2021年8月27日金曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その340


おむすびキャロラインさんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)


Q. 私は廃墟好きです。廃墟のノスタルジックな雰囲気が好きでいつか行ってみたいと思っているのですが、何かあったらと怖くて行けないので、いつか死んだ後に自由気ままにあちこち廃墟を巡ってみたいと楽しみにしています。(マイナスな感情ではなく、ただそう出来たら楽しそうだな〜という感じで。)そういった生きてる時は行けないけれど、死んだ後だったら行ってみたい。という場所はありますか?


これはいい視点です。すくなくとも僕は「いつか行ってみたい」ではなく「死後なら行ってみたい」という視点を持ったことがなかったので目からウロコがぽろぽろ落ちました。たしかに生きていても行けない可能性がふつうにあるなら、夢として思い描く範囲を生前に限定する意味はさほどありません。脳内から死というリミッターをはずすだけで眼前に果てしない自由が広がるというのに、なぜ今までたかだか数十年の視野しか持っていなかったのか、どすどすと地団駄を踏むばかりです。廃墟は僕も大好きなので、世界中の、誰にも気づかれていないような廃墟を心ゆくまで巡りながら恍惚に浸りたいですよね。想像したら本当に生死はどうでもいいような気がしてきます。

他に思い浮かぶのはまず宇宙です。はしっこも気になるし、ブラックホールの中とか、よくわかってないけど事象の地平面もそそられます。地球よりはるかに大きい太陽よりはるかに大きい、とにかく宇宙でいちばん大きな星の、実際どれくらい大きいのか、というかそもそもその大きさを実感できるものなのかを確かめてみたいし、何しろ死後なので気の済むまで宇宙空間をクリオネのように漂いたいです。時空をスルーして好きなところへほいほい飛んでいけるならなおいいですね。なんなら過去や未来へも行けるかもしれないし、そうなるともう一生、というか死んでるので一生というのはつまり永遠ですが、飽きることはなさ…

待てよ、でもたぶんこれそういう話じゃないよな、とここまで書いて気づいたのでそそくさと地球に戻って考えると、真っ先に思い浮かぶのは(さっきのはノーカウントです)、イエメンにある直径30メートルのバカでかい穴、通称「バラフートの井戸」です。

Well of Barhout」でググると画像がいっぱい出てきます。要するに「地上に空いているバカでかい穴」です。バラフートの井戸に限らず、地球上にはこうした、とにかく巨大で、しかも何だかよくわからない穴がいくつもあります。

去年ニュースになっていた、シベリアのバカでかい穴もそのひとつですね。



今ならひょっとするとドローンとかで調査できるのかもしれませんが、今のところこうした地上のバカでかい穴の底に何があるのかは基本的にはっきりしていません。数十メートルから場合によっては百メートル以上の深さがあることもあって、21世紀の科学力を惜しみなく注がないとムリという超高難度なので、今でも「なんかクソでかい穴がある」という認識しか得られずにいるのです。その底にふわーっと降りたい。

バラフートの井戸はすごい悪臭が漂っていて、そのために「悪魔の牢獄」と呼ばれているらしいし、万が一降り立つことができたとしても底に何があるのかわかったものではありません。ガス、毒、未知の生物…そういうものをまったく気にせず鼻歌まじりに探索できるのだから、これは確実に死後のおたのしみ案件です。

それからメキシコの水中洞窟(そこにしかないというよりそこがいちばん有名だからですが)にある、海水と淡水が水中でぱっきりと分かれたその界面を見てみたいです。塩分躍層(halocline)と言って塩分濃度のちがいによって海水と淡水が混ざることなく隣り合っているので、水中に川が流れているように見えると言います。何を言っているのかわからないかもしれませんが、じっさい水中に川が流れているとしか言いようがないのです。




