「あの、もし」
「模試?」
「いえ、そうではなくて…」
「虫?」
「いえ、あの…」
「ぐゎし?」
「道に迷ってしまったものですから…」
「はあ、人生のですか」
「あるいはそうかもしれませんが…」
「それはお気の毒に」
「ちがうんです」
「ちがいましたか」
「じつは道に迷ってしまって…」
「ああ!よくあることですよ…人生にはね」
「はあ…」
「まあ、くよくよしないことですな、何ごとも」
「ちがうんです」
「冗談ですよ」
「よかった!」
「どちらへ行かれます」
「110番街交差点に…」
「ひゃく…そりゃアンタ、マンハッタンでしょうが」
「遠いですか」
「遠いも何も…ここは甲州街道ですよ」
「まだけっこうありますか?」
「距離ですか?」
「ええ」
「ありますとも!距離ばかりか、聞けば気も遠くなります」
「どれくらい…?」
「あなたの歩幅が60センチくらいだとしたら…」
「ええ」
「ありますとも!距離ばかりか、聞けば気も遠くなります」
「どれくらい…?」
「あなたの歩幅が60センチくらいだとしたら…」
「ええ」
「1700万歩くらいです」
「せんなな…え?」
「水の上を歩ければの話ですが」
「水?」
「何しろ海の向こうですからね」
「そんな!」
「太平洋です。それから大陸をひとつ横断しないと」
「ああ…」
「ひとまず、成田に向かうんですな」
「どうも方向音痴がひどくて…」
「何をどうするとそんな迷い方をするんです?」
「ええと…」
「迷うどころかほとんど神隠しじゃないですか」
「ええと…」
「迷うどころかほとんど神隠しじゃないですか」
「ネコ耳の女性が…」
「ねこ…何ですって?」
「ネコ耳の女性に気を取られたんです」
「はあ…ネコ耳の…」
「そうなんです」
「…それが理由?」
「あと雑司ヶ谷でピンクの象に見とれて…」
「ピンクの象ね…」
「何だか可愛らしくて」
「わかります、と言っといたほうがいいのかなこれは」
「何だか可愛らしくて」
「わかります、と言っといたほうがいいのかなこれは」
「それからランヴァイルプルグウィンギルゴゲリフウィルンドロブルランティシリオゴゴゴホ夫人につかまってくだを巻かれて…」
「ラン…誰ですって?」
「ランヴァイルプルグウィンギルゴゲリフウィルンドロブルランティシリオゴゴゴホ夫人です」
「それは人の名前ですか」
「?そうです」
「長すぎませんか」
「長い…そうですね、言われてみれば」
「言いにくいでしょう」
「そんなことないですよ」
「そうですか?」
「コピペですから。痛い!」
「おや…」
「頭に何か当たった!」
「和太鼓のばち(撥)ですな…」
「いたたた」
「暗黙のルールを破ろうとするからですよ」
「というのは、コp…」
「しッ!それ以上はお控えなさい」
「それにしたってこんな、すりこぎみたいな…」
「たんこぶひとつで済むならむしろ儲けものですよ」
「おや…」
「頭に何か当たった!」
「和太鼓のばち(撥)ですな…」
「いたたた」
「暗黙のルールを破ろうとするからですよ」
「というのは、コp…」
「しッ!それ以上はお控えなさい」
「それにしたってこんな、すりこぎみたいな…」
「たんこぶひとつで済むならむしろ儲けものですよ」
*
それでなくとも僕らは、つくづく最短距離の時代に生きていると思わざるを得ないのです。遠回りというだけでとかく二の足を踏みがちだし、ショートカットがすべてに優ると思われているふしさえあります。今や小笠原の父島でタクシーを拾って「南島まで」と堂々のたまう御仁までおられるというのだから、始末におえません。辿り着けるかどうかわからないということが出発を断念する正当な理由になるのなら、その2本の足に何の意味がありましょう。彼女がいると知っただけで踏みとどまる程度のきもちを恋と呼ぶとは、片腹痛いわ小童どもめ!
ということを言いたかったわけでは別にないのですが、こうしたもろもろのきもちを最短距離で表すと
「110番街は遠いなァ…」
ということになります。遠いですね。
それはそうと今年に入ってからこのブログ、多い月でも4回しか更新してなかったことに今ごろ気がつきました。週に1度しか開かない上にコマーシャルなものしか置かない怠惰な個人商店が閑古鳥を嘆くとは、呆れてものが言えません。顔から火が出て炎上し、そのままキャンプファイヤーが始まるくらいの勢いです。肉でも炙って食うほかない。いや、肉はもういい。
それならもういっそのこと、閑古鳥を飼ったらいいじゃないかとおもう。ツーと言ったらカーと返してくれるような気のいい1羽を!
6 件のコメント:
最短だ最長だって結果論でもありますしね。
道の途中で判断できるほど賢くない僕は、行きたい方に行きます。大体迷いますけど。
> 匿名さん
そうですね、僕もだいたいそんなかんじです。ただ、それでもなお、僕らはじぶんでおもっている以上に「最短距離」に囚われているということをお忘れなく…通勤や通学のルートひとつとってもね!
こんばんは。
先日マジで甲州街道沿いで道に迷いました。
質問です。
>彼女がいると知っただけで踏みとどまる程度のきもちを恋と呼ぶとは、片腹痛いわ小童どもめ!
とおっしゃってますが奥さんがいる場合はどうですか?
> しろさん
僕がここで言っているのは「彼氏(あるいは彼女)がいると知った時点で別の相手をさがす」ような場合のことです。何があろうと一途におもうきもちがあるなら、逆に何を恋と呼びましょう?ただまあ、奥さんがいる人は出会いを積極的に求めていないぶん、落ち着いていて「何割増しか良く見える可能性がある」こともお忘れなく。この場合はめんどくさい結末が待っています。
大人になってから本気で道に迷うと、うろたえますよね。僕も夜道で経験あります。
真面目に回答してくださってありがとうございます。
ついでみたいで申し訳ありませんが「テアトルパピヨンと遅れてきた客」が好きです。
お仕事頑張ってください。
> しろさん
アラいやだ、真面目に答えてすみません。どうもありがとう!
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