慣れないライブの後はいつも力尽きて、しばらく人として使い物にならない日々が続くわけですけれども、今回は翌日本当に発熱してぶっ倒れておりました。まじかよとお思いでしょうが、僕もまったく同感です。ワンマンと言っても過言ではないライブをやっておいて毎回なぜ二の足を踏むのか、図らずも証明してしまったと申せましょう。プーン!(鼻をかむ音)
ともあれ「アグローと夜 2024」はおかげさまで今年も大団円のうちに閉幕と相成りました。今回も北は北海道から南は大分まで、全国各地プラス海外は中国からもお越しいただいて、この感謝の気持ちをどうお伝えしたらよいのか言葉もありません。ありがとうありがとうありがとう!
常に多くの機会を有するタケウチカズタケはともかく、まずそんな機会のない僕について言えば世界中に点在する全フォロワーが一堂に会する何らかの記念日であり、四葉のクローバーを見つけるよりも難しい同志の存在を実感できる千載一遇の夜です。
だからこそ、その甲斐あったと感じてもらえる夜になるよう全身全霊で努めていますけれども、とりわけ今年はいつになくその実感がありました。
何と言っても今回最大の特徴は、曲の合間にちょいちょいCMが挿入されたことです。ふつう挟まれるのはCMではなくMCのはずですが、たっぷりあるMCとはぜんぜん別に、演者自ら丹精こめて製作したCMが流れる構成だったわけですね。そしてそのクオリティたるや下手な外注を余裕で上回るレベルであったと、これも申し添えておきましょう。曲の余韻に浸る間もなく唐突に不可解なCMがぶちこまれるばかりか、次はどんなCMで、いつ流れるのかもわからない以上、ほとんどロシアンルーレットみたいなものであり、場内のアドレナリン濃度が高まるのは当然というほかありません。超たのしかったよね!
それから、僕にとってもカズタケさんにとっても想定外の変化を遂げつつあるのが、去年も披露している「紙芝居を安全に楽しむために」です。
これはもともとビートに合わせて書いたものではありません。そもそも音楽に乗せることすら想定されておらず、音楽とは関係のない仕事でプレゼンのためにデモとして録音しておいた、純然たる朗読です。それを組曲に仕立ててくれたのがカズタケさんなわけですが、朗読としての全体のリズムを維持しつつも、朗読をビートに合わせてめちゃめちゃ細かく調整してくれています。つまりビートを意識しながら朗読したような仕上がりになっているのです。単に朗読とBGMを貼り合わせた作品では、全然ない。それどころか余人には窺い知れない極めて高度な音楽的スキルがしれっと施されています。今でもアグロー案内における傑作の一つとして揺るがない所以です。
それゆえに当然、ライブでの精密な再現はほぼ不可能に近い。(というか本人含めて誰も求めていない)
と思っていたのだけれど、音源と同じである必要はないし、むしろ違うほうがライブらしくていいし、タイム感が変わっても問題なく対応できるから、テキスト読みながらでもええやん、とカズタケさんが請けあってくれたので、思いきって去年も一昨年も披露してきた次第です。
ところがこの3年で何百回も繰り返し練習しているうちに、僕のほうに意外な変化が起きました。これまでは綱渡りをするような感覚だったのが、口笛を吹きながら綱を渡るような感覚に変わってきたのです。
もうすこし具体的には、カズタケさんのビートに対してこちらから掴むイメージを持てるようになった、もしくは初めからビートがあることを前提にした朗読であったかのように、自ら寄せることができるようになってきています。
僕自身はもちろん、カズタケさんにとっても想定外、と先に書いたのはそのためです。作品としての発端を考えると、こんな着地は夢にも思っていなかった。
15分もの間、ただひたすら自己啓発セミナーの講師よろしくぺらぺらと喋っているだけのように見えながら、足場としてのリズムを要所要所で確実に踏んでいくとすれば、その醍醐味はまさにライブならではということになるでしょう。
もはやテキストの中身など問題ではありません。どのみち何も言っていないに等しいのだから、意味を聞き取る必要もない。何だかよくわからない異様な熱弁が気がつけば音楽とシンクロしている、そんな不思議な感覚を、おそらくライブではより強く味わえます。意味を追わずにぼーっと聴けば聴くほど、音楽的な側面が色濃く浮かび上がるはずです。そういう作品じゃなかったはずなんだけど。
そしてもうひとつ、「コード四〇四」が新たにラインナップに加わったことで、個人的にはピースの揃った印象があります。表現としての振り幅が大きければ大きいほど、却って他の作品が活きてくるはずとずっと思っていたので、これはうれしかった。昔は自分にとって超絶技巧だったのが、今では単なる技巧のひとつでしかないと知ることができたのも大きい。
今でこそ当たり前のようにカズタケさんのピアノひとつで「棘」や「処方箋」を演っているけれど、最初はちいさなライブで即興的に試してみたらビートなしではリズムがぜんぜんとれなくてグダグダになり、赤っ恥をかいた記憶があります。それだって昔の僕には超絶技巧だったのです。
総じて、ぜんぶ丸ごと、観てもらえてよかったと思える、そして心から楽しかったと言える夜、それが「アグローと夜 2024」だったと思います。それもこれも、新たな引き出しを開けてくれた御大タケウチカズタケのおかげであり、何より今もこうしてお付き合いくださるみなさまのおかげです。もしまたこんな夜があるとしたら、絶対に心躍るひとときになると胸を張って言いたい。
心躍るひとときになることを確約できるのに、ライブそのものを確約できないのは、やると発熱して寝こむからです。こればっかりはもう、体質だからしかたありません。
とにもかくにも、またお目にかかることを心から願って!
本当にありがとうー!