以前BBCの「Planet Earth」で観たその一部がYouTubeにもあったのでちょっと借りてきましたが、特にこの動画の30秒あたり、よく見ると水の中に別の水があります。何を言っているのかわからないかもしれませんが、本当に水の中に水があるのです。これなんかは地上に空いたバカでかい穴とちがって映像を見ることはできるし、専門的なダイバーによって今も解明が進んでいる世界ではあるけれど、仮に潜ってみる機会が与えられたとしても生きて地上に戻れないかもしれないという恐怖に打ち克つ自信がまったくないので、やっぱり死後のおたのしみ案件ですね。

バラフートの井戸と水中洞窟の塩分躍層、どっちにすると言われたら、うーん…どう考えても死ぬしかないという点で、前者が勝つかなあ。すくなくとも水中洞窟を探索したダイバーはちゃんと生還してるし、その記録も多く残されてるけど、超でかい穴はほんとにただ超でかい穴として今もそこにあるだけですからね。バラフートの井戸にします。そもそも水中が大好きなので、それだけでも水中洞窟はかなりポイント高いんですけども。


A. バラフートの井戸の底に降りたいです。




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その341につづく! 

2021年8月20日金曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その339


コンデンス弥勒さんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)


Q. コロナの流行により不要不急の行動は控えろとのお上からのお達しにより観光に限らず様々な職種の方が苦労された一年でしたが、仕事においては出張がなくなった程度で私生活においてもあまり変化がありませんでした。何か自分自身がそもそも不要不急に対し不要不急の気がしてきて今年を振り返ったとき悲しくなりました。何か良いアドバイスを下さい。


お気づきかとはおもいますが、これは最近いただいた質問ではありません。去年の年末の話です。

パンドラ的質問箱では待てど暮らせど誰からも質問がこないという、ほっとけば確実にそうなる事態を避けるため、年賀状と引き換えに質問を徴収する非常に画期的なシステムを採用しています。したがって満を持してお答えするころにはすでに数年が経過していたり、なんなら質問をくださった方がすでに遠く離れて戻らないことも往々にしてあるわけですが、かれこれ8ヶ月が過ぎてもなお禍中、もとい渦中にあり、近未来からまだマシだった過去へのメッセージみたいなことになるケースはおそらくこれが初めてです。

去年の12月といえば、「かつてない大きさの第3波がきていてとにかくヤバい」という状況です。東京では新規感染者数が初めて1000人を超えた月であり、月単位では約2万人と前月の倍近い増加でした。1000人を超えるとさすがにそれまでとは一線を画すような印象があったので、僕も身が引きしまるような思いだったことを覚えています。

さてその8ヶ月後はどうなっているかというと、「せめて1000人くらいまで減ったら少しは息がつけるのになあ」とたぶんみんな思っています。第4波どころか、これまでとは比較にならない第5波です。東京は一日の感染者数が5000人くらいなので、去年の12月分は今の4日分くらいになります。去年の危機感を基準にするなら今ごろみんな発狂していてもおかしくないですが、ワクチンの接種が進んだこともあってか、実際のところそうでもありません。

近未来人として過去の僕らに語りかけるなら、かつてない危機を訴える緊急事態宣言の真っ只中に東京五輪が安心と安全を掲げて晴々しく開催され、日本は史上最多のメダル数を獲得し、無観客ではあるもののたいへんな盛り上がりで「感動をありがとう!」と多くの国民が涙したことも特筆しておくべきでしょう。

ただ残念ながら「緊急事態(超ネガティブ)」「安心・安全(超ポジティブ)」を同時に展開するアンビバレントな状況に陥ったため、緊急事態って何がどう緊急なんだっけ?という空気になってしまったことは否めず、気がついたらかつてない規模の感染爆発が起きて今に至ります。因果関係はまったくないらしいので、パラリンピックも数日後に滞りなく開催される予定です。

言うまでもなく、収束の見通しは立っていません。8ヶ月後の未来から送るアドバイスとしては「いずれ不要不急どころじゃなくなるし、まだ大丈夫!」ということになるでしょう。

