2011年5月4日水曜日

「輪突きのクサヴィエ」とはいったい何か?





それにしても、(とまるで昨日もお話ししていたかのように始めましょう)インターネットの万能ぶりには今なお、舌を巻かずにいられないのです。知りたくても知り得なかったことが当たり前のようにいっぱい書いてあるし、ずっと探していたものがクリックひとつで簡単に、しかもビックリするほど安価で手に入ったりする。これまでに費やしてきた長い長い時間がゼロコンマ数秒で霧散してしまうものだから、逆にかるい失望をおぼえるくらいです。物心ついたときからインターネットに触れていれば、そこにすべてがあると錯覚してしまうのもムリはない。

失望という意味では、ある日ふと啓示のように舞い降りてきた天才的なひらめきが、検索してみたらじつはわりとよくある思いつきだったと知ってしょんぼりすることもあります。インターネットにアクセスするということはそれだけで、井戸の中で安穏と暮らしていたカエルが強制的に大海へ放りこまれるということでもあるのです。広さはともかくカエルなんで塩水はかんべんしてくださいと悲鳴をあげても、もう遅い。


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今でもよくおぼえている例をひとつ挙げると、肉体労働で汗水をたらしていた10年以上前、炎天下で弁当をぱくつきながらふと、「肉じゃが」と「ミックジャガー」が似ていることに気がついて得意になったことがあります。こんなことで得意になったってしかたがないけれど、他に得意になれるものがあったわけでなし、じぶんがちょっと特別な脳みそを持っているかもしれないと自惚れて、じっさい何のお咎めがありましょう。

しかしそんな若かりし僕の高く伸びた鼻も、大海を目にしてポキンと折られることになります。何しろ「ミックジャガー」と「肉じゃが」で検索をすると0.2秒でじつに6000件を超える結果が表示されるのです。


6000件…。


そしてこの程度の思いつきで鼻を高くするダイゴくんの小物ぶり。


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もちろん、検索にいっさい引っかからない情報もあります。膨大な知識にアクセスできるからといってそこにすべてがあるわけではない、というごくごく当たり前の事実を思い出させてくれることもあって、今ではそれがちょっとたのしいくらいです。けっきょくそれについては何ひとつわからずじまいであるにもかかわらず、却って入手不可能な何かを手に入れたようなきもちにならないでもありません。なりませんか?

いちばん最近の例で言うと、「輪突きのクサヴィエ」という言葉がそれに当たります。本のタイトルです。ある作家のデビュー作がこれだというので、検索してみたら「そんな言葉は知らん」とグーグルにそっぽを向かれました。海外の物語なんだけれど、邦訳は出ていないらしい。さもありなんという感じですね。でも「輪突きのクサヴィエ」って、何だかそそられるタイトルです。「輪突き」ってなんだ?「クサヴィエ」は人か獣の名前だろうか?

書いたのはドイツの作家です。邦訳された作品のいくつかは今もふつうに手に入ります。「輪突きのクサヴィエ」というタイトルは、彼の中でもよく知られている作品の、著者プロフィールに書かれていたものです。ただし、現在流通しているB6版ではなくて、40年前に福音館書店から出ていた判型の大きなバージョン。そもそも福音館から出ていたこと自体ちょっとした驚きなんだけど、何しろ著者の手になる挿絵がすばらしいので、判型の大きいほうが見応えもあってよいのです、すごく。また、それだけ古い物語が形を変えて今も絶版になっていないということは、名作として広く認められている、ということでもあります。ちなみに、日本で有名なのはむしろ翻訳者のほうだとおもう。

誰だかわかりますか?


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ホントはtotoさんについて書く、その前置きのつもりで始めたらこのありさまです。

5 件のコメント:

kks さんのコメント...

福音館書店と言えば、絵本ですよね。
なんだろう?
当てずっぽうで、訳者はきっと、谷川俊太郎だ。
作者は分からないです。

ピス田助手 さんのコメント...

> kksさん

福音館といえば、絵本です。でもこの本が福音館から出てるのはちょっと意外だったんですよね。ざんねんながら谷川俊太郎ではありません。矢川澄子です。(ひそひそ)

AriasRealEstate さんのコメント...

横から失礼いたします。
Xaver der Ringelstecher und das gelbe Roß ですか!
ピス田さんのひそひそヒントでやっとわかりました。
ありがとうございます。
気になって夢の中でも検索してしまいました。
福音館でこの著者の本があったとは確かに意外でした。
かといってどこなら意外じゃないのかもわかりませんが…。
挿絵が見てみたいものです。

ピス田助手 さんのコメント...

> AriasRealEstateさん

ヒントでわかる人もいるとは思っていたけれど、まさか原題をご存知の方がおられるとは思いもよりませんでした。正解かどうかもわからない!でもたぶん、そのとおりです。挿絵、見てみたいですよね。

AriasRealEstate さんのコメント...

ピス田さん、正解うれしいです!
ドイツのアマゾンで調べてみたら、表紙がかっこよすぎます…買いそうです!
http://www.amazon.de/Xaver-Ringelstecher-das-gelbe-Ross/