2011年8月27日土曜日

ストーリーテリングそれ自体の破壊力とは



世の中には「うまく説明できないけど、ただひたすらおもしろい小説」というのがあって、こういうのをこそ夏休みの推薦図書にしてほしいとときどきおもうのです。

ハインラインの「夏への扉」のとなりにヘンリー・ジェイムズの「アスパンの恋文」が並んでたっていいじゃないか?


気を持たせるようなことを書いておいてアレですけども、星の数ほどもある他の物語とくらべて、際立つ要素は何ひとつありません。胸を射抜かれて忘れがたい強烈なキャラクターもいなければ、ちゃぶ台をひっくり返すようなエピソードもありません。乱暴に言ってしまえば、ちょっとした場面が点々とつらなっているだけです。最後の最後でハッとさせられはするけれど、それでさえ物語の最重要部分ではぜんぜんないし、その巧みな着地ぶりに心を奪われはしても、そのためにおすすめしたいとはちっとも思いません。


文章が魅力的、というのともちがいます。ここで言う魅力とは単に「好き嫌いの俎上に載る」というような意味合いですが、そもそも翻訳だから、それについてはよくわからない。そうかもしれないし、そうでないかもしれない。ただこの話について言うかぎり、そこもあまり重要ではないのです。ここに綴られている文章のすべては、あくまで物語のためだけにある。逆に、役割という意味でならこれくらい完璧な文章もない、と言えるかもしれません。


舞台は1軒の古い屋敷です。ジェフリー・アスパンというひとりの詩人を巡る物語ではあるけれど、当人はすでに世を去っているので出てきません。登場するのはたったの3人…屋敷の女主人とその姪、それからここを訪れた異邦人の男で、主人公は彼です。物語は彼の独白で進められます。


彼らの行動や思想から何かを学んだり糧にすることも、おそらくありません。引用するほどのインパクトを持たないささやかなアクションだけが、糸を紡ぐみたいにしてするすると引き出されていきます。ごくごくわずかに謎めいた心理が作用することをのぞけば、ここには至極まっとうな帰結しかない。言い換えれば教訓や共感からいっさい切り離された、「物語としての物語」なのです。


だいたい、あらすじを読んでも「フーン」てかんじで全然そそられないんですよね。


にもかかわらず(にもかかわらずです)、一度ページをめくったら最後、その指を止めることはまずできません。少なくとも僕は途中でやめることができなかったし、ある種のグルーヴ感に満ちた群を抜くおもしろさは、読んでいるこっちがびっくりするくらいです。何てことない話のように思えるし、展開もおだやかなのに、どういうわけかつづきが気になる。

「文学にとって根源的で不可欠な欲求を充分に満たしてくれる」と解説にもあるとおり、「ストーリーテリングそれ自体の破壊力」を実感するにはうってつけの一冊と言えましょう。すごく読みやすいし、わりと短いし、言うことないです。憧れてしまう。


ただ一方でこれ、読んだ人同士で語り合ってもいまいち話がはずまない気もします。うまく説明できないのと同様に、何をどう語らったらよいのかちっともわからないのです。共有しづらいというかね。

でも傑作であることに疑いの余地はない。

そういうこともある。

2011年8月16日火曜日

早稲田鶴巻町にカシオペイアをみた


日曜の夕方、水駒(みずこま:原付の名前)にのってプルプル走っていたら、何か妙なものとすれちがったような気がしたのです。減速しながら振り返ってみると、たしかにそこには妙なものというか、老人と並んで洗面器みたいな生物がのしのしと歩いている。あれは…


リクガメじゃないか…



椿山荘の裏手を流れる神田川に沿って、どこから来てどこへ行くのか、老人とリクガメが連れ立って闊歩している。まさかそんなとは僕もおもうけれど、生きるということはつまりいろいろなものとすれちがうということだし、本当だからといって困ることもべつに何もありません。カメは後ろ足に靴をはいていた

