2022年11月25日金曜日

数年ぶりのライブイベント「アグローと夜」完売のお知らせ


お話しできることと言ったらあとはもう来月に控えたライブくらいしかないし、つい数時間前までひとまず通常運行でパンドラ的質問箱に戻るか…と思っていたら、このタイミングで「アグローと夜」が完売と相成りました……。まじか……。正直、当日を迎える前にぜんぶ捌けてしまうとは思いもよりませなんだ…。まだ3週間あるのに…。ありがとうありがとうありがとう!わ〜!

しかし一方で…何しろ平日、それも火曜なので、当日までに都合がついたら…という人もひょっとしたら3人くらいはいたかもしれない…とおもうといたたまれないものがあります…。いないかもしれないけど、もしいたら本当に本当に申し訳ない…。完売ということはつまり、当日券はない、ということになります…。

タケウチカズタケはともかく、僕にそれほどの需要があるわけではありません。もし日ごろから1ヶ月に1度くらいライブをしていて、その都度2人くらいお客さんがいたとしたら、その数年分がいっぺんに来てくれる計算です。したがってもう一度この人数を集めるにはまた数年かかります。僕が気にしているのは、もし仮に1人か2人、予約しそびれてしまったとしたらもう数年、お待たせすることになるかもしれないからです。

でも、ひょっとしたらちょうどこれでぜんぶかもしれない。きっとそうだし、そうに違いない。だとすればこれが今生における最後の機会のつもりで目いっぱいやるほかありません。

本当に本当にいつもありがとう。ライブについてはもう話そうにも話しようがないし、じゃあ他にと言ってお知らせできることも特にないので、来週からはたぶん、パンドラ的質問箱に戻ります。

がんばろう……!


2022年11月18日金曜日

「アグロー案内」の奥行きが変わる細部について、その2


とまあそんなわけで先週はものすごく久しぶりに「バニーズへようこそ!」に触れたわけですけれども、そういえばこのときふと「バニーズ」のテキストファイルを読み返してひとつ小さなことを思い出しました。

完成したブックレットはこうです。



でも直前のデータではこうなっています。



自分でもすっかり忘れていたけれど、最初のテキストは日本語表記で、ここに「バニーズ」とルビを振る予定だったのです。

最終的にこれを採用しなかった理由はぜんぜん覚えていません。たぶんこれだと昭和の喫茶店とかスナックみたいな印象が強くなるからで、それはそれでわるくないけど自分ではもうちょいこう、廃れたダイナーのイメージだったからじゃないかな…とおもうけど、何しろ覚えていないのでわからない。いずれにせよブックレットも自分でこつこつ作っていたので、聴く分には何の影響もない言葉の表記にまで心を砕いていたという、格好の例ですね。


聴く分には何の影響もない言葉のことで言うと、アグロー案内 VOL.3に収録された「名探偵、走る/jump the gun」にもそんな裏話があります。しかもこの曲の場合は、できた曲に付与した言葉が再度曲へとフィードバックされる、ちょっと珍しいケースでした。

お聴きのとおり、この曲からなんとなくわかるのは何か事件らしきものが発生し、山本和男が自転車(たぶんママチャリ)にまたがって捜査を開始する、という状況です。まず僕が「追跡」とか「行動開始」みたいなテーマを挙げ、それを受けてタケウチカズタケが曲をつくり、要望のあったセリフを僕が吹きこんでいます。

タイトルをつけたのはその後です。

英題の「jump the gun」とはピストルが鳴る前に飛び出すこと、つまりフライングとか早まるとか勇み足、という意味ですが、このタイトル、1フレーズによって全体の印象が反転します。なんとなれば「事件の始まり」を描いているように見えて、実は何も始まっていないかもしれないことになるからです。空騒ぎと言ってもよろしい。

名探偵と銘打たれながらどのへんが名探偵なのかいまいちよくわからない山本和男にとって、これほどしっくりくるタイトルもありません。めちゃめちゃクールで颯爽と駆け出すイメージだけがそこにあるなら、なおさらです。言葉の印象と意味の落差がすごくいい。

となるとこれは曲中にもフレーズとしてぶちこむべきではないのか…

ということでどんな形でもいいからぜひ入れてほしい…!とお願いした結果、完成したのがこれです。jump the gunという成句が、この曲にとっての画竜点睛だったわけですね。

こう書くとまるでじぶんが作ったみたいな気がしてくるけど、もちろんぜんぜん違います。作ったのはタケウチカズタケです!僕は曲中で「加藤くん…」とか言ってるだけの人です。いつもすみません。

2022年11月11日金曜日

「アグロー案内」の奥行きが変わる細部について少し


さて全世界、正確には関東甲信越を中心に100万(人中3)人くらいいると言われる熱狂的なフォロワーにとってはよく知られた事実ですが、KBDGの描く世界はそれぞれ完全に独立した別の作品でありながら、あっちに出てきたアレがこっちにも出てくるみたいなことがよくあります。具体的に例を挙げるなら「角の店で見たカッコいい靴」なんかもそのひとつです。これは「手漕ぎボート/helmsman says」「象を一撃で倒す文章の書き方/giant leap method」「ダイヤモンド鉱/hot water pressure washer」の3作に出てきます。ライブでしか話したことなかったかもだけどこれが「カッコいい靴三部作」です。

