2022年7月29日金曜日

満を持して今夜24時リリースですの巻


ついにその厚いベールを脱ぐ日がやってまいりました。

着るだけで日焼けを軽減してくれるばかりか、心まで軽くなる、もしくは軽薄になると早くも各方面でバズりまくりだったらいいのになぜかそうはならない超体感型幻覚誘引Tシャツ「アグロー案内」がいよいよリリースです。

苦節数年…つかみどころのないままひたすら廻り道を繰り返したひとつのプロジェクトが最終的に工場で美しくプリントされた目もあやなTシャツとして落着するとは一体誰に予想できたでしょう。たとえ人外の妖であってもTシャツさえあればそれだけで人間社会に違和感なく溶けこめる……そんな夢にも似た未来がこの1枚であっさりと叶うのです。感無量と言うほかありません。






またそれを記念して制作されたわけでは全然ない何らかのシリーズ音源「アグロー案内 VOL.1」が明日、もしくは今から数時間後の30日(土)0時から配信開始となります。

配信先の一覧はこちら

トラックリストには「紙芝居を安全に楽しむために」という、一見するとTシャツとは何の関係もなさそうな、そしてどう見てもまったく同じ文字列がなぜか4つも並んでいますが、もちろんコピペではありません。4つで1つの組曲です。

たしかふたりで「ソウルミュージックをつくろう」と意気込んでいたはずなのに、歌どころかラップですらなく、おまけに配信のプラットフォームではなぜか「ロック、ブルース」ジャンルにぶちこまれています。いったい何がどうなっているのかをこれ以上どう説明したらよいのかも今となってはさっぱりわからない、「問題児」と同じ意味での問題作です。

しかし、剣呑で殺伐とした一寸先は闇の現実世界にいま最も必要なものこそこれである、とプロジェクトの発起人たるわれわれは考えます。

以前にも書きましたが、おそらく一聴しただけではただ呆然とするだけでピンときません。実際これまでに聴いてもらった人々からは、賛辞よりも困惑の声をはるかに多くいただいているくらいです。この塩辛い事実を踏まえて、少なくとも最初に3回は通しで聴いてみてください。御大タケウチカズタケがいみじくも申していたように、言葉と発声のテンポ、リズム、間合い、意味合い、構成の面白さ、それらすべてを考慮しながら、曲のテンポや曲調を調整した上で制作されている、とんでもない奥行きと破壊力を持った奇跡の徒花であることに気づくはずです。

ぜひ全身で、目いっぱい、楽しんでください。みなさんの身の安全と紙芝居の安泰を、心から祈っています。

※ヘッドフォン超推奨です。


2022年7月22日金曜日

まだ始まっていない祭りの後みたいな先取り精神の話


それでまあ、煽るだけ煽っておいて何だけれど、「アグロー案内 VOL.1」についてこれ以上申し上げられることがあるかと言ったら、別にもうないのです。僕としてはむしろすでにすべてを出し尽くした充足感と心地よい疲労感に満たされており、何なら始まってもいないのにぜんぶ終わって静まり返る祭りのあと、誰もいなくなった広場で夜空を見上げながら、楽しかったなあと甘いため息をつくような印象すらあります。

人間、成し遂げなくとも成し遂げた気にはなれる……胸を張って堂々と言えば名言に聞こえなくもないけど実際のところ名言でも何でもないことをぼんやり考える夏です。

しかし一方で考えようによっては、終わったあとのしんみりを始まる前から先取りしておくのも悪くない気がしています。ありもしない時間をさもあったかのように振り返り、しみじみと感謝の念を述べ、ちょっとさみしそうな笑顔でまたねと手を振る、その後に振り返ったはずの楽しい時間がタイムマシンよろしく訪れるのです。しかも現実に終わったあとの寂寥感はもう済ませてしまっているわけだから、それを改めて追体験する必要もありません。しんみりしかけたらそれはもう味わったことを思い出せばよろしい。実際ここまで書いて、早くも音源の配信日が先週であったような錯覚に陥りかけています。

ひょっとすると僕は心理的なタイムリープとそのやり方を発見してしまったのではないだろうか?