【日曜日のできごと1】早稲田鶴巻町にカシオペイアをみた。


その後、外苑東通りから青山通りに折れて赤坂はTBSラジオのスタジオへ。日ごろ裏方としてもお手伝いしている「高橋芳朗 HAPPY SAD」に、今回はゲストでお呼ばれしてきたのです。



この日は「HAPPYSAD恐怖の館~呼び出せ!幽霊ソング」と題して幽霊感のある曲を流す、たいへんユニークな納涼企画がありました。そのせいというか何というか、よもやあんな恐ろしいものに出くわそうとは…

化けて出る川瀬さん↓


そのころ僕はスタジオの外で待機しながら、ヒンヤリした幽霊ソングをBGMにせっせと「しゃべることリスト」をまとめていたのだけれど、ふともよおしてトイレに立ったときの驚きと言ったら、いやまったく、言語に絶するものがあったと告白しなくてはなりません。

何しろ用を足したあと手を洗おうとして洗面台に手を伸ばしたら、洗面台が真っ赤な鮮血にまみれているのです


※残念ながら本当です。


そんな冗談にもならない光景を目にするなんてそうそうあることではないし、フロアには今まさに幽霊ソングがヒュードロドロと流れています。全身が一瞬にしてガチンと凍りつき、冷たい汗がみぞおちを滑り落ちたとしても、ムリはありますまい。

とはいえ目にしてしまった以上はそのままにして脱兎のごとくその場を離れるのも冥利がわるいし、不運な役回りにブツクサ言いながら洗面台をジャブジャブと水で洗い流す本日のゲスト。(しかも却ってそのためにヨシアキさんからは信じてもらえない羽目に)

だいたい、床ならともかく洗面台なのにどうして洗い流していかないんだ!用を足して流さないやつの気持ちを理解してやる義理なんて、こっちにはこれっぽっちもないんだよ!

そしてなぜ僕が誰とも知れない他人の血を洗い流さなくちゃいけないんだ?マフィアの手下じゃないんだぞ!

そもそも幽霊ソングなんかかけるから僕がこんな目に(八つ当たり


オンエアの影でひとりホラー映画の主人公を演じていたことなどおくびにも出さず、つとめて明るく出番を終えた(つもり)のだけれど、豈図らんや、話はそこで終わらないのだから困ります。抜け殻になってグッタリしたまま喫煙所に向かうとそこでまた血痕が目に飛びこみ、ふたたび凍りつく本日のゲスト。

ワーン!


※決定的な証拠をとらえた瞬間(画像にはモザイクがかかっています)


【日曜日のできごと2】赤坂で猟奇的な何かを体験してきた。


そんな夏の夜の微笑ましいエピソードもはさみつつ、HAPPY SADクルーとお別れしてさあ帰ろうと水駒にまたがると、今度は背後から「すみません…」とかぼそい女性の呼び止める声がするのです。一度は気のせいかともおもったんだけれど、二度呼ばれればさすがに振り返らないわけにもいきません。おそるおそる背後をうかがえば見目の麗しい女性がふたり立っていて「写真をとってもらえませんか?

写真?

丑三つ時もせまる午前0時の赤坂の路上で、写真?

「あ、いいですよ」
「このボタンを押してもらうだけでいいので」
「でも、真っ暗ですよ」
「フラッシュ設定してあるからだいじょぶです、たぶん」
「そうですか、じゃ撮りますよー」

パチリ

「どうですか?」
「あ、すごいキレイに撮れてますよ」
「よかったー」
「よかったですね」
「ありがとうございました」
「いーえ、じゃお気をつけて」
「お気をつけて」

すこし離れたところから「いい人でよかったねー」という声が聞こえて、凍りついた心が雪融け水のようにさらさらと流れ出す本日のゲスト。ふたりが幽霊だったとしても、あんなに可憐ならむしろすすんで祟られたい。

【日曜日のできごと3】美しい幽霊の記念撮影に協力した。


2011年8月13日土曜日

一国一城の主になるということ、その他



とうとう城が建ちました。


他人のですけど

目白の裏通りをタカツキとふたりでテクテク歩いててみつけたのです。何だよこのマンション。

MASのヤマダさんにメールしたら「うぃっしゅ」という考えうるかぎり最悪のリアクションが返ってきました。S&Pなら3段階格下げしてるところだぞ!


