2021年3月26日金曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その318



みんなのふたさんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)


Q. 竹取物語において、かぐや姫は帝のことをどれくらい好きだったと思いますか?


のっけから夢を派手にぶちこわすようでちょっと気が引けますが、結論から言うとべつに好きでもなんでもなかった、と僕は考えます。

そのことを帝との関係性から見てみましょう。

ご存知のように竹取物語は、光る竹から出てきた女児が美しく育ってめちゃモテたあげく月に帰るお話です。ストーリーは求婚した5人の公達が姫に渡された無理難題とどう向き合って退けられたかに多くの筆が割かれています。

帝の登場はその後です。そこに描かれている帝との関係をざっくり列挙してみると、5人の公達とちがって帝には(1)難題を出さず(2)3年間文通をつづけ、地上を去るときに(3)「悪い印象を残してしまうことが心残りです」と手紙に書き添えて、(4)不死の薬を形見に残す、という流れになります。

もしある程度の関係性ができあがっている段階であれば、5人の公達とちがって難題を出さない、という点にも何かしら好意的な思惑を見て取ることもできたかもしれませんが、初見から姫を文字どおり力づくで連れ出そうとしていたくらいなのでそれはありません。最高権力者に難題など出してもムダと考えるほうが無難でしょう。

かぐや姫が帝に思いを寄せるだけの重みを持ったエピソードはどこにも書かれていない、という点にも注意が必要です。そもそも初見でむりやり連れ去ろうとするような相手に恋心を抱く理由があるだろうか?

そこで唯一その根拠となりそうなのが(2)3年間文通をつづけた、という部分になるわけですが、ここで何か前向きな心が育まれた可能性はもちろんあります。ありますが、それでなくとも相手は最高権力者です。どう考えても無碍にはできないし、ましてやうざいからと気軽に打っ遣れるような対象ではありません。なのでどちらかというとこのやりとりはかぐや姫のやさしさ、細やかな気配りの表れであり、仮に恋心がなくともかぐや姫ならせっせと手紙を送ってくる帝に対して誠実に応対しつづけただろう、と僕にはおもわれます。べつに恋まで発展してもいいけど、しなくてもできる、ということですね。

それよりもはるかに「おっ」とおもわせてくれるのは月への去り際に(3)「悪い印象を残してしまうことが心残りです(なめげなる者に思しめし留められぬるなむ心にとまり侍りぬる)と帝に書き残している点です。好意を抱いていないのであれば、早くしろと急かす天の人に「そういうこと言わないの(もの知らぬことなのたまひそ)とまで言ってわざわざ書き残す必要はありません。ただ「ごめんね」と言って去れば済む話です。これちょっと何かあるんじゃないの?と勘ぐるだけの余地はあります。

そしてその印象をさらに後押ししてくれるのが(4)不死の薬を形見として残したくだりです。形見とはいえ地上には存在しないものをプレゼントとして贈るというのはアクションとしてもかなり特別であり、最も期待値が高いようにおもわれます。不死とかまじチートすぎるし、本命感めちゃある!


言いたいところですが、その前に僕はこの「不死の薬」という部分に大きな疑問を抱いています。本文にも不死の薬とあるにはあるのだけれど、よくよく考えるとなぜそれを不死の薬と断定できるのか、腑に落ちないのです。

天の人は姫にただ「壷のお薬をどうぞ(壷なる御薬奉れ)と言うだけです。月ではふつうにあってふつうに飲むものらしいからわざわざ不死のとも言いません。またそれにつづけて「汚れた土地のものを口にしていたから気分が悪いでしょう(穢き所の物聞こしめしたれば御心地悪しからむものぞ)とも言っています。

不死の薬ってそんな酔い止めみたいに飲むもんなの?

よろしい、百歩譲ってここは不死の薬だったとしましょう。では地上に愛着を抱いて去ることを惜しむかぐや姫が、地上にはない不死の薬を良いものとして大切な人に贈るだろうか?

