2022年10月7日金曜日

間奏者たち/interluders


1

細い煙が白くたなびいている
その煙の行く先を見つめている
煙はちいさなドラマをいくつもからめて
せせらぎのように静かに流れる
ちいさなドラマにはちいさなブリッジと
ちいさなフックとちいさなコーラスがあった
おひらきになればそれもこれもぜんぶ
たなびく煙がどこかへ連れていく

ちいさなドラマはサーカスの一団にも似て
かなしみをすこしだけうすめてくれる
うすめたかなしみはかすかに甘くて
いつもどこかなつかしい味がする
もっとうすめたらたぶん水になるだろう
かなしみの欠片もない水はただの水で
コップに溜めた雨のほうがずっといい
酸性雨で喉の奥を灼かれたとしても

ここは通過点で
すべてが通り過ぎる
すべてが通過点で
つなぐと世界になる
世界にハッピーエンドが来ることはないが
そのかわり通過点にはときどき訪れる
ドラマとドラマの幕間にあって
ブリッジもフックもコーラスもない
in·​ter·​lude [ˈɪn.tə.luːd]と辞書には書いてある
誰もが幕間interludeに暮らしている

2

きけば眠れるようになると言って
やってきた医者がラジオを置いていった
言葉は毒にも薬にもなる
違いは効き目が長いか短いかだけで
すくなくともそれが必要なときには
眠りほど大事なものなどありはしない
ラジオからは大量の薬が流れてきた
過剰摂取overdoseで安らかに眠った

ここは通過点で
すべてが通り過ぎる
すべてが通過点で
つなぐと世界になる
世界にハッピーエンドが来ることはないが
そのかわり通過点にはときどき訪れる
ドラマとドラマの幕間にあって
ブリッジもフックもコーラスもない
in·​ter·​lude [ˈɪn.tə.luːd]と辞書には書いてある
誰もが幕間interludeに暮らしている

3

今このときが永遠になればいいのにと
やけに回り道をして帰る夜もある
そういう夜には孤独もほだされる
なんならまたあとで会おうと言って立ち去りもする
見ろ、入り組んだ路地が迷宮に変わる
誰もついてきてはならぬと厳かに命じて
大昔に絶滅した野良犬のあとを
帰還した王みたいな顔でついていく

ここは通過点で
すべてが通り過ぎる
すべてが通過点で
つなぐと世界になる
世界にハッピーエンドが来ることはないが
そのかわり通過点にはときどき訪れる
ドラマとドラマの幕間にあって
ブリッジもフックもコーラスもない
in·​ter·​lude [ˈɪn.tə.luːd]と辞書には書いてある
誰もが幕間interludeに暮らしている


2 件のコメント:

黄色い花 さんのコメント...

BRAVO!!!

ピス田助手 さんのコメント...

> 黄色い花さん

ありがとう〜!