2021年12月17日金曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その354


やもめのジョナサンさんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)


Q. 山の麓と湖の畔、居住するならどちらを選びますか?

というのも、私事ですが、今年度から仕事の部署移動があり、主な仕事が「アライグマの捕獲及び殺処分」になりました。アライグマについて聞きたいことがあったら、いつでもお申し付けください。


ひさしぶりに肝心の質問がまったく頭に入ってこない質問です。これはアライグマを捕獲するならこのエリア、という意味なのか、それとも殺処分にうってつけのエリアなのか、あるいはアライグマに荒らされやすいとか襲われやすいエリアなのか、それとも逆にその心配はありませんということなのか、いずれにしてもアライグマは見た目に反して懐きにくい上にかなり獰猛な生き物なので、なかなかハードなお仕事であるとお察しします。しかし世の中にはいろんな部署があるものですね。

僕が暮らす地域でアライグマを見かけることはほとんどありませんが、代わりにハクビシンがいます。夜中に大通りをのんびり横断しようとするもんだから原付を停車する羽目になったり、ふと夜空を見上げたら電線をサーカスよろしくトコトコ歩いていてギョッとさせられることしばしばです。木も土もろくにないような住宅街で普段いったい何食ってんだろうとおもう。

質問に戻りましょう。アライグマについてはまあ、いたらいたでどのみち対処しなくてはならないのだし、考慮に入れないでおくとして、山の麓と湖のほとりなら、圧倒的に湖のほとりですね。というのも、山はどうあれ、地面が盛り上がっているだけだからです。

誤解してはいけません。山は大好きです。多様な植生も、そこで暮らす獣たちも、また僕の体質的にも町よりは断然向いています。しかしそれでもなお、依然としてラクダのこぶみたいなものであることもまた確かです。斜面があり、頂上があり、より多くの水を貯えることができる、それだけです。結局のところ山とは森の一種であり、平地の森と何が違うのかと言えばその形状と高度にすぎません。また考慮すべきリスクとしてはオオカミや熊に食われることもあリます。21世紀を迎えシンギュラリティすら目前に控える今このときにあっても、丸腰の人間は大自然に対して無力です。

湖もまた大自然の一部ですが、山とはすこし違います。地面の代わりに水なので舟さえ用意しておけば追手が来てもすぐに逃げ出せるし、魚に食われる心配もありません。ネッシーみたいな怪獣がいれば若干リスクは高まるけれども、そこまで気にする必要もないでしょう。また、とりわけ大きな利点としては例えばうっかり斧なんかを落としてしまったときに、金と銀の斧を手にした女神が現れる可能性もあります。山ではそうもいきません。バイカル湖くらいの大きさになると女神の登場するポイントが岸からだいぶ離れて視認できないかもしれませんが、それでも可能性がゼロよりははるかにましです。日頃から「いえ、僕が落としたのは錆びついた小汚い斧です」とすらすら暗唱できるように練習しておく甲斐は十分にあるでしょう。アーサー王伝説でも「湖の貴婦人」はその絶世なる美しさを謳われているし、要するに湖にはなんというかこう、憧れにも似た夢があるのです。

山もすこしは湖を見習ってですね、何ならここで命を落としても本望であるとおもうくらいメロメロにさせられる夢があって然るべきだと、僕なんかは強くおもいます。


A. 湖のほとりです。




質問はいつでも24時間無責任に受け付けています。

dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)


その355につづく! 

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