2013年6月12日水曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その155



東京特許キョケキョキュさんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)


Q: 「100年の恋も冷める」とはどんな時なのでしょう?


恋というのは銀行の預金みたいなものです。最初に大きな額を預ける人もいれば、小額から初めてすこしずつ積み立てていく人もいます。どっちがいいとはもちろん一概には言えません。ただまあ、スタート時の額が大きければ大きいほど、その後は引き出す回数のほうが多くなるでしょうね。いずれにしても、残高がゼロになれば恋は終わります。それが冷めるということです。

程度のちがいはあるにせよ、冷めるのは「相手の思いもよらなかった側面を目の当たりにしたとき」と言ってまず差し支えはないでしょう。人目をはばかるような類いの趣味だったり、性格の表立って見えなかった部分だったり、あるいはちょっとした癖だったりと、その理由は人によってじつにさまざまです。しかもそれは相手のせいというより、むしろ往々にしてじぶんの観測がいささか希望的すぎる(=最初に預ける額が大きい)場合に起こります。彼、でなければ彼女はもともとそうした属性や因子をもっていたのであり、そこにあとから異議を唱えられる筋合いなど本来なら全然ありません。僕が原則として色恋の愚痴にあまり耳を貸さない最大の理由がここにあります。

とはいえ、慎重に慎重を期してもなお想定外の事態がおこり得るのもたしかです。僕だって恋人が30代も半ばになっていきなり「海賊王に、あたしなる!」と本気で宣言するばかりか苗字と名前の間にDのミドルネームをねじこむようになったらさすがに関係を見直さないわけにはいきません。白紙に戻すとまでは言わないにしても、何か重大な見誤りがあったのではないかと反省するには十分なインパクトです。いくら世の中にはいろんな人がいると頭では理解していても、あらかじめ想定しておける範囲には限度があります。

しかしこれが100年もキープされた恋心となれば話はべつです。いかに弱火でも焦げつくような長い長い年月を前にしては、何ひとつインパクトにはなり得ないようにおもえます。新たな側面を受け入れるというより、それくらいではもはや炭化した愛情をはがすことができなくなっている、と言ったほうが近いかもしれないけど、ことここにいたっては雨が降ろうと槍が降ろうと、デコピンひとつではじき飛ばしてしまう気がしてなりません。最終的に下した相手への評価が変態だろうと鬼畜だろうと、別人だろうと人外だろうと同じです。その心持ちを恋と呼んでいいかどうかはともかく、それまでの歩みをいきなり全否定するより、受け入れてしまったほうが手っ取り早いだろうとは容易に想像がつきます。裏を返せば100年とは、すべてのサーブをことごとくリターンエースにしてしまう年月でもあるのです。

にもかかわらずそこからサービスエースを穫るような、言い換えれば恋の残高をゼロにしてしまうような、要するに100年かけて積み立ててきたきもちが一気に吹き飛ぶような事態が果たしてあり得るんだろうか?

ない、と言わざるを得ますまい。それが100年という年月です。

という結論でしめくくるのも後生がわるいし、あまり現実的ではないけれどひとつこれはというのを挙げるなら、「恋人が際限なく分裂するようになったとき」はさすがにしおしおと心が萎えるんじゃないかなとおもいました。際限なく、というのは文字通り際限なくであり、30億とか40億とかにぷよぷよと分かれながら増えていき、やがて全人類のうち異性がその人のみに取って替わられるような場合です。もうどうでもいいや、寸分違わず同じのがどこにでもいるし、というかんじで、冷めるどころか恋そのものが何だかよくわからないものになるかもしれないですけど。


A: 恋人が際限なく分裂するようになったときです。


それともそこからさらにわずかな差異を見出して、また恋に落ちたりすることになるんだろうか?「この人だけ右足の親指にほくろがある」とか、たとえばそういう理由で?



質問はいまも24時間無責任に受け付けています。

dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)


その156につづく!


2 件のコメント:

yujiro さんのコメント...

通帳を作ってすぐに全財産を投入するタイプです。
頭のてっぺんから爪の先までがキラキラ輝いてる!
心臓鷲掴み!握り潰される!!ハートを磨くっきゃない!
って感情から、2年も経たないうちに
残高ゼロになってしまうのですが、回避する術はあるのでしょうか?
一度でいい(というか最後でいい)から
砂糖水を飴に変える様な煮詰めた恋がしたいです。

ピス田助手 さんのコメント...

> yujiroさん

回避する術があるかどうかはわかりませんが、ひとつたしかなのは
「全財産を投入した上になお預金を増やす恋の大富豪もいる」、
ということです。そしてそれができるのは、
全財産を惜しげもなく投入できる人だけだと僕はおもいます。

「ハートを磨くっきゃない!」というTOKIO的な姿勢は
誰がみたってかっこいいですよ、すごく。まぶしい!