2013年11月9日土曜日
かろうじてお話しできそうなことをいくつか
<前回までのあらすじ>
いるのかいないのか、いるとすればなぜいないように見えるのか、ときどき思い出したようにプツリと消息を絶つのはべつに珍しいことでもないからそれはもちろん棚上げでよいとして、だとすると部屋にあるあの梨のようなものは何なのか、あれこそがまさしく本人なのだとするとなぜ齧ると甘い味がするのか、そしてまた本人でないとするとなぜあんなに瓜二つなのか、だいたい梨一つなのに瓜二つとはあまりに人を馬鹿にしているのではないか、いかにぞや、とまあ概ねこんな感じの流れでアンジェリカがダイゴくんに電話をかけています。アンジェリカのそばにはピス田さんがいます。アンジェリカは散弾銃で市長の鼻を吹っ飛ばしたことのある剛胆な女性です。ダイゴくんというのはこのブログの主です。ピス田さんはムール貝博士の助手であり、性別でいうとオスです。ムール貝博士は今ここにいませんが、このブログにおける火種そのものと言うべき人物です。
そしてここがどんなブログかというと、うっかり目玉焼きについての秘密を開陳してしまったがために、お腹を空かせたネットユーザーが多数ふらりと訪れるようになったものの、CDを3枚も出していることについては一切ふれられず、モノがモノだけにどちらかといえば不審がられ、あげく「もっとこんなレシピないですか」との要望が寄せられるようになり、そんならいっそ心機一転「ムール貝博士の手軽でおいしいひとくちレシピ」と看板を掛け替えてアクセスを稼ぎ、ついでにアフィリエイトもフル活用して文字どおりそれでゴハンを食ったほうがよほど生産的であるぞと真剣に検討していたら、ふいにポロリと涙がこぼれ落ち、げにむなしきは独り相撲と愁嘆に暮れる、あまたの個人発信の例にもれず、ここもそういう場のひとつです。
それはさておき
「もしもし」
「あッ出た!」
プツリ
ツーツーツー
「そして切られた」
「切るくらいなら出なきゃいいのに」
「それはムリでしょ」
「なんで?」
「だってあたしがかけてるんだもの」
「でも切ったぜ」
「それくらいの選択肢は与えてあげないとね」
「またかけるの?」
「当然」
「また切られるんじゃないの」
「馬鹿のひとつ覚えがいつまでも通用するわけないでしょ」
「電話ってそういうもんだっけ?」
「あっ」
「出た?」
「ははあ、そうくるわけね」
「どうしたの」
「電源切られた」
「むこうはむこうで心得てるわけだ」
「やれやれ!」
「どうする?」
「どうするって?」
「さすがにもうつながらなさそうだよ」
「そう?」
「そうって…そうでしょ」
「じっさいのところ電源が入ってようとなかろうと、関係ないのよ」
「いや、あるよ。関係メチャある」
「望んでもない番号を知らないうちに登録することができるなら、電源の入ってないケータイに電話をかけることだってできるはずでしょ」
「いやいやいや」
「カピバラがライオンに楯突いて勝てるとおもうほうがおかしい」
「自分を百獣の王にたとえたよこの人は」
「目にモノ見せてあげよう」
30分後
「というわけで」
「ホントにつながったね……」
「そう言ったでしょ」
「言ったけども……」
「抵抗するダイゴくんからムリヤリ引きずり出した情報がこれ」
「べつに欲しかったわけじゃない気もするけど」
「まあ、つながったからには引きずり出しておかないとね」
「穴があったらもれなく指を入れてみる、みたいなことだな」
「写真が送られてきた」
「写真?なんの?」
「さあ。地獄の入り口だって」
「またそんなところをうろうろしてるのか……」
「地獄の沙汰も金次第って言うし」
「ダイゴくん金もってたっけ?」
「だから追い出されたんでしょ」
「地獄から追い出されるなら貧窮もわるくないな」
「あといくつか情報があるんだけど、いちばん大事なのはコレ」
「何?」
「あれは梨です」
「ガーン!」
「新高梨です」
「いきなり核心に切り込んだ上にダメージがでかい」
「高速でぶつければ人の頭くらいは楽に砕けそう」
「砲丸みたいに言うけど、梨の話だよね?」
「それから、えーと、あとは大体わからない」
「わからないって?梨なんでしょ」
「梨じゃなくて、ダイゴくんの話」
「梨だったってだけでもう十分傷ついたよ」
「いろいろ聞いたんだけど、何を言ってるかわからないの」
「たとえば?」
「たとえばコレ」
→アルバムをつくっています。
「またか!懲りない男だ」
「アルバムって写真貼るアレでしょ?」
「いや……え?そういう認識?」
「夏の思い出でも整理してるわけ?」
「そんな思い出があればね」
「あとはまるでちんぷんかんぷん」
「何て言ってた?」
「箇条書きにするとこんなかんじ」
→気がついたらビートが40個くらい貯まっている
→そのうち20個ちかくはすでに詩がついている
→ただしいつにも増して大衆性を欠くため、リリース確定には至らず
→ムール貝博士の過去がひとつ明らかに
「おいおいおい」
「ってわけ」
「他はどうでもいいけど、最後のは何だ?」
「さあ……あたしにはそれだってどうでもいいけど」
「アンジェリカにはよくてもこっちがよくない」
「そもそも何の話をしてるのかさっぱりわからないし」
「CDの話だとおもうけどね」
「キャッシュ・ディスペンサー?」
「大衆性を欠くキャッシュディスペンサーに需要はあるのか?」
「まあ、とりあえず梨問題は片付いたからこれでよしってことよね」
「ヤブヘビだったとしかおもえない」
「死んでも遺体が腐らない程度には痛めつけておいたから、次は包帯でぐるぐる巻きのダイゴくん自身が息も絶え絶えに事態の収拾を図ります」
「せめて死なない程度に……え、電話で?」
「ついでに借りた本も顔面に叩きつけてやった」
「それはありありと目に浮かぶ」
「以上です。では解散!」
「博士には言えないな、まったく」
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