そしてこのアプローチはアグローという未知の土地を舞台にしているはずの「アグロー案内」にも、しれっと引き継がれています。何となればアグローもまた、MARVELで言うところのマルチバースの一部だからです。だいたい当事者のひとりが僕なのでそれは仕方がありません。

アグロー案内における新たなモチーフは「ラストノート/quod erat demonstrandum」に登場する「遠吠えの途中でむせて咳きこむ犬」です。これは「間奏者たち/interluders」に出てきた「大昔に絶滅した野良犬」のことであり、この犬によって導かれるその先にアグローはあります。

過去作からの連続性で言うと、わかりやすいのは「ラストノート/quod erat demonstrandum」に出てくる「国道15と7/10号線」です。これはアルバム「小数点花手鑑」に収録された「バニーズへようこそ!/storm in a coffee cup」でバニーズの所在地を説明する際に出てきます。

「ラストノート/quod erat demonstrandum」ではコーヒーを飲みながらノートを広げて四苦八苦する様子を描いていますが、この語り手がどこにいるかと言ったら、バニーズです。したがって、これは「バニーズへようこそ!」の続編ということになります。もっと言うとバニーズを思い浮かべながら書いた短い詩をインスタグラムに載せてあるので、今のところこれも三部作です。われながらどうでもいいことこの上ない。

今ひとつピンとこない例では「足元で喉を鳴らす招かれざる客人」もあります。足元にいるとすれば客人と言えどそれは人ではなく、喉を鳴らす生き物と言ったらそれはネコ科しかなく、KBDG作品における猫と言ったら一匹しかいません。重箱の隅をつつくように掘り返さないとわからない言い回しになっていますが、わからなくても一向に支障はないし、と言って僕が言わなかったら誰も気づかないと思うので、遺言のひとつとしてここに記しておく次第です。いろいろすみません。
 
つくづく野暮なことだとわれながらおもうけど、奥行きが少しでも違って見えたらいいな。

2022年11月4日金曜日

ラストノート/Quod Erat Demonstrandum


とにかく書き残しておけと教わった
その一切合切が日々の証明になる
見たこと、聞いたこと、かいだこと、ふれたこと
考えたことと考えなかったこと
あんたは誰だと訊かれたらそれを見せる
提出を求められたら速やかに手渡す

例えば警官が二人目の前に立ちはだかって
「ちょっといいかな」とやさしく声をかけてくる
それからいかにも任務に忠実って顔と声で
「そのポケットは?」とか「あんたは誰だ」とか訊く 
油断するな、用心しろ、不意打ちにそなえろ
それはナイフみたいな一言で下手をすると斬られる
「あんたは誰だ?」

そのへんに転がってる缶詰でさえ
それが何なのかぜんぶ丁寧に書いてある
原材料、内容量、賞味期限、保存方法、
100gあたりの栄養と使用上の注意
何者だと訊かれたら缶詰はそれを見せる
警官は脱帽して礼儀正しく去るだろう

見たこと、聞いたこと、かいだこと、ふれたこと
考えたことと考えなかったこと
余すところなく書くのは思うよりも難しい
書いては消し気がつくと白紙に立ち戻る
記した文字列がむしろ何者でもないことを
示してたらどうなる?(Q.E.D.)

また取り出すノートの上をすべる鉛筆の音
省みる昨日と今日、明日もYES or NOと
置かれた珈琲が飛び散って半分に減ろうと
まだあると受け止めて飲むその道の玄人
足元で喉を鳴らす招かれざる客人が言う
袋小路の突き当たりもまたオンザロード

ひらめくサイレンが国道15と7/10号線を走る
細く消え残る
不意の雨が降り注いで冷ますまだ熱いアスファルトから
立ちのぼる湯気は白く
遠吠えの途中で咽せて咳きこんだ犬の
これ以上はどうしようもないとでも言いたげな歌を
風がぶつくさと運んでくる

Now it's been said, a grown man ain't supposed to cry
(男は泣いたりしないって言うよな)
So why, are there tears inside my eyes?
(だとしたら何でおれは涙ぐんでるんだ?)
I wake up in the morning, get some new problem
(朝起きたらまた厄介なことが増えてる)
I just can't solve 'em
(無理)

流れるはずの日々が岩陰に淀む
そこにジェットストリームを持ったオフィーリアが浮いてる
欠けてなお美しい三日月を眺めながら
あれは問いだろうか?
それとも答えだろうか?
よせばいいのに懲りない犬がまた
たよりない遠吠えの途中でむせて咳き込む

書いては消し気がつくと白紙に立ち戻る
行き詰まったら放り出してジョン・ウィックを観てる
なんならエンドロールのどこかには自分の名前も
ありそうな気がして探してる
油断するな、用心しろ、不意打ちにそなえろ
それはナイフみたいな一言で下手をすると斬られる
「あんたは誰だ?」

また取り出すノートの上をすべる鉛筆の音
省みる昨日と今日、明日もYES or NOと
置かれた珈琲が飛び散って半分に減ろうと
まだあると受け止めて飲むその道の玄人
足元で喉を鳴らす招かれざる客人が言う
“Quod Erat Demonstrandum.”