 *


近ごろとんと音沙汰がないとおもっていたらどうも道草を食いすぎてお腹をこわしていたらしい、サムライトループスが懐かしくも力強い8文字のアルファベット(SMRYTRPS)に戻って帰ってきた!


2011.9.7 On Sale!!
サムライトループス SMRYTRPS
オレンジ・ボヤジャーズ Orange Voyagers
発売元: nrecords ■品番: NRKR-018 ■価格: 税込1,555円

メンバーを足したり引いたりして結局5人くらいに落ち着いた新体制で、いったいいつぶりになるのか、往時と変わらぬ丸みを帯びたヒップホップを、9月7日にお届けです。何しろかれこれ10年も、散開することなくつづいてきた一団なのです。気づけばみんなすくすく育っていいおっさんになっている。ついたり離れたり、あるかなきかの絆で10年とくれば、それは感慨もひとしおと言えましょう。

特設ページがあるらしい→ココ

でも当時まだ小学生だった子が社会人になっていまこれを聴くのだとすれば、こっちはこっちで今年デビューということにしてもこの際ぜんぜんいいんじゃないかとおもう。



わたくしは例によって例のごとく、馬車馬の本領を遺憾なく発揮して、ロゴ、キャッチコピー、デザインといったアートディレクションすべてと、その他もろもろの裏工作を担当しています。

A2サイズの大きなポスターもあるよ



 *


NEWSの加藤くんがオーディオビジュアルを聴いてくれているばかりか、あまつさえこのブログを訪れることまであるらしい、というストーカーの妄想めいた話もあるのですが、それならそれでいつもと同じホラ話で片がつくし、せっかくだから真夏の夜の夢のひとつとして胸の奥の箱にパタンと大事にしまっておきたい。イイ話だなあ。


 *


あと明日、ラジオにでます。TBSラジオのHAPPY SAD!6月につづいて、2回目です。じぶんの好きな音楽から3曲選んで、「ことば」をテーマにちょっとだけしゃべります。番組のアートディレクション担当であることもお忘れなく!(アピール)



いつもおもうけど、いちばん大事な告知よりおもしろ写真への言及のほうが長いなんて、ふしぎですね、何だか。

2011年7月26日火曜日

あるいはこの世にあらざる者の干渉について



希有な夜だったと言わねばなりますまい。


何しろ数多くの夜をフロアで過ごしてきたDJ TOKNOWをして、「こんなイベントはなかなかない」と言わしめるほど、その日は奇妙な多幸感に包まれていたのです。とくに何かを祝っていたわけではないし、タケウチカズタケが自由に好きな音を奏でて、呼ばれたDJが好きにレコードを回していただけなのに、数日たった今ふりかえってみても、なんだか感動的だった、としみじみおもう。レコードの回転が止まり、まろやかな静寂がその場を満たしたイベントの終わり、夜明けの放心状態はちょっと言葉にできません。でもこういうの、いいですね。ホントに。



また一方で僕にとってそれは、見えざる手、あるいはこの世にあらざる者の干渉について、考えさせられる夜でもありました。

 *

これまでに幾度かフロアでレコードをくるくる回したことがあります。そうしてどういうわけかその度に、プレイ中に自らの手でうっかりレコードを止めてしまい、フロアをいたたまれない沈黙でパキンと凍りつかせた、という話は前にも書きました。きまりが悪くて、思い出したくもありません。

