2021年2月26日金曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その314


プレミアムつらいデーさんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)月末の金曜はとくにつらいですね。


Q. このブログの人気記事が未だ目玉焼きの記事であることを気にされていることは重々承知ではありますが、今まで気になって仕方なかったのです。再び料理の話題をなんとなく聞くのが憚られておりました。ステイホームが長くなり、手持ち無沙汰な今、是非お聞きしたい事があります。切り干し大根と三つ葉の炒め物(たぶんTwitter2017年4月9日初登場)と、度々映る艶々と色っぽい煮豆のレシピを教えてください。


あれから、そうですね、かれこれ10年くらいはたちましょうか……。そうは言っても大したアクセス数でもない目玉焼きのレシピを未だに超えていないのだから、僕のレゾンデートルはおそらくこのへんにあるとさすがにそろそろ断言してもよいでしょう。ちょっとおいしい目玉焼きを伝えるためにこそ僕はこの世に生まれ出たのです。そしてその使命はすでに果たしたわけだから、あとは余生ということになります。変わった使命を与えられたものだとおもうけど、与えられるだけマシだとありがたく感謝しなくてはなりません。

それはさておきお尋ねの件ですが、毎回前置きばかりが長くなるので今日は単刀直入に参りましょう。切干し大根の炒めものと、煮豆のレシピですね。

★切干し大根の炒めもの

材料
切干し大根;適量を水で戻しておく
ベーコン:適量
三つ葉:適量
オリーブオイル:適量
コンソメスープ:固形のコンソメを100ccくらいの湯に溶かしておく

1. オリーブオイルでベーコンを炒める
2. 切干し大根を加えて炒める
3. 適当に塩と胡椒を加える
4. コンソメスープを適当に加える
5. 冷めたら適当にざく切りした三つ葉を加えて混ぜる

ものすごく雑なレシピに見えるとおもいますが、重要なのは「切干し大根はオリーブオイルで炒めて塩コショウだけでもすごく美味しい」という点です。これさえ叩き込んでおけばOKで、その他は多少のアレンジにすぎません。

オリーブオイルで炒めて美味しいならベーコンを加えるともっと美味しいはずだし、三つ葉を加えたら美味しい上に彩りもかわいい、というだけのことです。初春なら三つ葉の代わりにセリなんかもいいですね。

なんというかこう、昔から切干し大根はサラダ油で炒めて出汁と醤油で味付けをして……みたいな固定概念があるので、その無意識の枷さえ外すことができれば、もっと自由にいろいろ楽しめるとおもいます。

しいて言うことがあるとすれば、できるだけオリーブ油で炒めましょう、ということくらいですね。サラダ油よりはるかに香りが強いので、これがあるのとないのとでは雲泥の差があるのです。

料理には「アレンジしていい部分」「アレンジしないほうがいい部分」が厳然と存在していて、ここをおろそかにせずにいられるかどうかが美味しいとそんなでもないを分ける大きなカギになります。何でもかんでも代用しちゃう人がいるけど、代用でより美味しくなるケースは稀だし、同等にすらまずならない(←ポイント)ので、とにかく一度は材料を揃えて言われた通りにつくってみることがものすごく大事です。

次に煮豆ですが、たしかに僕は煮豆をこしらえてはその愛らしさにバシャバシャと写真を撮り、あまつさえツイートする習性があります。これまでに何度同じような、というかほぼ同じ煮豆の写真を強引にシェアしてきたか知れません。撮ったそばから削除するくらいの分別はあるのですが、たぶん「うちの子をみて!」みたいな気持ちが抑えられないんでしょうね。

★ぶどう豆

大豆:2カップ
砂糖:1.5カップ
水:たっぷり
醤油:小さじ2

1. 大豆をたっぷりの熱湯につけて一晩置く
2. つけておいた水ごと、大豆を茹でる
3. ぶくぶくと沸騰してきたら大豆を一度ザルにあける
4. 新たにたっぷりの熱湯を加えて、90分中火で茹でる
5. ぐらぐらと豆が踊るくらいの火加減が決まったら最後までキープ
6. 湯が減ったらそのぶん足して茹でつづける
7. 豆がやわらかくなったら砂糖をぶちこんで同じ火力のまま30分煮る
8. 砂糖を入れてからは湯を足さずに煮切る
9. 泡の立ち方が変わってきたら醤油をたらす
10. ぷちぷちと焦げるような音になったら火を止める

要は大豆を水と砂糖で煮てるだけなんだけど、途中の手順や加減で仕上がりにわりと大きな差が出ます。ぶどう豆にはある種のバタフライ効果が存在すると言っても過言ではありません。

経験上、つくりかたそれ自体よりもむしろちょっとしたポイントが要という気がするのでこれも併せて記しておきましょう。

A. 大豆を熱湯で戻す
水ではなく熱湯なのは、ふやかすと同時に豆の皮部分を膨張させて、破れにくくするためです。そして破れにくいというのは見た目以上に大きな意味を持っています。というのも、その皮と豆の間に煮汁(シロップ)が入りこんで、一粒一粒がおいしくなるからです。
B. 火加減を変えない
これも経験則ですが、一度火力を決めたら最後、火を止めるまで変えません。豆が常にくるくる踊るくらいを目安にしましょう。昔はちょいちょい火力を調節してたんだけど、なぜだかうまく仕上がらないんですよね。
C. 泡の立ち方に気をつける
シロップが煮詰まってくると、それまで全体的にぶくぶくとしていた泡が中央からサーッと引いていきます。これを見逃すと焦げるまであっという間なので、注意深く観察しましょう。
D. 鍋の音に気をつける
クライマックスで重要なのは、音です。もうこのあたりまでくるとふつうに食べられる状態ではあるのですが、すこしだけ焦がすとシロップがカラメル化して、びっくりするほど香ばしくなります。ただ一番むずかしいのがこのカラメル化で、なぜか毎回同じようにはいきません。とにかく抛っておくとガッチリ焦げ付いてしまうので、焦げ付かない程度に焦がします。それまでシュワシュワだった音がプチプチプチに変わってきたら火を止める頃合いです。
E. 豆を動かさない
煮詰まってくるとつい箸とか木べらでかき混ぜたくなってくるのですが、これも経験上、あまりいじらないほうがいいとおもいます。動かすとカラメル化もよりしづらくなるし、じっと我慢が吉です。

シンプルなわりにやたらと時間がかかるし、ごはんのおかずにもなりにくいけど、例えばちょっとした運動とか、いつもより丁寧な掃除をするとか、植物の世話をするとかそういう心身を整える行為に近いものがあるので、なんとなく疲れがたまってきたらつくる一品ですね。日持ちするからいっぱいつくって毎朝ちょっとずつ食べます。お金がないときでもこれさえあればだいぶ生き延びられる気がするんだよな。


A. 美味しくできますように。




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その315につづく! 

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