その男はひとり
戦場を駆け抜ける
激しい砲火と爆撃の下
ライフルを抱えて
男は兵士ではない
争いも好まない
だが今それはどうでもいい
男は戦場にいる
物陰にかくれ
手榴弾を取り出し
ピンを引き抜いて
全力でぶん投げる
ずっとこんな調子だ
老体にはこたえる
汗と泥にまみれて
男は戦場にいる
考えるのはやめた
考えてどうなる?
そら、音が止んだぞ
走れ走れ走れ!
忘れてなんかいない
そう伝えにきた
弾が耳をかすめる
男は戦場にいる
危ねえな、くそったれ!
死ぬとこじゃねえか!
ちぎって丸めてスープに
ぶちこむぞこの野郎!
毒づいては罵り
唾を吐いてわめき
よろめきながら
男は戦場を行く
用があるのはこの先だ
あと一歩まで来た
なのにすぐそこが世界中の
どこよりも遠い
肩に担いだ
ツギだらけの袋に
きれいごとをつめて
男は戦場にいる
忘れてなんかいない
そう伝えにきた
呼ばれたわけじゃないが
子供たちが待ってる
そりは売り払った
トナカイとも別れた
着古した赤い服で
男は戦場にいる
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