夢を見ていた。
さしこむ朝日、小鳥の囀り、花の香りが鼻をくすぐり、熱々のコーヒーとトーストを傍らに新聞をめくる。たったそれだけの、続きも何も、本当にそれだけの、単なる予告編ですらないティーザーだ。クランクアップは永遠にこない。
夢を見ていた。
かっこいい靴を置いていた角の店がもうないのに気づいた途端、どこもかしこも知らない町に見えて、立ち尽くす。たったそれだけの、続きも何も、本当にそれだけの、紙の切れ端みたいな断片……(あるいは立ち去れと促すための)。
手は尽くしたと藪医者がスプーンをほうり投げる前に、取り上げて掬う。冷めたスープに死神が口を拭う。そんな連中が頭の片隅に巣食う。目を離したすきに藪医者も食う。パパラッチもどさくさに紛れてスクープ、晩餐会を開いたつもりもないのにこいつらが苦い胸の内を救う……。
夢を見ていた。
どこまでも深く青い海のどこかで、光る魚の巨大な群れが一糸乱れずに舞い踊りながら、壮大な白銀のカーテンを織りなしてひらめく。それを外から取り巻くように、何者でもなくただ傍観者として眺めている。
夢を見ていた。
1匹の魚として、気の向くままに泳ぐ……はずが、どこかに囚われている。水槽?にしてはすこし狭すぎる。浴槽?にしては熱すぎる。むしろご馳走……つまりスープらしいと気づいた。誰かの投げた匙で今まさに食われようとしているところ。
振り払おうとすればするほど、それは亡霊のようにつきまとう。今もまだましな選択がありそうな気がするだろう……だとしても向かう先に待つのはいつだって忌々しいほど悪いか、でなければどうしようもなく悪いかだ。目の前に鏡を置いてよく見ろ(そしてせいぜい笑えるほうを選べ)。
手は尽くしたと藪医者がスプーンをほうり投げる前に、取り上げて掬う。冷めたスープに死神が口を拭う。そんな連中が頭の片隅に巣食う。目を離したすきに藪医者も食う。パパラッチもどさくさに紛れてスクープ、晩餐会を開いたつもりもないのにこいつらが苦い胸の内を救う……。
夢を見ていた。
暮れゆく茜色の空から、通り雨のようにばらばらと魚が降りそそぐ。そのうちの名もなき一匹として、果てしない空の底に沈んで、悠長に流れる時を数えて、やがて干上がる水たまりで遠い海に想いを馳せている。
そこへ誰かが近づいてきて、足を止める。逆光で姿の判然としないその彼に、大きくて力強い手を差し伸べられる。バッジを渡され、陸の上の魚という名の騎士団に迎え入れられ、その末端に名を連ねるよう告げられる。
振り払おうとすればするほど、それは亡霊のようにつきまとう。今もまだましな選択がありそうな気がするだろう……だとしても向かう先に待つのはいつだって忌々しいほど悪いか、でなければどうしようもなく悪いかだ。目の前に鏡を置いてよく見ろ(そしてせいぜい笑えるほうを選べ)。
そこで目がさめた。
見覚えのあるシルエット、聞き覚えのある声に首をかしげながら、顔を洗い、シャワーを浴び、まだ着られそうなシャツに着替えて、買っておいたサンドイッチを口に放りこみ、リュックを掴んで部屋を出る。テーブルにはバッジが転がっている。
手は尽くしたと藪医者がスプーンをほうり投げる前に取り上げて掬う。冷めたスープに死神が口を拭う。そんな連中が頭の片隅に巣食う。目を離したすきに藪医者も食う。パパラッチもどさくさに紛れてスクープ、晩餐会を開いたつもりもないのにこいつらが苦い胸の内を救う……。