思えば僕は昔からこれといってアピールできることもなく、豆つぶみたいなお知らせがあるたび、それをさらに細かく切り分け、粉末状にし、薬物みたいな分量でちまちまと発信してはその粉末が鼻に入ってくしゃみが止まらなくなる男です。

ほかの多くの表現者とちがって第一には自分自身のためということもあり、こうなりたいとか作るのをやめるとかは考えたこともないけれど、それでもまだこうして時々ぽつりとお知らせすることがあるのはしあわせの一言に尽きます。その結果、たとえ時速1kmでも、歩きつづけていればそれまで見たことのない景色を目にすることになるという当たり前すぎる事実を、改めて噛みしめずにはいられません。

詩にしてもグラフィックにしても、もちろん音楽にしても、伝えたいとか、多くの人に届けたいとか、共感してほしいとかよりもただただ、こんな形があってもいいよなと、今も昔もそれだけを考えています。それでいて1人でも2人でも、誰かと共有することができるんだからこんなにありがたいことはありません。

本当にいつもありがとう。「アグロー案内 VOL.2」も着々と進んでいます。まだ配信もされていないVOL.1も楽しかったな…と今のうちにしんみりしておいてください。仮に完全な期待はずれだったとしても、視点が未来にあればすぐに気持ちを切り替えて次へと進むことができるはずです。

何しろ始まると見せかけてその前に終わる姿勢は、「アグロー案内 VOL.1」で描かれることそのままでもあるのです。

2022年7月15日金曜日

トラックリストもへったくれもないトラックリストのこと


告知の時点で全部まとめて済ませばよいものを、まだ聴いたこともない音源のトラックリストだけを話題にしていったい何になるというのだ、と訝しくお思いでしょうが、ことこのVOL.1に関しては、トラックリストがもたらす奇異な第一印象からして「ちがいます、そうじゃないんです、話を聞いてください」と先に弁解しておく必要がありそうに思われるのです。

ともあれ7月30日の配信が決定した「アグロー案内 VOL.1」、そのトラックリストがこちらになります。

 
皆まで言うなと、申し上げるほかありません。いやちょっと待てと言いたい、今すぐにでも怒涛の勢いで突っ込みたい、なんならクレームの電凸を入れたい、その気持ちはよくわかります。しかし落ち着いていただきたい。実際のところこれはもう、本当にこうするより仕方がなかったのです。

いかに無神経で無頓着で唐変木の僕とて、自分が何を求められているかくらいはわかります。その点に関しては何の心配もいりません。なんといってもこれは今後も継続が期待できるシリーズとしてのプロジェクトであり、VOL.2、VOL.3には「そうそう、これこれ」と頷いてもらえる作品の収録が予定されています。大丈夫です。待ち構えるだけの甲斐はあります。あるはずです。なかったらすみません。

にもかかわらず最初にこの、トラックリストからしてエキセントリックな作品を持ってきたのは、誰より僕自身が「何だこれは」と一聴してひっくり返ったからです。すごく良い曲に仕上げてもらえてうれしいとかならともかく、何これと目玉が飛び出るような驚きは未だかつて味わったことがありません。

何しろ朗読と音楽という組み合わせから容易に想像されるものとは明らかに次元が違います。アルバムの一部だったらこのインパクトは絶対に伝わらない、だからこそこの形なのであり、だからこそシリーズ一作目にこれだけを選んだのです。この形に落とし込んだ御大タケウチカズタケの、凄まじい異才っぷりとその鮮やかすぎる着地をまじで存分に味わっていただきたい。

4つに分かれた、いわば「組曲」になっているのは、元の朗読が15分あったからです。しかし組曲へと編集した結果、元々はなかったはずの起承転結が生じ、壮大なスケールで展開する一大絵巻に昇華されています。4編の曲調が明確に異なっているので、一定のテンポで同じように朗読しているにもかかわらず「疾走感」と「気だるさ」といったどう考えても相反するような印象が1編ごとに付与されているのです。このブースト感は筆舌に尽くしがたいものがあります。

