2014年10月13日月曜日

シュリーマンと住所表記の変更、そのどちらでもなく

ミス・スパンコール秘蔵の1枚から


先月だったか先々月だったか、取り立ててどうということもない話をしているさなかに母親がポロリと「そういえば住所が変わったよ」と言い出したのです。へー、そうなんだ、誰の?と聞けば「ウチの」と答えます。ウチの、というのは母親にとってのウチだからつまりえーと、実家だな。僕の実家だ。住所が変わったのは僕の実家ですか。「そう、ウチの」

はあなるほど、ちょっと無沙汰をしている隙にそんなことになっていたとはつゆ知らず、しかし一般的に言ってそういうのは引っ越す前に伝えたりするものではないのですか、とハミング仕上げのバスタオルよろしくふんわり抗議をしてみたところ、「引越って何?」と眉間にしわをお寄せになります。「あ、ちがうちがう、住所ってあれ、何丁目とかそういうの」
「住所表記?」
「そうそれ」
「文字だけ?」
「文字だけだね」
「町田市全体が?」
「さあ、ウチの周りだけじゃないの」
「あっ」
「何」
「町田でおもいだした。シュリーマンているじゃん」
「知らないよ。誰」
「トロイの遺跡を発見したドイツ人だよ」
「?」
「トロイの木馬ってあるじゃない」
「なんか聞いたことある気がするね」
「めちゃ有名な考古学者だよ」
「へー。それがどうしたの」
「あの人、日本にも来てるんだよね」
「今?」
「いやいや150年前だよ。江戸時代、江戸時代」
「それで?」
「町田にも来てたんだって」
「だれが?」
「シュリーマンだよ!」
「ああ、そう」
「シュリーマンの旅行記に原町田って書いてあった」
「150年前って、幕末よ、あんた」
「そう言いましたけど」
「町田ってそんな昔からある地名なの?」
「そうなんだよ、びっくりした!」

というローカルな小ネタをはさんだ四方山話はさておき、もう若くもない年になって住所表記が変わるというのは、いささか困ります。言うまでもなく、覚えられないからです。実家の住所を思い出す機会がしょっちゅうあれば別だけれど、1年に1度も思い出さない情報を今さら頭に叩きこめと言われてもそううまくいくわけがありません。かつてはスポンジのように何から何まで吸収していたフレッシュな脳みそも、今では冷蔵庫の奥で30年放置されたウニのように気の毒な臓器へと変貌を遂げつつあります。実際このとき教えられた住所はメモをとらなかったせいもあって、まったく記憶にありません。西……西という字がついていたような気もするけれど、ひょっとしたら全然ついてなかったかもしれない。前は番地だけだったのが何丁目になった、とはたしか言っていた。でも数字はみごとに思い出せない。もちろん初めから覚える気がなかった可能性も大いにありましょう。それも僕にというより、知能を司っていたはずのぶよぶよした何かに覚える気がないのです。頭蓋骨の内側でこのぶよぶよが煙草をぷかりとふかしながら「もういいだろ、さんざん働いてきたよ、おれは」とぼやくばかりか、あまつさえ尻をかく様子まで目に浮かびます。脳みそのくせに尻なんかかくんじゃないとおもうけど、奴の出す電気的な指令に従って現実にぽりぽりと尻をかいているのはおそらく僕自身です。そうしただらしのない振る舞いに誰よりも断固たる姿勢で反対の声を上げる僕自身の体を使ってそうしただらしない振る舞いに及ぶなんて、遠隔……ここにあるんだから遠隔じゃないな、何て言えばいいんだ?まあいいや、いずれにしてもそれじゃまるで僕がだらしないみたいじゃありませんか。こんな理不尽な話があっていいのか?いや、断じてあってはならないはずだ、だから今ごろになって住所表記をそれっぽくイイかんじに変更するとかもうそういうのは本当に勘弁していただきたい。

それでまあ案の定ここからが本題であって別に実家の住所表記がどうなろうと知ったこっちゃないと言えば知ったこっちゃなかったのですが、ともあれつづきは次回に繰り越すことにいたしましょう。ところで僕にはささやかな夢があるのです、という話をするはずだったのに、じつにふしぎだ。まったく解せない。


2 件のコメント:

nosuke shin さんのコメント...

とある詩人に、その昔野津田で遺跡掘りのバイトをしていたと聞いたが、もしやシュリーマンが調査しに来ていた遺跡ってその遺跡!?と少しテンションが上がっている私は鶴川在住。

ピス田助手 さんのコメント...

>nosuke shinさん

なんかふつうに観光だったみたいですよ。
あと八王子のほうに向かったそうだから
鶴川街道じゃなくて町田街道だとおもいます。たぶん。