率直に言って、8ヶ月後の僕らは疲れ果てています。もちろん危機感はずっと抱いているけれど、去年の12月とたぶん同じではありません。医療は逼迫どころか崩壊し始めているので、とにかく体調を崩してはいけないとじぶんに言い聞かせる日々です。ただ風邪が悪化するだけでも、診てもらえそうな病院はありません。何しろ原付でちょっと走ればかなりの確率で救急車とすれ違うのです。

ワクチンの効果はまちがいなくあって今では不可欠だけれど、ウィルスの変異と猛威はそれを凌駕するほど激しくて厳しい、ということですね。

質問に戻りましょう。もし去年の12月の時点で、今の僕らが経験している8ヶ月後とはちがう未来に分岐するなら、まだ間に合うしどうにでもなると今の僕は請け合います。なんとなれば不要不急とはまだそれほどではないからこそ出てくる考え方だからです。

自分自身が不要不急なのではないかと苛まれてしまうのもすごくよくわかるし、実際のところ僕もそうだったとおもいますが、そもそも地球にとって人類の存在が不可欠なわけでもありません。ありとあらゆる生物に意志があって多数決をとれるなら真っ先に排除されそうなのはどう考えても人類だし、彼らからしたら今この状況はむしろ「人類との戦い」という構図なのかもしれないのです。

だとすれば個人どころか種としての僕らすべてが不要です。地球レベルで見れば人類みな等しく不要なのだから、気に病むことはありません。

地球に生息しているのは僕らだけではないこと、そして今アリの巣を突ついたような騒ぎになっているのはあくまで僕らホモサピエンスだけであることを改めて思い返しましょう。

自身が生み出す内的ブラックホールに落ち込みそうなときは夜空を見上げて広大無辺な外的宇宙に思いを馳せ、じぶんを砂ひと粒以下まで縮小するのがいちばんです。僕は今でもこういうとき、チャールズ&レイ・イームズ夫妻による1968年の映画「Powers of Ten」を思い出します。シンプルかつ壮大でめちゃオススメですよ!




A. 「Powers of Ten」を観ましょう。




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その340につづく! 

2021年8月6日金曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その338


マリトッツァンさんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)生クリームがたっぷり詰まったお父っつぁんですね。


Q. 家の鳩時計の鳩がいつからか出てこなくなりました。どうすればまた出てきて鳴いてくれますか?


これはあれですね、それまでしーんとしてたのに閉店するとなったら途端に人々が声を上げて惜しみ始める、いわゆる閉店ラブコール問題の亜種ですね。

ひとつ想像してみましょう。

あなたは今、どこからも光が漏れることのない真っ暗な部屋の中で、膝を抱えながらひとりその時を待っています。部屋には扉があって、一定の時間ごとに数秒間、外に向けて開かれることになっています。外界から完全に遮断され、闇に閉ざされたあなたの役割は、扉がひらくその数秒間だけ外に顔を出し、「ジャジャーン!」と力いっぱい叫ぶことです。それ以外の役割は与えられていません。叫び終われば扉は無慈悲に閉まります。

おわかりかとおもいますが、これは賽の河原シーシュポスの岩と大差ない苦行です。何ならもっと直接的に、刑罰や拷問であると言い換えてもよいでしょう。僕がその立場なら何が何だかわからないまま「僕がやりました」とありもしない罪を自白すること必至です。

とりわけつらいのは、明るく朗らかに笑顔で「ジャジャーン!」と飛び出したその先に誰もいないことです。埋め尽くされた観衆の前ならまだしも、無観客で「ジャジャーン!」を永遠に繰り返させられることほど胸つぶれることはありません。

苦しいし、泣きたいし、いっそ殺してくれ!と心の内で叫びながらも、そのときが来ればいつでも血走った目でムリヤリ笑みを浮かべて「ジャジャーン!」とやらなくてはいけないのです。涙をこらえて屈辱に震えるハトのなで肩をそっと抱き寄せながら「もういい、十分だ。お前はよくやった」といっしょに泣くしかないじゃないですか?