かぐや姫は地上の日々において月世界とはちがう命のありかたと儚さ、そのよろこびを知ったはずです。そして不死を知るならなおのこと、まわりがどんどん亡くなっていくのに一人だけ生き続けることのむごさも容易に想像できるはずです。尋常ならざる知性と細やかな気遣いに満ちたかぐや姫がそのことに思いが至らなかったとは、さすがにちょっと考えにくい。

したがってそれは不死の薬というよりむしろ「心身を健やかに整える(=死を遠ざける)薬」、もしくは万能薬だった、というのが僕の結論です。

是非はさておき薬が本当に不死をもたらすものでそれを一人に贈った場合、そこには他の人に抱くのとはちがう特別な感情があったと考えることもできましょう。しかし万能薬だった場合、話はがらりと変わってきます。

なんとなれば「これ以上自分のことで思い煩わせるのは忍びない」という、純然たる労りからのアクションだった可能性が浮上してくるからです。そして僕としてはこっちのほうがよほど筋が通っていて、断然しっくりくるようにおもえます。

帝ひとりに贈ったのも彼が国の最高権力者だからであり、彼の不調は民を不幸にする事態にもつながりかねません。言い逃れできないほど明らかにその原因であるかぐや姫が彼にどうか立ち直ってほしいと願うのは、ごくごく自然なことです。

いずれにしても先に挙げたうちの(4)は、もはやそれほどスペシャルではない、ということになります。

そうなると最後の拠り所は(3)の「悪い印象を残してしまうことが心残り」という、ちょっとちょっと、そんなこと気にするなんてやっぱアレなんじゃないの、ラブなんじゃないの?と肘でぐいぐいやりたくなるくだりですが、じつはこれも「せっかくいい友人になれたのに」というかなしいほどシンプルな但し書きひとつで事足りてしまいます。3年もの間手紙で通じ合っていたのだから、恋などなくてもそう思うことに不思議はありません。

要は全体的に、姫が恋心が抱いていたと断じるには根拠が薄弱すぎるのです。

そしてまた仮に3年の文通でじつは恋が育まれていたとするなら、今度は逆に別れ際が物足りなさすぎます。個人的にはラブコメ大好きなので、もうホントまじでぜんぜん、物足りない。もっとありそうなもんでしょうが、他にやりようが、いろいろとおおおおお!!!と言いたい。天の羽衣着て「すーん」となってしまった姫の様子なんか聞きたくないし!富士山のてっぺんで手紙燃やして終わりにしてんじゃないよ!!と言いたい。

そんなこんなで、んもおおおおおお、とかのたうち回るくらいなら、「べつに好きでもなんでもなかった」という解釈のほうが姫のカッコ良さも際立ってよほどアリだと、僕なんかはおもいます。

こちらからは以上です。


A. べつに好きでもなんでもなかったとおもいます。




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その319につづく! 

2021年3月19日金曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その317


オズの無法地帯さんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)


Q. 好きな女の子の仕草は何ですか?


たぶん生まれてこのかた考えたこともない問題です。たしかにそういうのはある……気がする……し、実際キュンとすることもあるような気がするんだけれど、ただ僕はハゲ散らかした冴えないおっさんが公園のベンチでひとり手作りとおぼしき弁当を食ってるだけでキュンとするような男なので、ある特定の仕草、さらに女子のとなると鳩が豆鉄砲を食ったような顔をするほかありません。

好ましく感じる女子の仕草というのはつまり、言ってみれば女性らしさを感じる仕草、ということですよね。

つらつら考えてみるに、僕はそもそも女性らしさというものに対してある種のコンプレックスを抱いているところがあります。もうすこし正確に言うと女性らしさそのものではなくて、必然的にそれと対になる男性らしさに対してですね。

女らしさを持ち出すなら当然、男らしさもまた避けて通ることはできません。そして僕はこの男らしさというものをろくすっぽ持ち合わせていない、というか持ちたいとすらおもったことがないので求められても困るし、それゆえ女性にもらしさを求めていないのです。あったらあったで素敵だけど、なくても全然困らない。

ないとは言いません。実際あるとおもうし、ふだん意識していないだけでちょっとした仕草にキュンとしているかもしれないので、ひとまずじぶんの性質を脇に置いておいて客観的に何かあるかなあとひとしきり考えてみたところ

ぜんぜん何も思い浮かばない。

待って待って、好き嫌いを別にしても、女子特有の仕草って言うほどなくないですか?

