トリケラ山トプ造さんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)
Q. 私は美容師です。美容室ではシャンプーするとき2回洗うお店が多いのですが、洗い終わったあと「あれ?これ1回目だっけ?いや2回目か?」と何回目か忘れてしまう事が多々あります。わからないからもう1回洗ってしまえとも思うのですが、繰り返しているうちに3回も4回も洗ってしまう事になりそうで困っています。なにかいい方法はないでしょうか?
人間、数十年も生きていると、毎日欠かさず繰り返すような動作については意識せずとも自然と体が動くようになります。意識せずとも自然と体が動くということは、ぜんぜん別のことを考えていても自動的にタスクが完了するということであり、それゆえに実際、手を動かしながらも頭ではぜんぜん別のことを考えていたりするのです。裏を返せば、だからこそ複数の作業を並行して行うマルチタスクが可能なわけですね。
かくいう僕も、毎日欠かさず朝食の用意をするついでにうちの人の昼食(おむすび)をこしらえているので、おむすびが不要な日であるにもかかわらず、ぜんぜん別のことを考えていたために気づいたら海苔とおむすびの具を用意してしまうことがちょいちょいあります。
これは日々における消費エネルギーを最小にするよう努める生物としての本能的な特性であって、たとえ時代の先端をゆく超絶クールな美容師だろうと、その例外ではありません。シャンプーの回数を忘れてしまうのも、無理からぬことです。気にする必要はありません。
とはいえ、自身のみで完結する入浴時ならともかく、客商売である以上、生物としての本能を理由に毎回シャンプーを忘れてしまうわけにもいかない、という事情もよくわかります。
一番良いのは、「1回目」とか「2回目」という紙を客の後頭部に貼っておくことです。何しろ後頭部なので、客には絶対わかりません。
別の客が帰り際にその貼り紙を目にするリスクを気にするなら、「1回目」の文字を紙の表ではなく裏に書いておけばよろしい。いくらなんでも「あれ?この紙なんだっけ?」となるほど完全に忘却することはないと思うけど、仮に完全に忘却してもめくればそこに「1回目」と書いてあります。文字以前になぜ客の頭に紙が貼ってあるのかと首を傾げる思慮深い客もいるとは思いますが、生きていればいろんなことがあります。後頭部に紙が貼ってあることもあるでしょう。流れによっては「ダジャレです」「あっ髪と紙で」「ハハハハ」「ハハハハ」といったスモールトークで場が和むこともあります。
ただし、これもまた日々における消費エネルギーを最小にするよう努める生物としての本能ですが、客の後頭部に紙が貼ってあることが当たり前になると、やがて紙が貼ってあることを意識しなくなります。常に貼ってあるのにわざわざ意識を向けることもまた、脳にとってはエネルギーの消費にあたるからです。気をつけてください。
とはいえ、人がもつさまざまな本能のうち、忘却は最も美しいもののひとつです。忘却なくして人生に花は咲きません。積極的に忘れていきましょう。客の後頭部に貼られた紙なんて、大したことじゃないですよ。
A. 客の後頭部にメモを貼り付けておきましょう。
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その440につづく!