それでおもいだしたけど、ついこの間ある通りを水駒(※原付)で杉並方面に向かってぶいぶい走っていたら、環状八号線にぶつかるちょっと手前で「ドーナツ製造販売」という看板が目に入ったのです。
よくよく見たらそうではなくて、「米国製ドーナツ製造機販売」と書いてある。
「ドーナツの製造販売」と「ドーナツの製造機販売」では似ているようで意味がまるでちがいます。ドーナツの製造と販売はわかるし、そのために製造機があるのもいたって自然です。でもドーナツの製造機を販売するとなると、これは控えめに考えても、やはりちょっとしたことであると言わねばなりません。だってドーナツを揚げるためだけに特化したマシンが1年に何台売れるっていうんだ?
でも買いたい。そんなマシンを専門に売る会社があるなんて、なぜ今まで誰も教えてくれなかったのか。
こうなると気になって仕方がないので、家に帰ってそわそわしながら検索すると輸入代理店のホームページがありました。何しろドーナツ・マシンのことを考える日がくるなんて夢にも思っていなかったから、このサイトをひらくだけでも相当わくわくさせられるんだけれど、なかでも目を引いたのはこの一文です。
「マーク9は製造中止となりました。在庫は残りわずかです。」
マーク9……!?
1台を開発するのだってたいへんな時間と労力とコストを要する工業機械がすでに9代目なのだとしたら、もしやこれは想像していたよりもはるかに長い歴史をもつマシンなのではないか?
この時点で僕の関心は、日々研鑽を重ねながら今この瞬間もドーナツ・マシンのさらなる改良に余念がない(にちがいない)、製造元へと移りました。
それがドーナツ製造機で世界一のシェアを誇り、この分野では唯一の専門メーカーである「Belshaw」です。
専門というのはもちろん1923年の創業からひたすらドーナツ・マシンのみを製造しているという意味であり、だとすればこれはもうほとんどウィリー・ウォンカのチョコレート工場みたいなものであり、なかんずくフラワーズ(※注)にとってはまさしく夢のごとき会社であると決めつけてしまわないわけにはいきません。幻想を抱きすぎなのはこっちだって百も承知だけれど、こういうときに幻想を抱かないでいったいいつ抱くんだとわたくしはつよく申し上げたい。
※注:久しく音沙汰のなかった小麦粉ラブな荒くれ集団ザ・フラワーズ(The Flours)については、このあたりのエントリを参照のこと。
Belshawのドーナツ・マシン、マーク1。
生き馬の目を抜くこの時代にしてこのテンポです。強制的に癒されます。作業効率を考えるとこのマシンはいったい何のためにつくられたのかという根本的な疑問が湧き起こらないでもないですが、心和むのはたしかだし、根気よく待てばドーナツがひとつずつ確実に増えていくのだから、それ以上何を望みましょう。
マーク2。
ドーナツが1列に2個並び、作業効率が倍になりました。個人的には、超かっこいいイントロと内容の温度差いちじるしいこのドーナツメイキン動画がいちばん好きです。
マーク6。
作業効率が数十倍に跳ね上がっています。マーク1とは比較にならないほど高度なシステムです。しかし何と言っても驚くべきは、心に平穏をもたらす要素が合理性の追求によって損なわれるどころか、却って増しているようにもおもわれる点です。殺風景な部屋の片隅で人知れずポテンと油に転がり落ちるドーナツ生地の健気な姿には、どことなく悲哀も感じられます。がんばれ!がんばれドーナツ!
しかしやはり押し寄せるグローバル時代の波には抗えません。人々はもっと多くのドーナツを求めているのです。ドーナツ・マシンはやがて、惑星規模の需要に応えるべく大きな変貌を遂げていきます。
そうしてこのまま1列に並ぶドーナツの数が10から20、20から40と順当に増え、ベルトコンベアはもちろん線路や道路でも幅が足りず、いずれナイル川やアマゾン川が丸ごとドーナツ・ラインに取って代わり、ヘンゼルとグレーテルのお菓子の家よろしく地球全体がひとつのドーナツ工場として統合される日もそう遠くないとしたら……
食べきれないな。
と、
ドーナツ片手にもぐもぐやりながらフラワーズの末端構成員としては今からそんなことばかりを心配しているのです。
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