2022年8月26日金曜日

押し入れにあることを知っているが知らないふりをして驚いてみせる話


たとえば押し入れを開けたら誕生日プレゼントらしきものを見つけてしまったけれども、全然知らなかったことにしてさも当日初めて知ったかのように振る舞うといった光景は、人生においてはよくあるハートウォーミングな一コマです。

それと同じように、何らかの超自然的な見えざる力によって実は先週から一部というか7割方解禁されていたらしいのだけれども27日解禁ですと言い張っていたために今さらちがいましたとも言い出せずまあ広い宇宙にはそういう世界線もあるだろうということにしてしれっと待ちわびていた「アグロー案内 VOL.2」がいよいよ27日(土)午前0時に解禁となります。


すでに解禁されていることなど歯牙にもかけず律儀に午前0時を待つもよし、何ならちょっと早まったサプライズとして堂々と楽しむもよし、なぜか1曲だけ最後の最後まで伏せられているけれども、どちらかといえば伏せなくていいほうをきっちり伏せているので全体としてはもはや差し障りもありません。

しかし実際のところ、これ以上は発信できることないし困ったなあと思い悩んでいた僕にとって、この渡りに船とも言うべき不測の事態は全力でウェルカムです。何ならよくやってくれたと何らかの超自然的な見えざる力を讃えてやりたい。

そんなわけで兎にも角にも解禁を寿ぎつつ、次回は作中で聞かれる「やあ、どうも。蕨市に行ってらしたんですね?」という不可解きわまりないセリフについて説明しましょう。

楽しんでもらえますように!

それにしてもHow to enjoy getting lost(迷子の楽しみかた)」をサブタイトルに掲げる作品それ自体が公開までの一本道で迷走するとか、最高じゃないですか?

2022年8月19日金曜日

謎めく探偵、「山本和男」の足跡を追え!


さてVOL.1のリリースから3週間がすぎ、今や多くの人がいざというときにサッと避ける素早さを身につけるべく、反復横跳びをしたり映画「マトリックス」におけるネオやエージェントの動作を姿見の前でコピーしたりしながら、日々鍛錬を重ねていると言います。


これほどの波紋を呼んだ「紙芝居を安全に楽しむために」とは結局のところ何だったのか、それは青いバラだったのかそれともラフレシアだったのか、今後も似たようなことが繰り返される可能性を考慮すると、やはりDJや学者、弁護士、飼い猫などで構成される第三者委員会を立ち上げ、経緯や影響といったあらゆる角度からの客観的な検証と報告を待たねばなりません。

そんな中、舌の根も乾かぬうちに早くも配信が決定した「アグロー案内 VOL.2」の、おそらく物議は醸さないわりと真っ当なトラックリストがこちらになります。


 山本和男って誰やねんと思われる方には「アグロー案内」における最初の告知画像を振り返っていただきたい。


じつは僕もよく知りません。というのもこれはタケウチカズタケが今から36年前(!)に生み出した、何ならペルソナと言っても過言ではない、彼にとって格別重要な意味を持つキャラクターだからです。なんだかんだと長い付き合いなのでこのキャラクターには馴染みのある僕も、まさかこんな形で展開したあげく結実するとは想像もしていませんでした。

これ以上は山本和男をよく知らない僕ではなく、タケウチカズタケ本人が語ることになるでしょう。一度語り始めたらまじで夜が明けるまで止まらないくらい濃密な、それでいてとくに中身のない物語がそこにあります。

ここにおける僕の役割はアニメやゲームでお馴染みの、いわゆるCV(キャラクターボイス)というやつです。

僕にとっても、また御大タケウチカズタケにとってもこのVOL.2におけるハイライトはむしろ1曲目の「間奏者たち/interluders」だと思いますが、それはまた改めてお話ししましょう。

配信開始は今からちょうど1週間後、8月27日(土)の午前0時です。

2022年8月12日金曜日

そして次に待つ「アグロー案内 VOL.2」のこと


おかげさまでリリースの局所的なほとぼりも冷め、何なら早くも遠い過去のように懐かしく思い返しながら縁側でのんびりお茶を啜っているところではありますけれども、しかしちょっと忘れがたい記録として、もしくはささやかな思い出として、amazonデジタルミュージック「バラエティ・効果音」部門の新着ランキングと売れ筋ランキングで1位をうっかり獲得したことだけはやはりここに明記しておかねばなりますまい。



僕にとってははたとえば100万回再生とかよりはるかに価値ある狂喜乱舞の栄誉です。何しろ満を持してリリースした楽曲がNHKラジオビジネス英語と同じカテゴリにぶちこまれた挙句、一瞬とはいえ1位に躍り出ておめでとうございますとか、人に話しても全然わかってもらえる気がしない点でこれこそ「アグロー案内」にふさわしい展開というほかありません。ありがとうありがとうありがとう。

とはいえ次はもっと純粋に洗練された超クールな音楽なので、逆にこれほど愉快なことにはどう考えてもなりようがありません。少なくとも収録された楽曲すべてが「何言ってんだ」の一言で一貫していたVOL.1とは一線を画します。それが「アグロー案内 VOL.2」です。


先日ついに準備が整い、このまま何ごともなければ、8月27日(土)午前0時配信と相成りました。まさかの2ヶ月連続リリースです。

ご承知のように、僕にこのまま毎月連続するほどのバイタリティはありません。それができるくらいならこれまでも定期的に何かしらリリースしていたはずです。それ以上にそもそもタケウチカズタケがこんなことをしている場合ではないくらい日ごろから多忙なので、今回の間を置かないリリースはまことに奇跡的であると申せましょう。

