為が何の罪もない人の希望を奪った」とは、おそらく考えていません。この物語を読み終えて残る余韻は悲しみや反省よりも、むしろ忌々しさです。作中のどこにも書かれていないけれども、彼女の最後のセリフをあえて書き足すとしたら「紛らわしい!!」だと僕はおもいます。

男性の気持ちに寄り添うなら「ごめんなさい!そういうつもりじゃ全然なくて、わたしはただ…」とひたすら弁解して許しを乞うルートもあったはずですが、そんな印象は全然ありません。

つまりこれは徹頭徹尾、彼女による一人芝居なのです。一方的かつ身勝手で、何なら失望さえしています。念のためお断りしておくと、男性客は誤解されるようなことを一切していません。ただ古いパンを買っていただけです。

勝手に想像して勝手に思いこんで勝手に期待して勝手に失望する、これはそういう人を皮肉り一刀両断する物語です。

とくに中年以降になるとそういう人、いますよね?

したがって僕はこれを、オー・ヘンリーの中にある「いいかげんにしてくれよまじで」を形にした物語である、と解釈します。

その証拠に、原題は "Witches' Loaves"、つまり「魔女たちのパン」です。複数形であることに注意していただきたい。

この物語における「魔女」はもちろん、パンにバターを挟むことで恋の魔法をかけたつもりでいた彼女です。それなら単数形だって何の問題もないというかむしろそのほうが自然なのに、なぜわざわざ複数形にする必要があるのか?

皮肉の対象がある一人の人物ではなく、「そういう人々」だからです。

勝手に想像して、おせっかいを焼くのはやめてくれ、というわけですね。

もう、絶対そうでしょこれ、と個人的にはおもうけど、とはいえあくまで僕はこう読み解くというだけのことなので、あんまり真に受けないでください。

こうならないように気をつけたいものだなあ、としんみりする点で教訓はある……けど一方で別に救いがあるわけでもないあたりが、いかにも人生という感じで、そこが好きですね。僕はとんだ目に遭った男性客の味方です。そして好意も、なるべく相手に寄り添ったものでありたいといつもおもう。


A. 余計なおせっかいを焼く人々に対する皮肉だとおもいます。




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その393につづく!

2023年6月2日金曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その391


あこぎのアンさんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)


Q. うまれたてのひよこがすぐ歩けるのはなぜなのでしょうか?私は生まれてから歩けるようになるまで結構苦労した覚えがありますが。


日々の糧を狩猟でまかなっていた大昔ならいざ知らず、天下一品でこってりラーメンなんかを啜る現代の人類はどうしてもこのことを忘れてしまいがちですが、基本的にこの世は食うか食われるかです。そしておよそすべての動物は、この世に生を受けたその瞬間から、捕食の対象となります。例外はありません。

動物たちにとって、生とは一貫して試練と至難の連続です。「あら〜笑ったわ〜」「ハイハイができた〜」「いないいないばあ〜」とかのんき極まりない子育てをしている動物はヒト以外にありません。普通はそんなことをしている間に他の動物に食われます。

成獣よりも幼獣のほうが圧倒的に狙われやすいことを考えれば、生まれてすぐ歩けるというのはその後を生き抜く上で最低限の必要条件である、と言ってもいいでしょう。したがってひよこがすぐ歩けるのは至極当然かつ真っ当なことであり、僕に言わせればむしろ生まれてから半年以上たってもろくすっぽ歩けないヒトだけが例外かつ異常、ということになります。もしヒトに天敵となる捕食者がいたら、こんなちょろい獲物も他にないはずです。

しかし今でこそ野獣に食われる心配のないヒトもまた、かつては他の動物たちと同じように弱肉強食の食物連鎖に組み込まれていたわけだから、ひょっとするとそのころのヒトは今とちがって生まれてすぐにヒョイヒョイ歩けたんじゃないかと個人的には思います。なんなら2、3ヶ月で喋りだして自ら身を守る術を学び、天敵との体格差を知恵で補い、ブービートラップを設置して闘わずとも勝利を収めるようになり、1歳になるころにはいっぱしのハンターになっていたかもしれません。

今ではちょっと想像しづらいかもしれないけど、数百年前の大人は今よりずっと若い14、5歳だったわけだし、そこからさらに数万年遡るとしたら、あながち荒唐無稽とも言い切れないですよ。より切実に、生き抜く必要のある時代ですからね。


A. 歩かないとすぐ食われるからです。




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その392につづく!