「女の子 仕草」でググったら出てきたCanCamによる女子のモテ仕草ランキングでも(まあ、こういうことですよね、おそらく)、「髪を耳にかける」とか「上目遣い」とか、一部わかる気はするものの、「鎖骨」「浴衣」と仕草ですらないものまで含まれていてびっくりするほど参考になりません。上目遣いなんて人差し指と中指で目潰ししてくださいと言ってるようなもんだし、髪とかそんなん、男子もそうじゃん?ちがうの?

と、ここでふと安田タイル業(諸事情により一時的に社名を変更しています)の専務が思い浮かびました。

ああ見えて弊社の専務は「女子たるものこうあってくれたらうれしい」の揺るぎない権威なので(もちろん「男たるもの」にも一家言ある)、見解を賜るにはうってつけの人物です。


ぐうの音もでないほど、じつにその道の権威らしい見解です。しかしもっとあるかと思いきや、意外とありません。冷静になってみると「腰クネ」も何だかわからない。日常にそんな仕草あるか?

こうなると逆に、「女子の魅力的な仕草一覧」がほしくなってきます。ずらーっと並んでたら不甲斐ない僕でも選べるかもしれません。

とはいえ専務言うところの「やだあとか言って肩触ってくるやつ」はたしかに男子にはなさそうなアレだし、僕でさえ忌々しいけどわかるとおもえるアレなので、今日のところはこれを回答にしておきましょう。

僕自身はどちらかというと「やだあじゃねえよ馬鹿野郎」と激昂するタイプですが、せっかくなのでこれを機にすこし歩み寄ってみようとおもいます。よかったらやだあとか言って肩触りにきてください。


A. 「やだあとか言って肩触ってくるやつ」です。




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その318につづく! 

 

2021年3月12日金曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その316



あしたのジョーズさんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)ボクシング好きのサメが燃え尽きて灰になる不朽のパニック映画ですね。


Q. あと3ヶ月ほどで、大学生という就職猶予期間が終わり、毎日汗を光らせながら働く日々が頼んでもないのにやってきます。ムール貝博士が、そのような楽しくもないことに時間を使う際に心がけていることはなんですか。


ふむふむ、年末にいただいた質問なのでこれはつまり、この春から社会人になるよということですね。まず最初にお断りしておくと、ムール貝博士は昔も今も、楽しくもないことにあたら時間を費やすような御仁ではありません。といってまともな社会人だったためしなどついぞない僕がそれに答えるのも道ばたの草に相談するのと大差ないしどうかとおもいますが、しかしまあ他に代わりもいないので道ばたの草なりにお答えしましょう。

はっきりさせておいたほうがよさそうなのは、就業時間にかぎらず、そもそも人生は初めから終わりまで楽しくもないことに使う時間のほうが圧倒的に多い、ということです。

ゴミを出す時間もそうだし、食後に皿を洗う時間もそうだし、ほどけた靴紐を結び直す時間もそうだし、役所や病院で待たされる時間もそうだし、映画館で席について予告編が始まるまでの時間もそうだし、レジで並ぶ時間もそうだし、しゃっくりが止まるまでの時間もそうだし、信号が青になるまでの時間もそうだし、電話をかけて相手が出るまでの数秒だってその範疇に入ります。それらの対価に比べたら汗を光らせながら働く日々なんて、金のなる木みたいなものじゃないですか?

心がけもへったくれもありません。日々とは真っ直ぐに伸びる1本の単調な道であり、たとえ景色がどれだけ荒れ果てていようとそこに道があるなら僕らはただ歩みを進めるほかないのです。

そしてだからこそ、楽しいことが心の底から楽しく感じられるのだ、と改めて肝に銘じましょう。

あと、そうですね、ちょっと荒療治になりますが個人的にオススメなのは、家賃を払えなくなったり、電気・ガス・水道といったライフラインを止められる窮地にぶち込まれてみることです。かつて僕もひととおり経験していますが、一度でも経験すると当たり前の日々を当たり前に過ごせることの偉大さをイヤでも痛感させられるし、それに比べたら楽しさなど栄養素における糖分みたいな位置づけにすぎないことがよくわかります。糖分はあればひたすらありがたいものであって、ないと嘆くようなものではないのです。

