2008年1月16日水曜日

21世紀のホンダ VS 19世紀の東芝


江戸のからくり人形といえば、ヨーロッパのオートマタ(Automata)と並んで、今なお驚嘆とともに讃えられる非電気的超絶機械のひとつです。なかでも僕が見とれてしまうのは、筒から抜いた1本の矢を弓に構えてぴょんと射る「弓曳童子」なのだけれど、これは一連の複雑なアクションもさることながら、角度によっては憂いとも恍惚ともとれる淡い表情のうつりかわりや、首のかたむきといったその仕草ひとつひとつが趣きに富んで、いつまでも見飽きることがない珠玉の逸品なのです。アクションだけなら「文字書き人形」のほうが仰天するし見映えもするだろうけれど、この人形のかなめは、動きそのものよりもむしろ、動きによって醸し出された機微にあると僕はおもう。見せ物としてのポップな側面の裏で、耽美でなまめかしい世界が流し目をくれているとくれば、その魅力に抗えるほうがおかしい。世の哀れなる殿方連中がうるわしい女性に心乱されるのは、たとえば髪をかき上げるときに立ちのぼる色気のためであって、髪にふれる行為そのもののためではないのだ。アシモが雑技団の花形スターなら、弓曳童子はカサノヴァであって、両者の間にはかなしいほどのへだたりがある。人を模するという意味では同じでも、追いもとめる極みに決定的なズレがある以上、アシモは雑疑団には入れてもたぶん永遠にモテないのです。それでいいのか!と僕は口をすっぱくして言いたい。金さえあれば量産できる魅力なんて何の意味もないし、その点弓曳童子は、たぶん同じようにつくっても同じ機微は生まれないとおもう。

とおもっていたのに

だから大人の科学シリーズ「弓曳童子」は、とてもかなしい。あんなのワックだ。こうすればこうなるよという因果関係の証明だけに特化してて、そりゃないよとおもう。みんながお酒をのむのは、酔っぱらうためだけじゃないでしょう?バーのカウンターでスイーとカクテルのグラスをすべらせて、美女にプリーズとかそういうのもふくめてお酒なんじゃないの!(僕下戸なので、多少イメージが偏っています)

ちなみに「弓曳童子」をつくったのは、「からくり儀右衛門」と呼ばれた江戸の天才からくり技師、田中久重です。そんな人知らないと思うかもしれないけど、えーとここに資料が…「田中久重は日本を代表する電機メーカー、東芝(TOSHIBA)の創始者です」。



まじで?



それなのに「弓曳童子」を所有してるのは意外にも

トヨタ(TOYOTA)だ…。

えー!

まったく、皮肉とまでは言わないけれど、冗談みたいな話だとおもう。

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