2022年9月16日金曜日

「間奏者たち/interluders」について語るはずがフィル・コリンズに終始する話


もういいかげん書けそうなことが何もないので、かくなる上は腹掻っ捌いて浮世におさらばを…と白装束に正座で短刀を腹に翳したちょうどその折、カズタケさんが「間奏者たち/interluders」のことをブログに書いてくれたので、僕からもすこし補足をいたしましょう。切腹せずに済んでよかった。


「大吾と2人でしか出来ない、2人で作るソウルミュージックをやろう」とカズタケさんのブログにはあって、それは実際そのとおりです。ただ、そこで引き合いに出されたフィル・コリンズ(Phil Collins)はわりとストレートなポップ・ミュージシャンで、ソウル、R&B、ヒップホップと言ったブラックミュージック界隈のアーティストでは全然ありません

元々はジェネシスというこれまた超有名なロックバンドに途中で加入したドラマーだったのに気づいたらバンドのキーマンになり、並行してソロとしても活動し、シンガーソングライターとしてスターダムにのし上がっていくその過程で80年代を象徴するようなサウンドを生み出したとまで言われる、今となっては伝説的なアーティストの一人です。背景をろくすっぽ知らずに聴いていた子どものころ、エリック・クラプトンの後ろでフィル・コリンズがドラムを叩いているライブ映像を見たときは頭が混乱したものでした。

ちょっとややこしいけど、要は80年代の洋楽を語る上で絶対に欠かすことのできないスーパースターのひとり、ということです。

リアルタイムで聴いてたアルバム

ではなぜ「ソウル・ミュージックをつくろう」から偉大なポップ・スターであるフィル・コリンズが連想されるのかというと、彼の幼少期から愛してやまない最も馴染みのある音楽がソウル・ミュージックだったからです。僕はその事実に、いろいろあって彼が第一線から退き、もう二度とアルバムを作ることはないだろうと思われていた2010年に突如リリースされた、古き良きソウルのカバーアルバム("Going Back")でやっと気づきました。え!?あ、そうか、言われてみればあれも、そうだあれも、うわああ考えたこともなかった…!と30代も半ばになってひっくり返るんだから、われながら遅い。

このリリース自体も本当に驚きだったけど、それ以上に僕も大大大大大好きなマーサ・アンド・ザ・ヴァンデラス(Martha & the Vandellas)の大名曲 "Heatwave" のカバーがMVで公開されたときはちょっと信じられなくてじぶんの目と耳を疑ったし、息が止まるほどうれしくて涙が止まらなくなったことを覚えています。ここに至るまでの道のりとか、ファットなヴィンテージサウンドからひしひしと伝わる偏愛とか、そもそもこの曲がエモすぎるとか、とにかくいろんな感情がないまぜになって、いま観ても滂沱の涙を流してしまう。


カズタケさんのブログにもあったように、僕がフィル・コリンズを聴くようになったのは母親の影響で、今みたいにブラックミュージック一辺倒になるずっとずっと前です。あの頃はラップと言えばヴァニラ・アイスの "Ice Ice Baby"を思い浮かべるくらい、ヒップホップとも縁がなかった。

フィル・コリンズのソロキャリア初期におけるヒットのひとつ "You Can't Hurry Love(恋はあせらず)"シュープリームスのカバーとは知らずに聴いていたし、何ならだいぶ長いこと彼のオリジナルと勘違いしていたくらいです。(実際今でもこっちに反応してしまう…)


それから僕が彼のヒット曲で特に好きなのをいくつか挙げろと言われたら絶対にピックアップする "Two Hearts" も、今にしてみたら完全にモータウン愛丸出しの曲なんですよね。映画の主題歌だったからスタジオアルバムには収録されていなくて、そのためだけにサントラを探して買ったものです。


つまり僕にとっては、子どものころから大人になるまでいろいろな音楽に触れてきた長い遍歴の果てに、ソウル・ミュージックという安住の地にたどり着いたら、そこにまさかのフィル・コリンズがいた、ということなのです。え!?なんでここにいるの!?みたいな驚きですね。アース・ウィンド&ファイア(EWF)のフィリップ・ベイリーとのデュオ曲 "Easy Lover" もある意味では自然な組み合わせだったと今ならすごくよくわかる。


したがって、ソウル・ミュージックを作るのにフィル・コリンズをモチーフにするというアイデアは、おそらくカズタケさんが思うよりもはるかに深く、僕のアイデンティティに通じることだったと申せましょう。

とはいえ、そんな僕のバックグラウンドを知って「おれはフィル・コリンズと言ったらこれかなあ」とじぶんの引き出しから "One More Night" を取り出してくるのも、それはそれでちょっとしたことだと思うんですよね…。知り合ってもうだいぶ経っていた10年前ですらそういう話はほとんどしてなかった気がするから、今になってしみじみと縁を感じます。


そういう意味で「間奏者たち/interluders」は、長い年月をかけてゆっくりと発酵したこの関係性があったからこそ生まれた作品である、と言えるかもしれません。



本当はこの流れで、もともとあったオリジナルバージョンのために普通ならまずないような、音楽としてはちょっと変わった工程があった話をするつもりだったんだけど、もうフィル・コリンズでお腹いっぱいなので次回にいたしましょう。

どれくらいの人が興味を持ってくれるのか、ちょっとわからないですけど。
 

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