2011年5月10日火曜日

明かりのように灯る声がある。



ミス・スパンコールが撮ってきた「ビジネスツール」の一例

※写真は本文と関係ありません。


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真夜中の新宿歌舞伎町でもの言いたげな人々が、色とりどりのスポークンワーズとパフォーマンスを繰り広げるSSWSという風変わりなイベントがあって、僕はそのごく初期にエントリーしていたのです。2003年の話ですね。

何しろもう8年も前のことだし、8年といえば小学生が成人する(!)くらいの年月です。いろいろあったような気もするけれど、語れることはそんなに多くはありません。だいたい朝型なので、夜はとにかくねむたかったということだけはよくおぼえている。


豆ちしき:SSWSのオーガナイザーであるさいとういんこ女史が20年以上前にリリースしたレコードは、和モノDJの隠し球として今もカルト的な人気を誇っています。


SSWSは原則として事前にエントリーした人がステージ上で競うイベントですが、終了後にオープンマイクのコーナーがありました。エントリー不要で、順番さえ待てば誰でもパフォーマンスを披露できる、ある意味無法の時間帯です。

僕がそこにいるときというのは、つまり本体のトーナメントにエントリーしていたということでもあるので、当然イベント終了後は目も当てられないほど困憊していて、とてもじゃないけれどオープンマイクを鑑賞する余裕はありません。ともだちと来ていたわけでもないし、ひとりフロアの隅で抜け殻みたいになってボンヤリと始発を待つだけです。多くのラッパーがハイレベルなフリースタイルをばしばし披露していたはずだけれど、その記憶もなんだか夢のように霞みがかっている。

でも一度だけ、オープンマイクのときに驚いてステージを振り向いたことがあります。それまでにもいろいろな詩人とラッパーを目にしていたはずだけれど、フロアに響く声にびっくりして耳を奪われたのは、後にも先にもこのときだけです。

どこまでものびやかで、せせらぎのように澄み渡り、遠くまでよく通って一度耳にしたら絶対に忘れられない、そんな声は今まで聞いたことがなかった。どうしてこんな人がエントリーしないでオープンマイクに出てるんだ?と愕然としたことを今でもよくおぼえています。

その人はその時点ですでに揺るぎない礎を持っていました。このとき抱いた鮮烈な印象は、8年たった今も変わっていません。"gift" という意味での天賦の才を、"natural-born" というもののすごさを、僕はこのとき初めて目の当たりにしたのです。誰にも真似のできない世界を築いて、彼女はひらひらと自在に飛び回っていた。


それがtotoさんです。



長く奇妙な年月をへて、ようやく形になった彼女のアルバムにはだから、曰く言いがたい感慨があります。

totoさんの音源は、じつはSUIKAが初めてではありません。たしかその前にFlow Wordsというユニットがあって、自主CDをつくっていた…とおもう。その音源を(なぜか)御大・古川耕のお宅で聞いたときも、リーディングをしようという気持ちがしおしおと萎えるほどショックを受けて…

それはともかく、満を持してリリースされる彼女のフルアルバムは、SUIKAを経由してというよりも僕にはむしろFlow Wordsからの延長に見えます。賑やかなヒップホップバンドのMCとしてこれだけ板についていながら、8年前に初めてふれたあの世界にふたたび足を踏み入れたようなきもちになるのです。ブレがないにもほどがある。

吟遊詩人、というのは言葉に重きを置くミュージシャンによく使われる形容です。タカツキさんも昔からよくそう呼ばれているし、あまつさえ僕のアルバムにもそういうコピーがついています。でも「吟」という文字はそもそも、「詩歌に節をつける」という意味です。少なくともリズムではない。節というのはメロディを意味することもあるけれど、厳密にいうともうちょっと控えめで抑揚とか旋律と言ったほうがちかい。

だとすれば、totoさんこそが吟遊詩人という肩書きに他のだれよりふさわしいと僕はおもうのです。歌うように読むということ。それが吟じるということ。やってみたいとおもって真似できる類いのものではありません。

今週末の日曜日に渋谷Flying Booksでおこなわれる先行リリースパーティは、初めから終わりまでその声と言葉の味わいをイヤというほどたっぷりご堪能いただける、ちょっと稀なる機会です。どいつもこいつもおいであそばせ!


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5/15(日)
「toto『○to○(わとわ)』 先行リリース・ライブ」
【ポエトリー・リーディング、ライブ】
open 17:00 start 17:30
出演:toto、Tatsuya Yamada(MAS/Tyme.)
ゲスト:(未定)
会場:渋谷Flying Books 
料金:3000円(CD+特典付) ご来場の方全員にCD『○to○(わとわ)』(特典「windy」DVD-R付)を差し上げます。
予約前売制:(限定40名様)

【ご予約方法】
予約はメール、電話(03-3461-1254)、及び店頭にて (営業時間12~20時 日曜定休)
メール:info[a]flying-books.com ※[a]を@に換えて送信してください。

HP→ totonote.net


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よく考えたらこのアルバム、僕も1曲参加しています。言うの忘れてた。

あと、キャッチコピーも。

3 件のコメント:

kks さんのコメント...

なんて、ファンシーなビジネスツールだこと!!

totoさんのアルバム!待ってました!詩も声も素敵です、凄くファンです。

リリースパーティーは、ほら!また就活で行けない!!国の陰謀だ!

とく さんのコメント...

totoさんのリリースパーティ参加しました。
ただでさえ暖かなFlyingBooksが更に暖かな空気で包まれた様なステキなイベントでした。

大吾さんが突然目の前に現れ、目の前で大吾さんらしい言葉を歌い上げ、その後そのままステージ外へ戻っていく姿はとても印象深かったです。

最前列のあの場所で本当に良かったと思いました。

ピス田助手 さんのコメント...

> kksさん
それはざんねん!でもきっと、アルバムはお気に召すとおもうので、ぜひたのしみにしててください。あと、僕にその恋心を伝えてもしかたないですよ、たぶん。

> とくさん
最前列におられたんですね。それは何と言うか…おじゃましました。たのしんでもらえて何よりです。いつもありがとう!totoさん、すてきでしたね。ホントに。