だからこそ今回は、きちんと心構えをして出かけたのです。もう二度とないだろうと笑って高をくくっていた前回でさえやっぱり止めてしまったのだから、ふつうなら過剰ともいえるほどのハラハラしたきもちを抱えていたとしてもゆるされましょう。

結論から先に言うと、その甲斐あったと言うべきか、今回はプレイを中断することはありませんでした。手つきがおぼつかないとか、ぜんぜん踊れないとか、そんなわかりきったことはポイと脇にうっちゃるとして、かけたい曲はぜんぶかけました。ゆるゆるではあるけれど、でも大好きなイイ曲ばっかりで、誰より僕がいちばん楽しんでいたはずです。大音量で好きな曲をかけまくるなんて、そんな機会はそうそうないし、フィジカルな快感とはべつに、ちょっとくらい耳をかたむける時間があってもいいよね。

ただ問題は、べつのところにあったのです。

 *

イベントのはじまる数十分前、設置された2台のターンテーブルをみて、ふとあることに気づきました。


あれ…?


7インチホルダーがない…。




 *

レコードとあまり縁のない方のために説明しておくと、レコードには「12インチ」と「7インチ」という、大まかに分けて大小2種類のサイズがあります。単位を変えて言えば前者が30センチで、後者が17センチです。ピザみたいなものですね。12インチにはシングルとアルバム、どちらにも使われますが、7インチは基本シングルのみです。大半は、表と裏で2曲だけ。

このふたつは回転数もちがいます。12インチは1分間に33回転ですが、7インチは1分間に45回転です。回転数が多いということは、それだけ針の進む距離が長くなるということでもあるので、とうぜん1曲分の溝に含まれる情報量が多くなります。7インチのほうが音が良いと言われるのはそのためです。

またもうひとつ大きなちがいとして、7インチはセンターに12インチよりもはるかに大きい穴が空いています。なぜかというと、もともと7インチは「ジュークボックス」という巨大なミュージックチェンジャーに合わせてつくられた規格だからです。今ならiPodとスピーカーがあれば事足りることでも、昔は自動販売機みたいに大きな機械のなかにこの7インチが目いっぱい詰め込まれていて、お金を入れてボタンを押すと選ばれた1枚ががたごとセットされる、たいへん大掛かりな仕組みになっておりました。機械が円滑にレコードを操作するためには、相応の大きな穴が必要だったのです。

参考資料


おうちのレコードプレイヤーに乗せて聴くというより、なじみの店にあってみんなで聴く共有物としてのメディアだった、ということですね。

穴の大きさがちがう、ということは、当然レコードプレイヤーに乗せる際にその大きな穴を埋める専用のアダプターが必要になってきます。それが7インチホルダーです。通常はプレイヤーに付属しています。


 *


えーと、何の話だっけ?


 *

そうそう、驚くほど遠ざかってしまった話を元に戻すと、ターンテーブルのあるべき場所にそのホルダーがないのです。そこだけぽっかり空いている。

プレイするのが12インチだけなら、何の問題もありません。じっさい僕もこれまではホルダーの有無を確認する必要がなかったくらいです。問題は僕が、今回よりによって7インチしか持ってきていなかった、という点にあります。


ガーン!


慣れた人なら、じぶん専用のホルダーを持参していることでしょう。場合によってはそれはDJのアイデンティティのひとつにもなるだろうし、僕でさえターンテーブルの付属品とは別のホルダーを持っています。

でも、持ってきてなかった。


 *


こう書いていると大したことではないように自分でもおもうけれど、そんなことはありません。むしろ致命的です。7インチにとってホルダーがないということは、ターンテーブルがないも同然と言えましょう。つまり、どうしたってかけようがないのです。

もう30分早くわかっていればいったん家に帰ることもできたのだけれど、気づいたときにはもうおそく、あれこれ頭をひねってみたところで結局は途方に暮れるばかりです。

 *

しかし先にも書いたように、レコードはぜんぶかけました。もちろんホルダーはありません。ではどうしたか?