おそらく一聴では味わいきれません。僕自身もう飽きるくらい聴き返していますが、どういうわけかその度に発見があります。何よりこれが繰り返し楽しめる音楽であり、聴けば聴くほどこのビートでしかありえないほどの調和っぷりに愕然とさせられるはずです。20年近く細々とつづけてきたその先にまさかこんな景色が広がっているなんて、想像もしていませんでした。

1曲数分の一般的な形式ではとても表現しきれない、それでいて紙芝居が始まる前にぜんぶ終わってしまう本末転倒の超大作です。あと、朗読と音楽が耳に対して完全に等価でどっちもガンガン迫ってくる、とんでもないミックスが施されている点も見逃せません。世界に届けるべき御大の超絶技巧をこんな場末で浪費して本当によいのか、冷や汗が流れるくらいです。

そしてさらに、これほど針の振り切れたテキストを自ら書いて自ら完璧に朗読することができるのも、僕だけであるとたまには豪語しておきましょう。

どうか多くの人にびっくりしてもらえますように……。

2022年7月8日金曜日

プロジェクト「アグロー案内」とは何か?


毎週こつこつと更新しているパンドラ的質問箱を差し置いてぜんぜん関係ない別のことを発信していいものか、すこし躊躇われるものがなくもなかったのだけれど、よくよく考えたらそもそも発信することが特にないから仕方なくその代替として質問箱を設置していたのにいつの間にか主従が逆になっていたことにふと気がつき、質問箱を楽しみにしてくれている数人の心やさしきフォロワーもきっと大らかに受け止めてもらえるにちがいないと胸を張って申しますが

新たな音源が数年ぶりに配信されることになりました。


ツイッターではぽろぽろとアピールしていましたが「アグロー案内」とは、御大タケウチカズタケと小林大吾による、初めての明確な音源プロジェクトです。

不定期かつ断続的にではあるけれども、できれば細くでも長く続けたいという思いから、全部まとめていっぺんにではなく、すこしずつぽつぽつと継続的に放流していければと考えています。

その嚆矢となるVOL.1の配信日は7月30日(土)の0時です。土曜と言っても0時だし、なんなら29日(金)の24時と言い換えてもよろしい。


もともとは椎名純平さんを含めた「the 3」収録の「処方箋/sounds like a lovesong」やライブでのみ披露した「棘/tweezers」なんかのように、既存曲のリメイクをカズタケさんが持ちかけてくれたことから始まっているのだけれど、次はこれ、その次はこれ、と数年かけて気長に続けながら、合間に新しいビートを聴かせてもらったり、個人的に録音していたリーディングを聴いてもらったりしているうちに、思いもよらない形で結実したのがこの「アグロー案内」です。

そもそもが新曲をつくろうとか音源にしようという話から始まったわけではまったくないので、率直に申して当事者である僕らふたりが「まじかよ」と仰天しているところがあります。着地点どころか、作り方からしてイレギュラー極まりないこともあって、始めたころには想像もしていなかったユニークな形になっているはずです。

お話ししたいことが、いっぱいあります。僕がこれまでにリリースしてきたどのアルバムよりも、おもしろすぎる裏話が山積みです。

でも、とにもかくにも、音楽と言葉でこんなことまでできるという驚きを、まずは体験してもらいたい。「アグロー案内 VOL.1」に収められた楽曲には、とりわけ僕のそんな思いが込められています。また今この時点でもすでにVOL.3くらいまでのイメージが固まりつつあるので、楽しみにしてもらえたらうれしいし、誰より僕が楽しみです。

配信までちょこちょことお知らせしていくつもり…と言ってももうそんなに言えることないけど、来週あたりにはトラックリストもへったくれもないトラックリスト、大事なことなので2度言うとトラックリストもへったくれもないトラックリストを公開するので、どうかまたしばらくの間、お付き合いくださいませ。
 