ハトの身になれば、また出てきてほしいと言うことはとてもできません。十分すぎるほど、その務めは果たしてきたはずです。むしろ時計を止めて扉をひらき、自由しかない大空へと解き放ってもいいのではないかとさえおもわれます。

それでもなお、ここにいてほしいと今も心から望むのであれば、するべきことはひとつです。外界に暮らす僕らはそれが1日に24回あることを知っていますが、そのときが来たら家族総出で時計の前に座し、扉がひらいた瞬間、立ち上がって万雷の拍手を送りましょう。

重罪人の立場を一瞬にしてスーパースターへと反転する、これこそが唯一にして無二の解決策です。心身ともに深い傷を負ったハトも、戸惑いながらもすこしずつ自信を取り戻し、いずれは威厳に満ちた堂々たるステージングを披露してくれるでしょう。めんどくせえなとお思いでしょうし、実際のところ僕もそう思いますが、しかたがありません。がんばってください。


A. スタンディングオベーションが必要です。




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その339につづく! 


2021年7月30日金曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その337


残酷な店主のテーゼさんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)


Q. 金星から来ましたという自己PRは婚活で有利でしょうか?


僕が昔から釈然としない視点のひとつに「黙っていれば可愛いのに(=残念)があります。これはどう控えめに解釈しても「言動が容姿の価値を損ねている」という意味です。損ねるどころか魅力倍増じゃねえか!と僕なんかはいつも思いますが、言動は見た目に準ずるか、でなければ表に出さないでほしいと恋愛対象であっても身勝手に望む層は少なからずいます。ひとつ屋根の下における容姿など壁に飾る絵くらいの意味しかないにもかかわらずです。

そういう連中を最初から除外できるという点で、「金星からきました」という自己PRは、確実に有利です。なんとなれば余計なことは言わなくていいと考える層は一瞬にしてふるい落とされるし、興味を持ってくれる人がいるならそれは一貫して心と心のやりとりになるだろうからです。

一見すると多くの人を惹き付けるようなわかりやすい魅力をアピールしたほうが単純に分母が大きい分、これという人に出会う可能性が高くなるようにもおもわれますが、うんこみたいなやつらを山ほど集めたところでうんこの山にしかなりません。人はいくらでも自分を取り繕うことができるのだから、まずはそこを突破することが肝心です。お付き合いすることとひとつ屋根の下で暮らすことはあんパンとクリームパンくらい違うものであり、いっしょに暮らし始めた途端、それまで一度も顔を出さなかった問題が雨後の筍のように持ち上がるものと心しておきましょう。それなら人が「えっ」とおもうようなカードを初手から切っておくほうが手っ取り早いし、それを受け止めてくれる人こそ真っ当にして正しいパートナー候補だと僕はおもいます。

少なくとも僕は「むむ、ふつうに考えれば頭おかしいけど、これはそれを逆手に取った観測気球なのか?あるいは本当に金星からきたのか?それともやっぱり頭おかしいのか?」くらいには興味をそそられます。個人的には「本当に金星からきている」が冗談抜きでいちばんポイント高いですね。

ただもし伴侶の条件としてたとえば学歴、収入、身長、スタイル、顔面偏差値といった、赤の他人でも指標になるようなわかりやすいステータスを内面より重視される場合はそのかぎりではありません。ステータス保持者を求めるならそれと釣り合うくらいのステータスを身につけるべきだし、すでに身につけているのであれば金星の話などせずに直接ステータスを見せびらかしたほうがよいでしょう。売人同士の取引みたいなものですね。


A. たいへん有利です。




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その338につづく! 