タカツキせんぱいが思案に暮れる僕のそばへニョロニョロとやってきて、こう言うのです。「ガムテープでくるくる巻いて作ったらええんちゃう

というわけで、これが今回の顛末です。


「スミマセン」の5文字を弾にして僕に早撃ちさせたら、ビリー・ザ・キッドにも勝てる気がする。


 *


しかしまあここまでくれば僕もさすがにわかります。この世にあらざる者がそっと背後にしのびよって耳元で「手を引け」とささやいているのです。「次はこんなものじゃすまないぞ」と非情な現実を突きつけてきているのです。きっと次はターンテーブルが謎の大爆発を起こしてフロアが煙でもくもくになるばかりか、ことによるとケガ人が出たり、損害賠償を請求されたあげく破産申請してワーン!


そういうわけなのでもうDJはやりません。たぶん。さすがにこりたし、せめて猿より学習したい。


記念にセットリストを載せておこう…

01. Looking For A Lover / Guys & Dolls
02. Maybe / 3 Degrees
03. Loving Material / Charmels
04. Bye Bye Baby / Dee Dee Sharp
05. I'm In Love / Hodges, James, Smith & Crawford
06. Taboo / Indigos
07. What Ever You Want / Sir Wales Wallace
08. March Across The Land / Linda Clifford
09. Sweet Norma Jones / Spice
10. It's The Right Time To Do / Velvet
11. All I Want Is You Pt.1 / Four Flights
12. Just Looking For My Love / Four Wonders
13. (Call Me Your) Anything Man / Bobby Moore
14. Pops, We love You / Diana Ross, Marvin Gaye, Smokey Robinson, Stevie Wonder
15. Love Me Today / First Love
16. It Takes Two / Summits
17. If You Had My Love / Oncoming Times
18. Tired Of Being Lonely / Valentinos
19. If A Woman Catches A Fool / Voice Masters
20. Looking For A Love / Kenny Hamber
21. No Escape / Concept Nine
22. Yeah You're Right You Know You're Right / Gatur's
23. Annie Got Hot Pants Power / Syl Johnson
24. Superpeople / Notations
25. Soul Girl / Jeanne & The Darlings
26. How Can You Mistreat The One You Love / Katie Love
27. Open Up Your Soul / Erma Franklin
28. Ring Once / Sisters Love
29. Be My Lady / Dynamic Tints


名曲ばっかり…!

2011年7月19日火曜日

それは今もまだつづいているのです



何しろえーと、ふだんからこんな調子なものですから、本人さえときどきその事実を思い出してはハッとしたりしているのだけれど、去年は僕、「オーディオビジュアル」というアルバムをリリースしているのですよね。

ああそうだったそうだった、と膝を打つ方もおりましょう。今ごろ何だと訝しがる向きもありましょう。次から次へと生き馬の目をひっこ抜いて猛進するこの忙しない時代にあって、1年も前の話などすでにひと昔です。ややもすると「懐かしい」とさえつぶやいてしまいかねません。いやまったく、忙しない。

なぜそんな話を持ち出したのかというと、じつはついこの間、敬愛するMASのヤマダタツヤ先輩から「下北沢のビレッジバンガードに小林大吾が終日かかってるコーナーがあったよ」というなんだかエイプリルフールっぽい情報が寄せられたのです。メールに添付された写真をみると、フーム、たしかにコーナーっぽくなっている…。しかしそれにしてもリリースはもう1年も前のことだし、だいたい終日かけっぱなしというのはいくらなんでも誇張がすぎるような気もします。僕らの拠点、渋谷Flying Booksでさえ、店内にエンドレスで流すことはないのです。僕だって1日中小林大吾を聴かされたら心を病むにちがいないし、遠慮なく言ってしまえばたまったもんじゃありません。

でもそこはそれ、いい機会だしせっかくなので、御大・古川耕とフラインスピンオーナーYMZと珍しく3人で連れ立って下北沢へと赴いたところ


ホントにエンドレスで流れてました。


しかもCDではなくて、書籍コーナーです。


おまけにブックレットを丸ごとコピーまでしてくれて、自由に閲覧できるようになっている!


