2014年10月29日水曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その190

動物、飼いたくなりました


ゴムのび太さんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)


Q: 勤め先の骨董屋の主人(70代女性)がアップル社のことを十回に一回くらいの割合で「パイナップル」と言い間違えています。忠告をすべきでしょうか。


人がアップルをパイナップルと言い間違えるかどうかというのはそれだけで検証に値するちょっとした問題だとおもいますが、ここはまあそういうこともあるという前提で話を進めましょう。結論から言うと、ゴムのび太さんがそれをアップルだと正しく認識している以上、訂正する必要はまったくありません。

言葉はそれ自体独立した何かではなく、あくまでAをAであると伝えるための手段です。言葉の正しさというのはつまるところ認識の正しさであり、言わんとしていることがきちんと伝わるのであれば、その単語が何であれすでに役割を果たしています。マップルだろうとパイナップルだろうとウィークエンドシャップルだろうとぶっちゃけぜんぜん問題ないのです。

では逆にこれが十回に九回の割合で言い間違えるとしたらどうでしょう。一見すると奇妙におもわれるかもしれませんが、この場合もまた同じです。なんとなれば言い間違いだとわかった時点で、本来そこに使われるべき単語が明らかになっている、つまり結果として正しく伝わっていることになるからです。

さらにまた圧倒的多数の人がアップルをパイナップルと言い間違えていたとしましょう。明らかに間違っているにもかかわらず、間違っていないほうが少数なのでコミュニケーションに支障はありません。場合によってはアップルと正しく呼ぶ人こそ「パイナップルだよ」と嗜められるような状況です。果たしてアップル社はこれに多大な広告宣伝費をかけて正しい社名の認知に努めるだろうか?みんながみんなパイナップルと呼び慣らす以上、社名の変更をしたほうがコストもかからず手っ取り早いのではないか?何しろもともとそう認識されていたのだから、社名を変更した事実さえ公表する必要がないのです。正確さにおいて軍配が上がるのは言うまでもなくアップルですが、だからといってパイナップルを排除することが正しいと言いきれるものだろうか?

ここからわかるのは、言葉の間違いが正誤の問題ではなく、むしろコミュニケーション、でなければせいぜい多数決の問題である、ということです。古いタイプの亭主が「おい、アレ」と言い、古いタイプの女房が応えて「はいはい耳かきですね」と手渡すように、何が何を指し示しているかがわかりさえするなら、言葉のありようなど大した意味を持ちません。それよりアップルをふつうに果実とまちがえて「りんごで電話したり音楽聴いたりができるわけないだろうが!」とキレられたりすることのほうが、よほど考えものであると僕はおもいます。


A: 現状維持でオーケーです。


僕なんかそれはもうしょっちゅう「小林大」と名前の表記を間違われますが、すこし気落ちするだけで支障があるかといったら別にないですよ。




質問はいまも24時間無責任に受け付けています。

dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)


その191につづく!


2 件のコメント:

チムチムチェリー さんのコメント...

なるほど、わかり易くて納得しました。うちの2歳半の息子も最近は言葉足らずながら、よく喋るようになり、「おなら」を「おなり」と言ったり、「ありの〜ままで〜♪」を「ままど〜ままど〜♪」言っていますが、私には伝わっています。子供が言葉を覚えて行く過程を見ていると、面白いですね。

ピス田助手 さんのコメント...

> チムチムチェリーさん

うーんかわいい。
僕の父はいまだに数十年前の話を持ち出して
「おまえはスカイラインのことをスッカランと言ってた」
とのたまいます。もう500回くらい聞いたとおもう。
それにしてもアナ雪の浸透ぶりはホントにすごいな…。