 

2021年7月23日金曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その336


昨日の敵は今日のトムさんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)


Q. 5分間で息抜きをできる方法はあるでしょうか。


息抜き、それは生き馬の目を抜くの略……ではなく生き馬の目を抜く現代社会において欠くこと能わざる心理的メンテナンスのひとつです。息というのは何かと詰まるものであり、詰まるなら窒息する前にとっとと抜かねばなりません。

しかしその方法は多種多様であり、ぶっちゃけ人それぞれです。一ヶ月ほどの休暇をとって世界一周のクルーズに出る人もいれば、鼻くそをほじる人もいます。

後者なんかは5分もかからずに済む可能性大ですが、人目を忍んでほじるだけの甲斐がある大きな成果を常に得られるとは限らないのが難と言えば難です。鼻に指を突っ込むだけで息抜きになるほどわれわれは単純ではない、というかたとえ息抜きになったとしても自分がそこまで簡単な人間だとはさすがに思いたくありません。

だんだん鼻をほじる僕の話みたいなことになってきましたが、もちろん例え話です。そこをそう受け止めるなら世界一周のクルーズに出る人の話も同じように僕のことだと大いに誤解していただきたい。

しかしいかんせん、5分というのはとても短い。ファミレスなら席に案内されておしぼりで手をふいてお冷や飲んでメニュー見て注文する前に帰らなくてはなりません。

また一方で、5分というのはそこそこ長い。ファミレスなら席に案内されておしぼりで手をふいてお冷や飲んでメニュー見て注文してさんざん食ったあと追加注文したデザートに舌鼓を打ち、ドリンクバーのコーヒーを手に窓の外の景色を眺めながらたっぷり1時間は楽しんだ、と想像できるくらいには長い。

もうお気づきですね。カギを握るのは、想像力です。

想像力は時間を拡張します。5分を1時間に引き延ばすくらいならすぐにでもできるわけだから、熟練の拡張者ともなればそれこそ数年を要する世界一周のクルーズを5分で想像しきることも可能です。そもそも想像による時間の拡張に限度はありません。理論的には1000年どころか宇宙の年齢である137億年すら5分に圧縮できるでしょう。

その領域にあってもはや5分という時間の縛りは何の意味も持ちません。そして想像力が許すかぎりありとあらゆることが選択肢に入ります。金も時間も、何なら肉体すら自由に分裂可能です。自分が同時多発的に存在できる以上、不可能なことなどまずありません。何もかもが無限の世界を手にしたあとでは、むしろままならない現実こそが馬鹿馬鹿しい夢に思えてくるでしょう。世界を征服するもよし、何万回と結婚を繰り返すもよし、人類未踏の地を片っ端から踏み倒すもよし、全人類のすね毛を剃って地球からすね毛という概念をなかったことにするもよし、五輪を中止するもよし、ほぼ神です。

ところがこれで終わりではありません。

時空を超えてすべてが可能になるということは、この星に暮らす数十億の人間と対話が可能になる、ということでもあります。今さらそんなことでいったい何が息抜きになるんだとお思いかもしれませんが、チッチッチッ(得意げに指を振っています)。何か肝心なことをお忘れではありませんか?

地球上の対話可能なすべての人に5分で息抜きができる方法を訊ねればよいのです。


A. 想像力を駆使しましょう。




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その337につづく! 


2021年7月16日金曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その335



超10ギガさんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)


Q. 時間指定の荷物が届かない時、何して時間潰しますか?


時間指定の荷物が届かないときにどう時間をつぶすか……いわゆる時間指定の荷物が届かないときにどう時間をつぶすか問題ですが、これもまた現代人が抱える、もしくはなぜこんなものを抱えなくてはいけないのかさっぱりわからない大きな悩みのひとつです。

僕の場合はどう過ごすかよりもむしろ、どう過ごしてはいけないかのほうがはっきりしています。具体的に言うと、うんこをしてはいけません。去年の質問箱でも触れましたが、僕の排便は宅配を磁石のように引きつける性質を持っているので、トイレにこもれば必ずそのタイミングでピンポンが鳴り、配達する人と受け取る僕の双方にとって不幸な事態が発生します。実際には手を伸ばせば届くほどの至近距離にいるにもかかわらずです。

