2011年2月23日水曜日
「オーディオビジュアル」の原材料を探る旅
折よく話の種をポイと投げてもらったので、御大タケウチカズタケのブログに取り上げられていた件についてお答えしておきましょう。僕もこの曲については当然、アルバムに先駆けて公開されていた去年の12月時点で鼻をぷーとふくらませていたのです。
ピンとこない方のために念のため書き添えておくと、今しようとしているのは「詩人の刻印」の最後に収められた「響宴/eureka」という一遍についての話です。もともとこれはこしらえたときからGhostfaceを意識していたトラックなので、驚きよりはむしろさもありなんというか、うまく的を射たような感慨のほうが大きいかもしれません。「しめしめ」というかね。
言われてみれば古川さんにさえあまり話したことがなかったような気もするけれど、3枚目の「オーディオビジュアル」になってようやく自分なりに「うーん、そうだな、だいたいこんなかんじだ」と嚥下できるようになった今の僕の方向性は、この「響宴」から始まっています。
そこから遡ること数年前にリリースされたGhostfaceの "Pretty Toney" は、僕にちょっとした閃きを、でなければ開き直りとも言えるちいさな確信を与えてくれたアルバムです。サンプリングどころかほぼ原曲そのままで歌も入ったまま上から強引にラップをかぶせた "Holla" や "Save Me Dear" の自由なこと!こんな荒技がまかりとおるなんてこれこそ Sugarhill Gang の "Rapper's delight" を想起させるヒップホップの真骨頂というものだし、それは目からウロコもぱらぱら落ちようというものです。
この "Pretty Toney" が僕にとって何より大きかったのは、アルバムそれ自体のキラキラした魅力とはまたべつの観点で、音楽というフォーマットに対する変な気負いや付け焼き刃の義務感みたいなものを取っ払ってくれた点にあります。それはもちろん、音楽的にすぐれたものを緻密に組み上げることができればいちばんだけれど、でも向き不向きということもあって僕にはやっぱり荷が勝ちすぎていたし、要は「無理をしない」ということですね。
こう書いてしまうと簡単なことのようにおもえるけれど、ものをつくる上で「無理をしない」というのはなかなか全身で理解できるものではないのです。どうしたって理想が先に立ってしまうし、第一それはともすれば全体の出来映えに直結して台無しになるようなことでもあります。ですよね?音楽に対する引け目みたいなものはこの際しれっと棚に上げておくとして、じぶんでせっせと用意しておきながらトラックメイカーを標榜することがないのも、そういう割り切りによるところが大きい。
ともあれ「響宴」のきっかけが "Pretty Toney" だとすれば(大胆な物言いだな)、「詩人の刻印」に収められている曲のなかでいちばん早くできたばかりか(2006年の最初です)、実際あれからビートとの向き合い方がはっきりと定まっていったわけだから、ひょっとするとじぶんで意識していた以上に意味のある邂逅だったのかもしれません。「あ、そうかこれでもいいんだ!」とたちこめていた霧がするすると晴れていくかんじ…1枚目と2枚目とでアルバムの雰囲気ががらっと変わったのもおそらくこのへんに理由のひとつがあるのです。(もちろんそれだけではないけれど)
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「響宴」ができてはじめてフラインスピンのボスに聴かせたとき、「ゴーストフェイスっぽいでしょ!」とふたりでキャッキャはしゃいだことをよくおぼえています。何しろ彼ときたら大のGhostface好きで、もっと言えば超のつくWu-Tang Clan好きで、さらに言うと狂のつくOl' Dirty Bastard好きで、いまだに冬になるといやにデカいウータンクラン仕様のダウンジャケットをもこもこと羽織っているくらいだから、僕としてもこのトラックはきっとよろこんでくれるはずと踏んでいたのです。(Flying Booksの3周年記念パーティーで初めて披露したときの店主の感想がまだここに残ってるんだけど、このときすでにGhostfaceについて触れています)
だから今回ゴーストの "2getha baby" が公開されたとき真っ先に話した相手もフラインスピンのボスでした。こんなに愉快なことはない、とふたりで悪そうな顔に微笑を浮かべたものです。
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しかしゴーストフェイスもまさか太平洋を隔てたちいさな島国のちいさな町でこんなふうにキャッキャ言われてるとは夢にもおもわないだろうな!
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そしてふと気づけばもうすこしでアルバムリリースから1年たってしまうというのに、この浦島気分はどういうことだろう。こないだ出たばっかじゃなかったのか?
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4 件のコメント:
アルバム発売から、もう随分経ってますよ。
よもや、4thアルバムのフリですか?!
年賀状ありがとうございました。
写真立てに入れて、飾ってます。
> kksさん
年賀状、飾ってくれてるんですね。いつもありがとう!
あれから1文字だって書いていないのに4thアルバムも何も…
なるほど
意外だったので非常に興味深かったです。
1枚目と2枚目どちらの雰囲気も好きですよ!
> ケイジローさん
こんにちは。たしかにこういう話はあまりする機会がないですものね。
どちらも好きと言ってくれる人はそう多くないので、うれしいです。どうもありがとう!
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