食ってうれしい腹八分目さんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)「花いちもんめ」と「腹八分目」って全然似てないようでじつは相当似てるとおもうんだけど、そうでもないですか?
Q: 今年の7月末に会社を退職(して転職)したのですが、先週になって前の職場から、仕事の引継ぎをしてほしいという依頼が来て、ちょっと困惑しています。あまり重くなく、嫌味でなく、さらりと断るための、いい口実を教えてください。
パンドラ的質問箱の回答はいつも遅きに失して、濡れたトイレットペーパーより役に立たない、というのはおそらく衆目の一致するところだとおもいますが、これもまた数多あるそんな例のひとつです。ただまあ、基本的には解決するかどうかよりも溜飲が下がるかどうかに重きを置いているので、どうかあまり深刻に受け止めず、合気道よろしく右から左へと受け流し、梅昆布茶でもすすりながら、「HAHAHA」と軽快に笑い飛ばしてください。まちがっても「7月ってこれ去年の7月ですけど?」とかそういう正論を持ち出してはいけません。食ってうれしい腹八分目さんが引き継ぎに足を運んでいないことを祈ります。
それにしても面倒な問題です。社会の一般常識に照らしてこれがどういう意味をもつのか、常識をどこかに落としてきたままうっかり今日の今日まで歩いてきてしまった僕にはよくわかりませんが、とにかくものすごくめんどくさい問題であることだけはわかります。
何といってもいちばん面倒なのは「退社がそれなりに円満で、引き継ぎを依頼してきた人物にも悪気はない」場合です。むしろ横柄で傲慢な元上役からの一方的な要求とかのほうがよほど楽におもえます。門前払いで冷たくあしらう甲斐もあるし、最終的には「だが断る」の一言で済むからです。
外からは窺い知れないこまごまとした事情があるにせよ、退職した以上その先に生じるのは責任ではなく、あるとしてもせいぜい好意です。このふたつの線引きを曖昧にしたまま接触を図ってくるとすれば当然、あらぬ波風が立つ危険性も同時に頭をもたげます。控えめにみてもやはり、ものすごくめんどくさいと言うほかありません。要は好意にすがる形でありもしない責任をさりげなくちらつかせてくるブラマンジェみたいにやわらかな恫喝を、いかにしてノーサンキュー的にいなすか、ということですね。ひょっとしたらもっとずっと低姿勢で嘆願に近い形なのかもしれませんが、後腐れなくすんなり引き下がってもらうにこしたことはないのだから、結果としてはまあ同じことです。
ちょっとアクロバティックかもしれませんが、僕が考える有効打は、2つあります。ひとつはこれです。
・お気持ちはすごくうれしいんですけど……彼氏いるので……。
問題を引き継ぎの依頼ではなく、それにかこつけたアプローチと受け止めるわけですね。相手が否定すればするほどドツボにはまります。何しろ向こうの言い分すべてを「自分に会うための口実」に変換できるので、「ムキになって否定しなくてもいいんですよ」とか「ふふふ、わかってます」とかいくらでも追撃が可能です。人生においてお花畑のような頭脳を持つ人とのやりとりほど不毛なことはありません。まずまちがいなく、向こうが先に音を上げるでしょう。
しかしこれには欠点もあります。相手が異性であるときにしか使えません。べつに同性同士だって余裕で使えそうなものですが、相手に理解がないと不用な誤解が生まれたり、望まぬ方向へ話がこじれるリスクを孕んでいます。いずれこうしたある種の垣根が取っ払われる時代がくるのはまちがいないとおもいますが、ひとまず現在のところは避けておくほうがおそらく無難です。
その点、次の案は相手を選びません。すなわち……
・そうですよね。ご心配かけてすみません。でも大丈夫です。お気遣いありがとうございます!
これも基本的には先の例と同じです。同意して受け止めるそぶりをみせつつ、依頼だったはずの問題を途中から激励にすり替えています。「うん……あ、いや……え?」と相手が虚を衝かれているうちに朗らかに対話を終了してしまいましょう。満面の笑みを崩さずにいられればなお良しです。すべての鍵はどこまで堂々としていられるかにかかってはいるものの、全体の印象としてすごくポジティブだし、向こうは向こうでお礼を言われているし、うまくいけばこれほど後腐れのない対応もありません。対話を打ち切ったあとで相手に「まいったな」と頭をぽりぽりかかせることができればしめたものです。やや難があるとすれば先の案とちがってあきらめずに何度も連絡をしてくる可能性があることですが、「こんなに心配してくれるなんて、ホント申し訳ないです」というスタンスを貫き通せば、まず何とかなるでしょう。
A: さりげなく論点をすり替えるのがコツです。
どうでもいいけど、ここまで書いて「花いちもんめ」がいまの世代に通じるのか不安になってきました。通じるよね?
*
質問はいまも24時間無責任に受け付けています。
dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)
その198につづく!
2 件のコメント:
通じますよ!
と元気よく心の中でお返事してから、”いまの世代”でないことに気が付きました。残念。
ジェネレーションギャップといえば、7歳下の子が「びんぼっちゃま」を知らなくて驚きました。ご、ご存知ですよね?
> はなちゃん
びんぼっちゃまはもちろんわかります。
ただジェネレーションギャップの目安としては
ちょっと微妙な固有名詞じゃないですか、それは。
というか会話にびんぼっちゃまが登場する
その流れのほうがよほど気になります。
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