それはもちろん、裏を返せばいつまでたってもやってこない時間指定の荷物を瞬時に引き寄せる能力でもあります。思いのままに利用できるならこんなに便利な能力はありません。読んで字のごとく、便によって利する力と言えましょう。

しかし実際にはこれほどままならない特殊能力もありません。何しろどうあがいても身動きのとれないその状況こそがお届けのトリガーになっているのだから、触れるものすべてを黄金に変えるミダス王の手と同じレベルのジレンマです。

とはいえうんこをせずに待っていれば受け取れる話なので、それはまあどうでもいいといえばどうでもよろしい。問題はうんこをせずに何をするかということですね。

マンガを読んだりゲームに興じたり腕立て伏せをしながら時計をちらちらと気にしつつそわそわ待つのも、単なる荷物なのに好きな人が初めて部屋に来るみたいで業腹です。できれば待ちわびたことなどおくびにも出さずに「ああ、来たのね」と大人っぽくクールに迎えたいし、そうでなくてもせめて「あ、いらっしゃい」と笑顔で余裕こいて迎えたい。なんかもう完全に好きな人を初めて部屋に迎える前提の頭になっていますが、ほぼ同じといえばほぼ同じなのでしかたがありません。初めて部屋に来るならむしろこっちから駅まで迎えにいけよとか言われそうな気もしますが、これは宅配される荷物の話です。

個人的にオススメしたいのは、ゴルフボールを雪だるまのようにひとつずつ上に積んでいくことです。僕自身は3つまで積んだことがありますが、いやでも時間を忘れて集中せざるを得ないし、そのうち世界がまっ白になって自分とゴルフボールだけになります。今にしておもうとあのときの僕は宇宙の真理の一端に触れるとこまで行ってたんじゃないかとおもう。ただ本当に無我の境地に達してしまうと肝心の呼び鈴も聞こえなくなるので注意が必要です。

無為な時間をスリリングに楽しむなら、思いきって最寄りのコンビニまで出かけてくるのもアリです。もしかしたらその数分の間にすれ違ってしまうかもしれないし、帰宅時のタイミングで鉢合わせもあったりして、ギャンブル性に富んでいます。ミスって受け取れないダメージがリスクとしてある分、うまく受け取れたときの射幸感はただ待つよりも莫大です。

しかしまあ、料理あたりが結局そこそこ時間も使うし、いちばん無難かなという気がしますよね。常備菜だったら翌日以降の食卓がちょっと豊かになるし、もしやってくるのが荷物でなく好きな人だったら「カレーつくったんだけど……」とかかなりポイント高そうな気もするし、もうそういう妄想はいいからという人だって、荷物を届けてくれた人に「あの、ちょっと作りすぎちゃったんで、よかったら……」とか言ってそこから始まる別の時間指定がまったくないとも言い切れないわけですから。


A. 手料理で明るい未来を勝ち取ります。




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その336につづく! 

 

2021年7月9日金曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その334


ツルの倍返しさんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)


Q. 今まで食べたものの中で一番美味いと感じたものは何ですか?


こう言ってしまってはなんですが、僕は物心ついてから食べものを前に「不味い」と発語したことは本当に数えるほどしかありません。回数で言ったらたぶん、片手で足りるとおもいます。世間にはすごく美味しいとまでは言えない程度で不味いと言ってしまう人もいますが、僕にとって不味いとはシンプルに「口に入れていられない」という意味であり、実際に吐き出したものだけです。パッと思い出せるのはまだ10代で料理にあれこれ試行錯誤を重ねていたころ、里芋の煮っころがしにオレガノを入れてしまったとき(鉛筆みたいな味でした)と、その昔コンビニで買った森永の「カレーヨーグルト」ですね。西部劇で決闘するガンマンの早撃ちよりも早く吐き出したのは今のところこれだけです。