あらかじめ想定していたわけでは全然ないし、あくまで現時点での僕個人の印象だけれど、「アグロー案内」VOL.1とVOL.2がセットでひとつの基準になるような気がしています。というのはつまり、こんな感じで進んでいくよ、という全体のふわっとしたコンセプトをこの2つで示すことができたように思われるのです。

実際、VOL.2に収録される一編はVOL.1のリリースを告知した後に生まれています。

その片鱗がなんとなく感じられるはずのトラックリストはまた来週、お知らせしましょう。今はっきりと断言できるのは、これまで数少ないライブでしか披露していなかった、したがって大半の人が初耳である作品の新装版が収録されていること、またそれが御大タケウチカズタケにとって2022年最大の自信作であること、さらにそれが僕の永久プロデューサーである古川耕の心をも震わせたことだけです。

どうかどうか、刮目してお待ちあそばせ。



2022年8月5日金曜日

「紙芝居を安全に楽しむために」のことを、もう少しだけ


さて、リリースからぶじに1週間がたち、iTunes Storeで1位を掠め取ったり、南極の基地から購入報告が届いたり、amazonデジタルミュージック「バラエティ・効果音」部門でNHKラジオビジネス英語と並んで3位に食いこんだりしつつ、シェアしようにもしようがない、それ以前にどう受け止めてよいのかわからない、そんな想定どおりの戸惑いがいい具合に浸透したところで「紙芝居を安全に楽しむために」のことをもう少しだけお話ししましょう。

このテキストはもともと、本当に紙芝居のために書かれたものです。正確にはとあるプロジェクトで紙芝居を作りませんかというオファーをいただき、他にも錚々たる顔ぶれの作家さん方がおられる中で僕がやるとしたらたぶんこういう形ですよねと提案し、実際に書き、さらにこの内容をクソまじめに朗読することでめちゃめちゃおもしろくなることを示すべく自ら手本として録音したのが、つまりこれです。何年前のことだったか、とにかくこの時点では音楽のことは微塵も考えていませんでした。というか、普通は考えないとおもう。

カズタケさんのブログにもあったように、これを「こんなのあるけど、どうですか」と送ったのは僕です。ただ何しろ15分もあるので「これを楽曲に」というストレートな意味では全然なく、むしろ「この音声をコラージュ的に切り刻んだり貼り付けたりして有効活用できませんか」という意味合いで送っています。再構築ではないけれど、単なる音声素材として再利用することによって新たな意味や別の印象が生まれたりするのではないか、といった音楽的かつ実験的な期待と目論見があったわけですね。事実、最初に生まれたのはフレーズを切り貼りして数分のコラージュにまとめた、めちゃクールなダイジェスト版でした(もちろんこれも今後のアグロー案内シリーズに収録される予定です)。

しかしこれに飽きたらず、せっかくだから全編を楽曲にしてしまおうというのも、そしてそれを長い一曲ではなく組曲にアレンジすることも、完全にカズタケさん一人のアイデアです。僕が一聴して「ええええええ」とのけぞったのは、そもそもそういう話ではまったくなかったからだし、それでいて恐るべき完成度に仕上がっていたからです。

この作品に関しては、率直に申し上げて僕は何もしていません。録り直そうかなとは思ったし、実際に録り直してもみたんだけれど、けっきょく最初のバージョンがすごくよく録れていたので、それをそのまま送っています。でもまさかそれがそのまま楽曲になるなんて想像もしていなかった。

もともと僕は文章それ自体にもリズムを求めるタイプなので、書いて詠んだものは常にビートと一定の親和性を示すところがあります。とはいえそれをさらに編集し、インターバルを変え、その上でビートの展開を調整し、なおかつ音楽と朗読を完全に同じ強度に保つ異次元のミックスを施す、といった複雑極まりない作業を一手に担っているのは、あくまでタケウチカズタケ一人です。僕は何もしていません。僕がしたのは数年前に録音したものをただデータとして送信しただけです。

だからこそ僕はこれを他人事のように断言せずにはいられません。これは言葉と音楽という組み合わせでどこまで展開できるかというアプローチと可能性を明確に示すものです。

こんなテキストを書く人は世に数多いるでしょう。こんな朗読ができる人もまた同じように数多いるでしょう。しかしその両方を兼ね備えた人はそう多くはないはずです。こうして生まれた稀有な一皿をさらに稀有なフルコースへと変ずることのできる料理人的音楽家が果たしてどれくらい存在するのか、疑問というほかありません。

僕なんか歯牙にもかけないどれほど偉大な物書きがいようと、また仮にタケウチカズタケ以上のトラックメイカーがいようと、まず絶対にこうはならないと断言できます。「紙芝居を安全に楽しむために」は、それほどの圧倒的な完成度です。

これができるならこの先のアプローチと自由度が驚くほど広がる、他の人がやらないしできないならリリースする意味も甲斐もある、そんな確信にも似た印象を抱いたからこそ、「アグロー案内」の初回に象徴的なこの作品をぶち込んでいます。誰もが熱狂できるような代物ではもちろん全然ないけれど、たとえばアルバムの一部としてインタールード的に扱うには重みが歴然すぎたのです。

僕がなぜ日頃から自身のパフォーマンスをポエトリーリーディングと呼ばずにリーディングと呼んでいるのか、その理由もまたVOL.2、VOL.3とシリーズが進むにつれ、実感としてわかってもらえるはずです。

VOL.2も着々と準備が進んでいます。どうか今の困惑を抱いたまま、今後を楽しみにしてもらえますように。