その典型的な例のひとつがレコード(LP)のライナーノーツです。
ここにテナーサックスの巨人、ジョン・コルトレーンがブルーノートに残した唯一のリーダー作にして千年クラシックな「Blue Train」のLPがあります。リリースされたのは1957年ですが、僕の手元にあるのは1967年の再発盤です。
同封されたLPサイズの大きなライナーノーツにはこの「Blue Train」が、当時すでにモダンジャズの傑作として評価が定着していたにもかかわらず、60年代半ばを過ぎてもなお日本では手に入りにくいLPだったことが書かれています。だからこうして改めて日本で発売されることは多くのファンにとって朗報である、というわけですね。
ここから浮かび上がるのは
・高い認知度に反してリリースから10年たっても国内ではほとんど流通していなかった
・したがってジャズファンがみなリアルタイムでこのLPを持っていたわけではなかった
という、やや意外な時代背景です。もちろん音楽史的にはまったく重要ではありません。だからどうしたと言われればそれまでの話です。でもこれほど有名なレコードが当時どこでも手に入るものではなかった事実には、単純に「へー!」と驚かされます。
書物ほどの重みを持たないがゆえに、ともすると見過ごされがちなこうした印刷物には、今やどこからもアクセスできない忘れられた情報の断片がさりげなく含まれていたりするのです。
あと当たり前だけどあのころはジャケットの印刷も活版なんだよね……。
紙に押し付けられた活字のかすかな凹凸を、ためいきまじりに指先でなぞって気もそぞろな秋の夜更けです。
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