 *


ヴィレッジヴァンガードの東京における総本山とも言うべき下北沢店で、目頭を熱くするどころか、予想をはるかに超えたもてなしぶりにむしろ唖然として言葉を失うチーム・オーディオビジュアルの3人…。

何しろ、こんなふうにオススメできたらいいのに、とずっと思い描いていた無茶でワガママなイメージが、そのままのかたちでここにあるのです。書籍コーナーにさりげなくあって、ブックレットを閲覧できて、そのうえ曲までエンドレスで流れている、ここまで空気を読まないトリッキーな離れ業がヴィレッジヴァンガード以外の業態でできるものだろうか?不可能です、ふつうなら!

アルバムにこめた個人的な願いを、ここまで汲んでもらえることがあるなんて思いもよりませんでした。「オーディオビジュアル」というアルバムにとって、ここまで完璧な居場所はそうそうありません。


 *


コーナーを設置してくださった方にお会いしてお話をうかがったところ、企画の時点で「CDのコーナーがちゃんとあるのに、何でまたわざわざ書籍のところに」と反対されたそうです。そうでしょうとも!そのきもちはよーくわかるし、おそらく誰でもそうおもうはずです。それでも是非にと推してくださったというのだから、ほんとうに頭が下がります。

そうして、いつからこれをと訊けば「もう2ヶ月くらいになります」と仰る。2ヶ月もここにあるの!?とあまりの厚待遇にふたたび口を開けたまま絶句する3人…。くわえて、「でも、売れてるから続けられてるんですよ」と気負いなくさらりと仰るのです。


きらきらと後光がさしてもう、面を上げられません。


どういうわけかお礼というよりだんだん償いみたいな気持ちになってきたけれど、いつもは苦手で腰の引けるポップをよろこんで描かせてもらいました。


プロデューサーとレーベルオーナーの2人にも手書きコメントを寄せてもらうのって、ひょっとしたら初めてじゃないだろうか?


 *


くどいようですけれど、リリースは去年の5月です。正直明日には撤去されていたとしても、悔いはぜんぜんありません。これ以上はむしろ身に余ります。

大江さん、本当にありがとう!


2011年7月14日木曜日

それはゾウなのか?それともムシなのか?



爪先からとろとろ溶けて排水溝へと流れ出しそうな暑さのなか、相変わらずこれといった沙汰もなく、風にのせて飛ばす噂のひとつすら持たず、近ごろ如何にと問われたら、せっせと汗水たらしてはひとり油を売っております、と答えるほかはないのです。売ったところで二束三文にもなりゃしないけれど、つくづくそういう性分らしい。

そうやってアレコレ混ざった安い油を叩き売っているかとおもえば

「ゾウなのか?それともムシなのか?」「それは大きいのか?小さいのか?」「なんだかもうわからないよ」云々、といった具合にいっそ清々しくもある水掛け論からミス・スパンコールがちまちまと落書きをして生まれた物体でTシャツでもつくってひともうけするか…といい年こいたおっさんにあるまじき白昼夢のなかをうつらうつら漂っていたりするのです。

どのツラ下げて詩人だこの野郎、という至極もっともな謗りに、このツラだ文句あるか!と跳ね返せるくらいには厚顔になっております。ひとりくらいそんなのがいたって世界は動じやしませんさ。


 *


そういえばひとつお知らせがありました。これまで幾度となくしくじってきたにもかかわらず、懲りずにまたゆるゆるとレコードを回しにいくのです。冒頭の90分(!)おねがいしますと言われたんだけど、レコード何枚持っていけばいいの?和田アキ子とかかけたら怒られる?