2022年7月1日金曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その381


すこしずつ、御大タケウチカズタケとの音源プロジェクトが形になってきています。第1弾は夏!近ごろはどこから夏なのかわからない気もしますが、カレンダーを見ながら「このへんが夏だったよね」と概ねみんなの意見が一致するはずの、昔ながらの夏です。

どこに着地するのかまったくわからない暗中模索アプローチが本当におもしろくて、できれば細くでも気長に続けられたらいいな、と個人的には感じているほどなので、全部いっぺんにまとめてではなく、不定期に数曲ずつぽろりと放流される…とおもいます。たぶん。

シリーズタイトルとロゴは決定しているので、刮目してお待ちあそばせ。

シリーズロゴ、のシルエット


はぐれメタル純情派さんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)


Q. 子供におすすめの絵本を教えてください。


意外に思われるかもしれませんが、実は質問箱に寄せられる、というか毎年あの手この手で半ば強制的に徴収されるなかでも、これはかなり頻度の高い質問のひとつです。

僕も絵本は大好きなので、取り上げてみたいものはそれなりにあるのだけれど、おすすめを訊かれるといつも口籠もってしまいます。なんとなれば心のどこかで「子どもに薦められる絵本て結局どういうことなんだろう」と引っかかっているところがあるからです。

例えば僕はレオ・レオニの「スイミー」を小学校の教科書で読んだ記憶がわりと鮮明に残っているのだけれど、絵も話も覚えていながらそれ以上の印象は特にありませんでした。うむ、知っている、というだけです。

一方で10代の後半になってから改めて手に取り、これが絵本として本当に掛け値なしの傑作であることに気づいてひっくり返ったこともまた、はっきりと覚えています。えっウソでしょこんなに美しい本だった…?とのけぞったその印象は、今も変わりません。歴史に残るモンスター級の一冊だとおもう。

でも「フーン」というだけのことでしかなかった小学1年当時の僕の印象もまた、本当です。あのころの僕に今の僕の印象をどれだけ力説したところでおそらくろくすっぽ伝わりはしますまい。

つまり僕の心のどこかには今も、あの頃のピンとこなかった僕が指標のひとつとして居座っているのです。大人になった僕の感覚はあのころの僕に対してどれほどの意味があるんだろうか?ということですね。

結果として多くの子どもに好かれる絵本は厳然と存在するし、それはまちがいなく良い絵本です。ただそもそも大人が子ども向けにつくって大人が良いと薦めるものをあんまり鵜呑みにはできんなと思うところもあります。

すべての大人に無条件で薦められる書物などないとみんな当たり前に知っているはずなのに、すべての子どもに無条件で薦められる絵本は存在すると思いこみがちなのも、考えてみればちょっと不思議なことです。

そんなわけでもし単純に楽しんでほしいなら、何を好むかは当の本人にしかわからない以上、人の意見を気にせず、片っ端から試してみることです。数打ちゃ当たるし、何ならこの数打ちゃ当たるがすべてなんじゃないかとすら思う。

そしてもし、あわよくば何らかのプラスの影響を与えたいという気持ちがあるのなら、ご自身もまたかつて同じように子どもであったことを思い出すのが一番です。何しろ僕ら自身がその実例なので、参考にならないはずがありません。大昔から今に至るまでその有無によってどれほどの効果と結果の違いをもたらしたのか、未だ誰も知らない上に証明もできないのが難といえば難ですが、どうあれみんなだいたい健やかに育っているので深く考えなくてもよいでしょう。

ちなみにここ数年で群を抜いて胸を射抜かれた絵本は、ツイッターでも書いたけどイランの絵本「ボクサー」です。子どもに薦められるかどうかはわかりません。でも子ども向けとか大人向けとかわずらわしい線引きを取り払ってしまえば、ダイナミズム溢れまくる表現と圧倒的な筆致、シンプルでありながら詩情に満ちたストーリーに一発でノックアウトされるはずです。おすすめ!




A. ハサン・ムーサヴィーの「ボクサー」です。




質問はいつでも24時間無責任に受け付けています。

dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)


その382につづく!