2012年2月26日日曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その102


バケットホイールエクスカベータさんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)名にし負う、世界最大の自走掘削機ですね。


Q: 整数同士の計算で好きな式はありますか?自分はベタですが "8+7=15" が言葉では説明できないのですが美しいと思います。


こんな問題について考える機会がはたしてこの先の人生に何度あるのか、かなりユニークな質問です。以前ミス・スパンコールに「アルバム制作中に消費したシェービングクリームの量」を訊かれたときもだいぶ面食らったけれど、負けず劣らず鳩に豆鉄砲的なものがあります。それに「美」とは何か、すこし考えさせられるようなところもある。なかなか向き合い甲斐のある問題と言えましょう。いろいろな物の見方があるものですね、しかし。

とりあえず僕がいちばん気になっているのは、質問それ自体よりもむしろその直後にある「ベタですが」という但し書きです。これはつまり、この整数式が「ベタである」と認知されるような、下手をするとありきたりで取り合ってもらえないような、そんな世界がどこかにあるということですよね?すくなくとも僕には未知の世界であり価値観なので、根掘り葉掘り聞き出したくてしかたがありません。興味津々です。ベタではない数式とは例えばどんなものなのか?そしてその価値基準と美しさはどこにあるのか?言葉にしづらいならなおのこと、おいそれとは伺い知れない美の深淵が、ここにはありそうです。数式に対する審美眼をもうすこし磨いておけばよかったとおもう。

言葉では説明できないとありますが、しかしむしろそもそも、それゆえにこそ美しいのではありますまいか。どう受け止められようと揺るがない確信があるのなら、それで十分、胸を張る理由になるはずです。

いささか飛躍した話をすると、たとえば3枚目のアルバムに収めた「火焔鳥451」はエロ本を捨てた男のペーソスが前面に立っていて、格別それで支障もないんだけれど、実際のところ僕自身の焦点としてはそれこそ「美」そのものにありました。何となれば、卑俗なモチーフほど美を匿いやすい場所はないからです。それを解き放つとしたらそれはやっぱりどうしようもない俗物でなくてはならないし、しょぼくれた幻想であればあるほど、圧倒的な美に反転したときのカタルシスはきっと大きい。

でも、(それが成功しているかどうかはともかく)そうして意図したところの美しさとその理由を具体的に説明するとなると、これはすごく難しい。僕にできるのはただ、どうしようもない俗物が美に対して絶句する様子を描くことだけです。美しさとはそういうものだし、かくあるべきだし、したがってかくもたよりないものと言うほかありません。あれだけ言葉を尽くしていても、せいぜい対比からその偉大さをうかがわせるくらいが関の山なのです。



風呂敷広げすぎた。



整数同士の計算と言えるのかちょっと心許ないですが、"3²+4²=5²" という式だけは昔から座右の銘のひとつと言ってもいいくらい好きです。要はピタゴラスの定理が好きなんだけど、なぜこれが座右の銘になるのかは話すとまたものすごく長くなりそうなので、また今度にいたしましょう。僕にとっては、何かものをつくる際の基本原理なのですね。

他に好きなのあるかな、とおもって数字をぜんぶ書き出しながらあれこれ組み合わせてみたところ、えーと、"1+8=9" がいちばんしっくりくるようにおもわれました。ただこれをみて「美しい…」と熱っぽいためいきをつけるかどうかは、いまいち自信がありません。"7-2=5" もわるくない気がする。うむ、いや、どうかな…。いずれにしても「つまんない」とガッカリされないことを祈るばかりです。

バケットホイールエクスカベータさんがうっとりするのも、あくまで "8+7=15" であって "7+8=15" ではない、んでしょうね、やっぱり?



A: "1+8=9" が気に入りました。



しかしこういうことを真剣に考えているとカリキュラマシーンが頭をぐるぐる回りだして他のことが手につきません。



ダイゴくん不在のいまも質問は24時間受け付けています。
dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)


その103につづく!


6 件のコメント:

赤舌 さんのコメント...

なんて不可解な世界だろうと思ったけれど、考えてみたら僕は2でも3でも4でも6でも割れる12が好きでした。でも式となるとどうだろう。
1+1=2?

ほんや さんのコメント...

3²×4²を5²なんて狭い世界に押し込んでやらないであげてください!
好きというわけではありませんが、印象深い式は777+333=1100でしょうか。1000にならないのがモヤっとします。

Miya さんのコメント...

そんな式があるのかぁ。と一瞬感心しそうになりましたよ。危なく他所でいってしまうとこでした。

きちんと文章読んでるのか試されたんですよね?
最近ブログでダイゴさんの文章が読めるので喜んでおります。

ピス田助手 さんのコメント...

ほうぼうで指摘されて、ハテナ…と首をかしげつつ、ようやくまちがいに気がつきました。3²×4²=5² ではなくて、3²+4²=5² ですね。とくいげに書いてはずかしい。穴がないなら掘って入りたいです。

> 赤舌さん

たしかに12という数は懐がふかくて良いですね。断固としてそれ以外で割ることのできない素数もストイックで惹かれますけれど。


> ほんやさん

せまい世界に押しこんでスミマセン…。「モヤッとする式」も、考えたらいろいろあって楽しそうです。数は奥がふかい。


> Miyaさん

そんないじわる、しないですよ!ふつうにまちがえました。いつもありがとう!また何かやらかしたときはよろしくおねがいします。

mio さんのコメント...

あー、8+7=15 いいですよね。私はこれも普通ですが3×7=21 が好きです。

ピス田助手 さんのコメント...

> mioさん

おや、「ふつう」とそれ以外の区別ができる数の住人がここにも!

こうなると多くの人にアンケートをとってみたくなりますね。栄えある1位の数式は何だろう?