2012年6月2日土曜日

ピス田助手の手記 24: 博士の出したもうひとつの条件







極楽鳥の町にはムール貝博士が科学的好奇心と気まぐれで手をつけたのち、そのままほったらかしにされている場所が何箇所かある。手をつけたというのはつまり、マンホールにガトリング砲を格納したり、防火水槽を武器庫にしたり、横断歩道の白線部分にべたべたしたものをまんべんなく塗りつけておいたりしたという意味だ。あることは知っていてもそれが正確にどこなのかは、わたしも知らない。だからこそ確認する必要があった。あまり繁華なエリアでも困るが、博士が好んでそういう場所に仕掛けるのは百も承知だから贅沢は言えない。博士とのけんもほろろのやりとりからわたしは目抜き通りのはずれにある1つのマンホールを選び、賢いハンス号をそこへ向かわせた。

「そこにM61バルカンが格納してある。使い方はわかるな?」
「ガトリング式でしたっけ?」
「リズミカルに連射できるすてきなやつだ」
「使えるんですか?」
「誰にものを言っとる」
「古くて錆びたりしてませんかって意味です」
「わたしが情に厚いことはお前もよく知っとるだろうが」
「火器に対してだけでしょ」
「手入れは抜かりない。砲弾もたっぷりだ」
「まあ、博士にとっちゃ盆栽みたいなものですからね」
「そういうことだ」そうそう、と博士はここで思い出したように付け加えた。「サービスでいいことを教えておいてやる。相手はスピーディ・ゴンザレスだと言ったな?」
「そうです。ご存知ですか」
「あいつにも同じマンホールを教えておいた」
わたしは呆気にとられて思わず叫んだ。「冗談でしょう?」
「お得意様なんだ。助手のお前が知らないほうがおかしい」
「ちょっと待ってくださいよ!」
「まァ仲良く分け合うんだな」
「敵同士で?」
「そうだよ」
「ひとつの武器を?」
「そうだよ」
「どうやって?」
「そんなことわたしが知るか」
「その歪んだ平等主義はどうにかならないんですか?」
「サービスしてやったのにご挨拶だな、ピス田」
「火に油を注ぐことをサービスとは言いません」
「薪が減ったらくべるのはサービスだとおもうがね」と博士は言い放った。「だいたい、知らなかったら余計混乱してたはずだぞ」
「それはそうですけど……」
「何をそうカリカリしてるのかさっぱりわからん」
「話が根底からひっくり返ればカリカリもしますよ」
「ついでだからもうひとつ条件がある」
助けるどころか危険が増えたのに何を言うんです!
「助かるかどうかはお前次第だ。要求は満たしたろうが」
「満たしたぶんだけ差し引かれるような話になってますけど」
「ここらでオススメの武器スポットはないかと先に向こうが問い合わせてきたんだ。それに答えて何がわるい」
「まるでレストランガイドだ」
「だから武器庫と兵器の設置場所をいくつか教えておいた」
「差し引くどころかマイナスになってるじゃないですか!」
「向こうは金を払ってるんだぞ!」
「わたしは博士の助手ですよ!」
「つべこべ言うな。元はといえばお前がわるい」
「わかりましたよ」釈然としないが、筋は通っている。抵抗しても勝ち目はない。わたしは観念した。「何です、条件というのは?」
「スワロフスキを探せ。ポワレのやつがパニクって手に負えん」

それだけ言うと、博士はプツリと通話を切った。





<ピス田助手の手記 25: 影のようについて回る1本のカギの話>につづく!

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