持ってけトンポーロウさんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)
Q: ご質問です。妖怪に性別の概念ってあるんでしょうか?「雪男」と「雪女」は同じ種族のオスとメスなんでしょうか。それにしては見た目が違いすぎます。P.S.素敵なペンネームを期待しております。
いい着眼点です。たしかに「雪男」と「雪女」ではその字面に反して相当な隔たりがあるように感じられます。その理由としてひとつにはもちろん、それぞれ語られる文脈が完全に異なっていることが挙げられましょう。前者がロマン滾る「冒険譚」なら、後者は背筋の凍る「怪談」です。肉体的か心理的かではっきりと色分けできそうなこのふたつの文脈が交わり、重なり合うことはまずありません。夫がハリウッド俳優で妻が落語家みたいなものですね。活躍する分野が互いに遠く離れているのだから、印象に隔たりがあるのも当然と言えば当然というわけです。
次に見た目についてですが、上記を踏まえてつらつら考えてみるに、はたしてそれほどの相違が両者の間にあるだろうかという疑問が浮かびます。たしかにオスとメスで違うと言えばあまりに違うと言えそうですけれども、外見からひげや乳房といった性差が確認できるのはサル目ヒト科ヒト属ヒトたる僕らも同じです。
いやいや、雪女はともかく雪男はほとんどゴリラじゃないか、とおもわれるかもしれませんが、ヒト属ヒトにもゴリラみたいな男性はそこら中に存在します。多少の毛深さも余裕で誤差の範囲内です。否と言うなら僕だって、いつだったかすらりとしてすべすべのきれいなモデルさんの横に立ち、もさもさでひげもじゃでくたくたのよれよれな自分と比べて「これは本当に同じ種族なのか」と絶望に苛まれた例を挙げなくてはなりません。それでなくとも僕はどちらかといえばサル寄りのヒトであり、したがってサル、ひいてはゴリラの味方です。ゴリラの味方であるということは、当然よく似た容姿の雪男の味方です。よそとくらべて若干毛深いからといって、ぜんぜん別の種族だなんて僕にはとても言い切れません。生物的な本能が抱くこのシンパシーをいったい誰が否定できるというのか?
テーマが「雪男と僕」にスライドしてきたので話を戻しましょう。
見た目の大きな違いには、もうひとつ考えられることがあります。それは雪男の全身を覆う毛皮が自身に由来するものではない、すなわちきわめて高機能な防寒具であり、実際のところその下にはつるりとして美白のもち肌が隠されているという可能性です。雪男が今に至るまで現役の未確認生物である以上、彼らの知能や科学力をこちらで決めつけてしまうことはできません。ひょっとしたら彼らこそ僕らのことを知り抜いているばかりか、悪戯でつけたひとつふたつの足跡に熱狂する僕らの様子を、twitter的な何かに晒して腹を抱えていないともかぎらないのです。雪女がこうした防寒具を一切身につけていないことについては、体脂肪率の男女差である程度説明がつきましょう。この仮説に立ってみると、もはや両者の間に有意の差は見出せません。率直に言って、いい防寒具を着ているか着ていないかの違いでしかないからです。
しかしこうなると雪女が妖怪であるというそもそもの大前提にも、疑問符をつけなくてはならないような気がしてきます。はたして雪女は本当に妖怪なのか?すこしばかり体温が低いだけであとは何らヒトのメスと変わらないのではないか?僕らはただ、科学がまだよちよち歩きだったころの盲目的かつ差別的な視点を無批判に受け入れていただけなのではないか?だとすればむしろ今こそ、雪女と称せられた女性たちの名誉を挽回する絶好の機会なのではないか?
そしてまた、雪女がヒトのメスであるならば、同じように雪男がヒトのオスでない理由もありません。-30℃の極寒でもそこを故郷として生き抜く人々がいるのだから、雪山で分厚い防寒服をまといながらのしのしと狩りをする人種があっても何のふしぎもないのです。僕らもここらでいいかげん彼らに対する色眼鏡をはずし、未来を見据えた裸眼でのお付き合いを始めなくてはなりますまい。
A. 雪女と雪男はおなじ種族であり、そのオスとメスであり、言ってしまえば寒さに強いヒトであって、おそらく妖怪ではありません。
妖怪における性別の有無についてはまた別の機会に考えましょう。あるにはあるが無条件ではない、という気がしています。今のところ。
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質問はいまも24時間無自覚に受け付けています。
dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)
その190につづく!
2 件のコメント:
興味深い考察をありがとうございます。
確かに雨男も雨女も人間ですし。
妖怪の性別についてもまたおもしろい話をお聞かせ下さい。
素敵なペンネームもありがとうございました。
> もってけトンポーロウさん
わ、よかった!今もいらしてくださってるんですね。
お答えするのがいつも遅くなってしまうのでホッとしました。
いつもありがとう!これからも細々とよろしくおねがいします。
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