すこし以前から「人類史上最大のジョーク」についてときどき考えることがあります。
本来ならおそらくネッシーやミステリーサークルあたりがその筆頭に挙げられましょう。しかしここで考えたいのは正しい意味でのジョークというより、むしろ「そう認定しても差し支えなさそうな事実」のことです。ジョークとして受け止めたほうが腑に落ちる話、と言い換えてもよろしい。
ネッシーの例を引き合いに出すなら、対象はネッシーそのものではなく、「ネッシーがいたずらだったというニュースに世界が衝撃を受けたこと」になります。なんとなればネッシーをよく知らない世代にとっては「いたずらって、そりゃそうでしょ」としか言いようのない話が一大ニュースとして世界を駆け巡った事実のほうが、ネッシーの真偽なんかよりよっぽど不可解にちがいないからです。でも史上最大というにはいささか弱い。欲しいのはもっとこう、「えええええ(゚Д゚)」と言いたくなるような、目玉がポンと前に飛び出して地面を転がり下校中の小学生に蹴飛ばされたあげく民家のガラスを割ってカミナリ親爺に「コラァ!」と怒鳴られるような事実です。
マレーシアで天使認定されて宗教的にアウトの憂き目にあったキューピーも、エピソード的にはエイプリルフールっぽくてそそられるものがあります。ただこれもインパクト的にはさほど大きくないし、何よりいちおう理屈として筋が通っているのでここでは対象にはなりません。できればモンティパイソンのスケッチに採用されてもおかしくないようなのがいい。
こういうのを、というのはつまり「ジョークとして受け止めたほうが腑に落ちる事実」をひとつの単語で表せたら楽なんだけど、今のところピンとくるものには出会わなくてもどかしいかぎりです。すでにあるんだろうか?
しいて基準を挙げるとすれば
1. 事実である
2. おもしろい(大雑把ですね)
3. 社会的な影響が大きい
4. 子どもに説明できない、もしくは説明しづらい、というか面倒くさい
パッと思いついたのを挙げただけなのでまだ他にしっくりくる条件があるかもしれませんが、概ねこんなところです。合理性のなさや仮にあってもねじが外れていることが肝心なので、とりわけ4は欠かせません。
いくつか例を挙げましょう。
・チャタレー事件
7、8年前にもその公判記録について一度ふれたことがあるのでそのままコピペすると、「小説のくせに一部が伏せ字になって発売されるというある意味ミもフタもない結末を招いたチャタレイ裁判」のことです。「非常に高度な知性の応酬でもって縦横無尽に語り尽くしながら、けっきょくのところその論点は「これちょっとエッチすぎるんじゃないの」」にすぎず、「もっとも重要な部分イコールもっとも口に出すのがはばかられる部分、というジレンマに彩られた意見陳述と証言」、そしてその判決は今なおうっとりするほどバカバカしい輝きを放っています。伏字部分が解除された完全版の発売が1996年と比較的最近だった事実も見逃せません。
あるいはジョークっぽさではこっちのほうが上かもしれませんが、15世紀でもっとも売れた書物のひとつに "The Tale of Two Lovers" という大衆小説があります。ウィキペディアにも「full of erotic imagery」とわざわざ書いてあるくらいなので、官能的な描写がふんだんに盛り込まれたそっち系の作品であることはまちがいありません。問題はこれを書いた著者アエネアス・シルヴィウス・ピッコロミニが、のちのローマ法王ピウス2世だということです。
職業作家の手になる露骨な性描写と、ローマ法王が書いたソフトなエロ小説、物議を醸すのはどっちだ?
女性器をかたどったボートは猥褻になるのか、ギュスターヴ・クールベの名画「世界の起源」を不適切な画像とみなして削除したばかりか投稿者のアカウントまで一時凍結したFacebookについてどうおもうか、ピウス2世は今こそコメンテーターとして個人的にご登場願いたい人物のひとりです。
*
とっちらかって何の話だかもうお忘れかもしれませんが、「人類史上最大のジョーク」の話です。長くなりそうなのでつづきます。あとクールベの「世界の起源」は知らずに検索すると呼吸が止まるほどのインパクトなのでお気をつけあそばせ!
0 件のコメント:
コメントを投稿