さて、VOL.9についてはお話しできることもだいぶ少なくなってまいりました。(だだっ広い講堂で2、3人がポツンポツンと離れて席についているイメージ)
あってもなくても楽曲には何の影響もないというか、なくても別に困らないけれども、これまでのシリーズにはなくて今回にだけあるもの、それがジャケット画像に含まれたタイアップステッカーです。
今となっては見かけることもない過去の遺物みたいなツールなので、念のためご説明しましょう。タイアップステッカーとはその昔、CDのケースとかフィルムの外側に貼られていた販促ツールです。アルバムに収録された曲がドラマとかアニメの主題歌や挿入歌、CMソングなどに採用されていることを、このステッカーでアピールしていたわけですね。
極端な例では全曲タイアップ(!)を掲げたアルバムなんかもあって、ステッカーの面積がジャケットの1/3を占めていたほどです。あの曲入ってますというアピールのためのステッカーなのに、ジャケットの全体像がわからないばかりかお目当ての曲が入っているかどうかもパッと見ではわからないという本末転倒ぶりに、なんともいえない趣がありました。それもこれも、このステッカーが文化として定着していたからこそです。
VOL.9のジャケット右下にあるステッカーは、こうした文化へのオマージュとして描かれています。
こう書くとこのためにタイアップが企画されたように思われるかもしれませんが、そうではありません。実際には世間一般の流れと同じく、タイアップの企画がまず先にあり、驚異的なクオリティで世間を震撼させた例のCMが放流されたのち、ふとステッカーが貼れることに気づいたという次第です。ジャケットも自前のアグロー案内だからこそできた、画期的なアプローチだったと申せましょう。
ただ、ステッカーを含めたジャケットが配信の審査に通るかどうかもちょっとした賭けでした。というのも、配信にはフィジカルの時代にはなかったいろいろと細かなルールがあって、そのルールに抵触する場合は受理してもらえないからです。「紙芝居を安全に楽しむために」もそうだけど、考えてみたらアグロー案内にはそういう、ちょっと待ちなさいと言われかねない異物的な何かがあちこちにあります。異物どころかこちらとしてはむしろその正当性を主張するスタンスです。言ってみれば始まりから今に至るまで常に道を切り開いているのだ、と改めて強調してもよいでしょう。
一方、こうした水面下のハードルゆえに、できなかったこともあります。アポロニカ学習帳のCMには山本和男がしれっと出演しているので、できれば「feat.山本和男」と表記したかったのだけれど、これは叶いませんでした。
というのも、フィーチャリングを表記する場合、その人物を楽曲とは別にアーティストとして登録する必要があるからです。探偵としてならともかく、アーティストとして登録することにはさすがに僕らもちょっと抵抗があります。山本和男自身は諸手を挙げて歓迎する気もしますが、どちらかというとだからこそイヤです。ない謎を解く本分に集中してほしい。
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とまあ、ひと月に渡って語り散らしてきましたが、ともあれ肝心の音楽的側面がすっぽ抜けていることを除けば、これがアグロー案内 VOL.9の全貌である、ということになります。辛抱づよくお付き合いいただいたみなさまには本当に感謝しかありません。
(だだっ広い講堂で2、3人がポツンポツンと離れて席についているイメージ)
(まばらな拍手)
ではまた、アグロー案内 VOL.10でお会いしましょう!