ともあれコレ、全体的にすっごい好きなかんじになりそうなので、たのしみです。よかったらいらしてね。期待されてないのをいいことに、まったりと心和むソウル回してます、たぶん。


7/23深夜 渋谷7th floor「UNDER THE WILLOW NITE」
   タケウチカズタケソロライブを軸としたイベント
   OPEN: 24:00
   CHARGE 2,000 (including 2 drinks)
   LIVE:タケウチカズタケ(SUIKA/ A Hundred Birds/ D.I.T.A.)/
      Under The Willow band(タケウチカズタケ, 石村順, 小宮山純平)
   DJs: TOKNOW (Romancrew)/小林大吾/ピーチ岩崎 (CopaSalvo)
   Food: (やみつきキュウリ/古漬けキュウリ)音柳食堂


2011年6月28日火曜日

腐草為蛍/tryin to be a piano wire



すぎたことのように
太陽はまたのぼり
列車は今日もおだやかに人をはこぶ
燃えのこった不条理に手をつけるのはやめた
もがけば沈むとわかるくらいの大人にはなった
何が彼をあの場所に追いやったのか?
それを知っていたらまたちがった結末があったか?
すぎたことのように
太陽はまたのぼり
視線に気づいた風見鶏がうろたえて背を向ける

空っぽになったかつてモダンだった家には
黒蜜みたいに甘い沈黙が焼きつく
物干竿から垂れたきれいな糸の先には
あまりの孤独に気を失った蜘蛛が1ぴき
悟るにはわかく
逃げるには遅く
地団駄をふもうにも地面ははるか遠く
つむじ風に吹かれてめくれたいろはかるた
ココンと庭の芝にはねてくだけちる涙

害のない質問にイエスとうなずくこと
帰りの電車賃を残して勝負すること
チョークで描いた 領域になんぴとたりとも
足を踏み入れてはならないと定めること
つぶれた店をいつまでも惜しむこと
およそすべてのできごとを車窓から眺めること
生きているかぎりはいつだって立ち去る側なのに
失ったと錯覚したまま悲嘆に暮れること

and all these fuckin things, you know

手に負えやしないと人がみな言うのを
さもありなんて顔でぼんやり聞いている
目に見えないものをどうかするのは至難の業だ
強いられるのは撓みなくはられたピアノ線のように
つとめてしずかに、
タフであること
ひとかけのバターをパンに塗るように
ただそれとなく、
なだめていくこと
あるいは…


 *


なおも引き出しをさぐる思い切りのわるさ
まちまちの大きさ
不埒なおうさきるさ
すりむいたむきだしの指さきにふれたのは
とっておきの秘密をうすく貼ったプレパラート
知れば知るほどわからなくなるなら
すがるのも冥利がわるいと考え直すそばから
首根っこをつかまれて大人になってゆく
つま先からのびる影が手をふるのをみた

ことの次第を知った物忘れの激しい幽霊が
うらみを忘れて蜘蛛をそっといたわる
泣くなよ、人生ってたぶんそういうもんだろう?
そんなこと言うならおれはどこへ行けばいいんだ?
お互いさまだから慰めるのはむりでも
気をそらすやりかたなら心得たものさ
真っ暗なところでないと見えない星のかすかな
またたきをみるとか、まあそんな具合に

すぎたことのように
太陽はまたのぼり
列車は今日もおだやかに人をはこぶ
多くの人の胸にぽっかりと空いた
丸い穴からのぞく青空と鈴生りの枇杷
蚊遣り火の消えた部屋で折りたたむ黒い服…

腐草為蛍頃

風船に逃げられた子供が

外で泣く以外は

いつもと同じ

暑い一日


 *


何が彼をあの場所に追いやったのか?
それを知っていたらまたちがった結末があったか?
とくべき謎ではなく不可思議としてそのまま
世界はたぶん
そんな理由でうつくしい
強いられるのは撓みなくはられたピアノ線のように
つとめてしずかに、
タフであること
ひとかけのバターをパンに塗るように
ただそれとなく、
なだめていくこと…