踏切の鐘が遠くからくぐもって聞こえる
終電が息をひそめて行き過ぎる
薄く張った静寂をやぶらないように
口に指をあててタタンタタンと遠ざかる
つい昨日
世界が変わった
それ以外は万事OK
いつもどおり
ごろつきは町角で
酔っぱらいの袖を引き
野良猫が大きく
伸びをして歩き去る
千年前と同じ月明かりの下で
無人の店が眠らずにぽつんと開いている
乾燥機がワンコインで15分と書いてある
24/7/365
男がひとり、ドブに落ちたような
困惑した顔つきで首をかしげながら
くたびれて見分けがつかなくなったあれとこれを
まるめてコインランドリーに放りこんでいる
壁に沿ってずらりと並んだ乾燥機は
バカでかいフルレンジスピーカーに似ている
見ていると腹にくる低音をひとつ、ボンと
今にも鳴らしてくれそうな気がしてくる
古い木のスツール
足もとには缶から
何しろ普段からあまり
使われてないから
テーブルの灰皿に
寝転がる吸い殻
舶来、てかハイカラな
見慣れない銘柄
つい昨日
世界が変わった
それ以外は万事OK
いつもどおり
例の店は変わらず
ぽつんと開いている
24/7/365
悪魔がひとり、ドブに落ちたような
困惑した顔つきで首をかしげながら
くたびれて見分けがつかなくなった善と悪を
まるめてコインランドリーに放りこんでいる
どっちがどっちだかわからなくなるなんて
これ以上悪魔としてやっていく甲斐はまだあるのか?
「知ったことか、くそくらえだ、好きにしたらいい
こっちのテリトリーまでグレーに塗りやがって」
夜は今日も規律を重んじるマフィアの
ボスみたいな態度で昏々とふける
宵の雨で冷えたアスファルトにやわらかな
苔が絨毯を転がすように敷かれていく
つい昨日
世界が変わった
それ以外は万事OK
いつもどおり
これは録音された音声ガイダンス
子守唄代わりになる気の利いたサービス
男がひとり、ドブに落ちたような
困惑した顔つきで首をかしげながら
くたびれて見分けがつかなくなったあれとこれを
まるめてコインランドリーに放りこんでいる
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