道ばたの草に相談するとこうなるという典型的な回答になっているとおもいますが、訊く相手をまちがえたということで大目に見てやってください。


A. ライフラインを維持できる喜びを知りましょう。




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2021年3月5日金曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その315



ころぶハウスさんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)スネに傷のある者だけが集まることで話題をかっさらうもすでに下火になりつつあるらしい招待制のSNSですね。


Q. これまで実際に見知った中で、最も珍しい苗字は何ですか?


いただく質問、というかこれまでブログ維持のために半ば力業で徴収してきた質問には僕自身が他の人にも訊いてみたいものがあって、これなんかもそのひとつですね。小鳥遊(たかなし)さんとか、ホントどこにお住まいなんだろうとおもう。

と書いて思い出したけど、あれ?

通りすがりにどっかの表札で見たことある気がしてきたな……「あーっ!いたー!」って声を上げた記憶がかすかにあるような……。でもすごい古い記憶だな……。いつだったろう……。どこかの踏切のそばで見かけた気がするんだけど……。

ただこれ、というのはえーと、珍しい姓のことですが、言うまでもなく日ごろから交流が多くて顔の広い人ほどそれに比例して増える話なので、弔問客のいない葬式を今から恐れる僕のようなタイプには向かない質問でもあります。

また難しいのは、珍しければ珍しいほど特定されやすくなってしまうので、あんまり気軽に言うのも憚られる点ですね。

僕もひとり、それはもう圧倒的に珍しい姓をお持ちの方を存じ上げているのだけれど、現時点でまだほそぼそとつながりがあって、どこにどう影響があるか想像もつかないのでうっかり「ホニャペタラ崎さんです」とか言うこともできません。

かろうじて言えそうなのはその由緒が古墳時代(!)まで遡るらしいこと(そのころからあったわけではありません、もちろん)、そして全国に200人前後しかいない(!)らしいこと、明治政府によって漢字の変更を余儀なくされたらしいこと、くらいです。

それまで見たことも聞いたこともなかったので最初は大陸系の姓なのかな、とおもったほどですが、といってそのときはまだ実際にお目にかかったことがなかったので訊ねることもできず、お会いしてようやく合点がいった次第です。誇りであると同時に重荷でもある、とそういえば仰っていましたね。

それから、今となってはあまり思い出したくもない昔のことですが、「伝(でん)」さんという人がいました。漢字が旧字だったような気もするけれど、何しろ古い話なので記憶が曖昧です。その姓自体が珍しいとおもうので、フルネームとなるとたぶん世界に一人しかいないんじゃないかとおもう。あちこちでちょいちょい見かけて誤認もざらな小林大吾とはえらい違いです。

あと、そうですね、個人的にすごく好きな姓に「小麦田」があります。名札で認識しただけなので「こむぎ」なのか「こむぎ」なのかすら判然としないのだけれど、たまたまその男性が、なんというかもう、本当に小麦田さんというかんじのドンピシャぶりでとにかく一方的に好感を抱いていたのです。色白で、ぽちゃっとしていて、ほどほどに中年で、裏表のなさそうな、目がちっちゃい、朴訥な印象の、何しろ小麦田しかないと言うほかないレベルでピタッとはまっていて、そうですね、常から小麦粉に対して並々ならぬ敬愛を注いでいる僕からすると小麦粉の妖精と言っても過言ではないくらい、非の打ち所なくパーフェクトに小麦田さんだったことを、今でもよく覚えています。

とここでふと思い立ってググってみたところ、予想もしていなかったあまりの衝撃にくわえてもいない煙草をポロリと口から落とすわたくし。

ぜ……

全国に20人だと……?

レッドデータブックに記載されてもおかしくない絶滅危惧姓じゃないか……!いまだかつてこれほど千載一遇の機を逸した経験があったろうか……?

ぐああああああこんなことなら勇気を出してお声がけして知り合いになっておけばよかった……!!!まじか!小麦田さん……!!!!


A. 「小麦田」です。


ちなみに通りすがりの表札で見かけて、行き過ぎてから「え?」と二度見した姓がひとつあります。つい写真を撮ってしまったけどそれをここに載せるわけにもいかないので、字だけ置いておきましょう。読み方は今も不明です。




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