ためしにググったらウィキペディアの記載があるばかりか、記憶に違わぬ衝撃的な商品であったことを裏付けてもらえて本当に助かります。98年だったか……すげーなインターネット……。

美味いと感じたものの話なのになぜ不味いものの話をしているのかというと、それ以外は僕のなかでだいたい「美味い」に分類されているからです。安心して食事ができることそれ自体を美味いと定義してしまっているふしすらある。

そうなると今までで一番美味いというのはかなりハードルの高い難問になってきます。それはワンピースで言うとサンジに美しい女性を一人選べというようなものです。このたとえでどれくらいの人に伝わるかわからないけど、食物に関しては少なくとも味覚のみでの判断は困難を極めます。どうしてもこう、そのときの状況、思い出なんかとセットになってしまうのは避けられません。

それで言うとまず思い出せるのは、小学生くらいのときに食べたイカの刺身です。水揚げされたばかりのものだったらしくて、色も透明、食感もぷちぷちと口の中で弾けて鼻血が出るほど興奮したのをおぼえています。イカというのは白くてクニクニしたものだとおもっていただけに、あの衝撃は忘れられません。ただこれは味覚がどうというより、味覚ではあるんだけど、それ以上に未知との遭遇ですよね。

それから肉体労働をしていたころ、工事現場の残土で育てていたトマトです。トマトをあんなに美味いとおもったのは後にも先にもこのときだけですが、これもまあ夏の炎天下だったし、真っ赤な完熟をその場でもいで食ったんだからそりゃ美味いわと言うほかありません。たぶん、あのトマトをいま食卓に出しても同じ美味さは味わえないとおもう。残土がまたちょっとね、いい土だったんだよな。

食べものでなくてもよければ、シンプルに味覚のみで衝撃を受けたものがひとつあります。もう10年近く前にブログにも書きましたが、伯母にもらったダージリンのファーストフラッシュです。紅茶ですね。

そもそも僕がコーヒー派であること、また紅茶好きの人がキレてもおかしくないほど時季を逸してしまっていたにも関わらず、あまりの美味さに一週間ほどコーヒーを飲まずその紅茶だけをだいじに飲んでいたこと、さらに状況や思い出なんかとは結びついていなかったこと等々を考え合わせると、本当に掛け値なしの美味さだったんだとおもいます。中国茶の奥深さもヤバいらしいという風の噂も、あのとき初めて、実感として理解できたような気がしたものです。紅茶なのに黄金色だったしな……。

アイスの中で、というかなり限定された条件つきでよければ、これも昔、名前も覚えていないお店で食べたザバイオーネのジェラートです。そもそも特にアイス好きというわけでもないので、これを超えたことはいまだにありません。ザバイオーネが何だかも知らなかったし、今ググっても「んん?そうだっけ?」というかんじで全然ピンとこないのだけれど、ザバイオーネという耳慣れない単語だけは今でもよく覚えているし、あれから一度も出会っていないせいもあって僕の中でちょっとした伝説と化しています。あれは一体何だったんだという謎がまた過大評価に拍車をかけているとおもう。

それでまあ、一晩たってもまだ今までに食べた美味いものを思い出そうとしていたのだけれど、単にめちゃめちゃ美味い、ならいくらでも出てくるんですよね。あれも美味かったし、これも美味かった、でもその中で一番と言われると途端に思考が止まります。人生でとりわけ美味かったものを、たったひとつだけ挙げるなんてことができるんだろうか……?それはある意味、否が応でも自分の人生を象徴する、もしくはそれと等価値を持つ食べものです。ですよね?

選んでみたい……けど、そうすると何だ?何になるんだ?紅茶……紅茶でいいのか……?毎日飲んでいるのはコーヒーなのに?

しみじみと、よい質問です。機会があったらいろんな人に訊いてみよう。とりあえず今日のところは、紅茶で!食べものじゃないですけど。


A. 伯母がインドから持ち帰ったダージリンのファーストフラッシュです。




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その335につづく!