2011年7月26日火曜日

あるいはこの世にあらざる者の干渉について



希有な夜だったと言わねばなりますまい。


何しろ数多くの夜をフロアで過ごしてきたDJ TOKNOWをして、「こんなイベントはなかなかない」と言わしめるほど、その日は奇妙な多幸感に包まれていたのです。とくに何かを祝っていたわけではないし、タケウチカズタケが自由に好きな音を奏でて、呼ばれたDJが好きにレコードを回していただけなのに、数日たった今ふりかえってみても、なんだか感動的だった、としみじみおもう。レコードの回転が止まり、まろやかな静寂がその場を満たしたイベントの終わり、夜明けの放心状態はちょっと言葉にできません。でもこういうの、いいですね。ホントに。



また一方で僕にとってそれは、見えざる手、あるいはこの世にあらざる者の干渉について、考えさせられる夜でもありました。

 *

これまでに幾度かフロアでレコードをくるくる回したことがあります。そうしてどういうわけかその度に、プレイ中に自らの手でうっかりレコードを止めてしまい、フロアをいたたまれない沈黙でパキンと凍りつかせた、という話は前にも書きました。きまりが悪くて、思い出したくもありません。

だからこそ今回は、きちんと心構えをして出かけたのです。もう二度とないだろうと笑って高をくくっていた前回でさえやっぱり止めてしまったのだから、ふつうなら過剰ともいえるほどのハラハラしたきもちを抱えていたとしてもゆるされましょう。

結論から先に言うと、その甲斐あったと言うべきか、今回はプレイを中断することはありませんでした。手つきがおぼつかないとか、ぜんぜん踊れないとか、そんなわかりきったことはポイと脇にうっちゃるとして、かけたい曲はぜんぶかけました。ゆるゆるではあるけれど、でも大好きなイイ曲ばっかりで、誰より僕がいちばん楽しんでいたはずです。大音量で好きな曲をかけまくるなんて、そんな機会はそうそうないし、フィジカルな快感とはべつに、ちょっとくらい耳をかたむける時間があってもいいよね。

ただ問題は、べつのところにあったのです。

 *

イベントのはじまる数十分前、設置された2台のターンテーブルをみて、ふとあることに気づきました。


あれ…?


7インチホルダーがない…。




 *

レコードとあまり縁のない方のために説明しておくと、レコードには「12インチ」と「7インチ」という、大まかに分けて大小2種類のサイズがあります。単位を変えて言えば前者が30センチで、後者が17センチです。ピザみたいなものですね。12インチにはシングルとアルバム、どちらにも使われますが、7インチは基本シングルのみです。大半は、表と裏で2曲だけ。

このふたつは回転数もちがいます。12インチは1分間に33回転ですが、7インチは1分間に45回転です。回転数が多いということは、それだけ針の進む距離が長くなるということでもあるので、とうぜん1曲分の溝に含まれる情報量が多くなります。7インチのほうが音が良いと言われるのはそのためです。

またもうひとつ大きなちがいとして、7インチはセンターに12インチよりもはるかに大きい穴が空いています。なぜかというと、もともと7インチは「ジュークボックス」という巨大なミュージックチェンジャーに合わせてつくられた規格だからです。今ならiPodとスピーカーがあれば事足りることでも、昔は自動販売機みたいに大きな機械のなかにこの7インチが目いっぱい詰め込まれていて、お金を入れてボタンを押すと選ばれた1枚ががたごとセットされる、たいへん大掛かりな仕組みになっておりました。機械が円滑にレコードを操作するためには、相応の大きな穴が必要だったのです。

参考資料


おうちのレコードプレイヤーに乗せて聴くというより、なじみの店にあってみんなで聴く共有物としてのメディアだった、ということですね。

穴の大きさがちがう、ということは、当然レコードプレイヤーに乗せる際にその大きな穴を埋める専用のアダプターが必要になってきます。それが7インチホルダーです。通常はプレイヤーに付属しています。


 *


えーと、何の話だっけ?


 *

そうそう、驚くほど遠ざかってしまった話を元に戻すと、ターンテーブルのあるべき場所にそのホルダーがないのです。そこだけぽっかり空いている。

プレイするのが12インチだけなら、何の問題もありません。じっさい僕もこれまではホルダーの有無を確認する必要がなかったくらいです。問題は僕が、今回よりによって7インチしか持ってきていなかった、という点にあります。


ガーン!


慣れた人なら、じぶん専用のホルダーを持参していることでしょう。場合によってはそれはDJのアイデンティティのひとつにもなるだろうし、僕でさえターンテーブルの付属品とは別のホルダーを持っています。

でも、持ってきてなかった。


 *


こう書いていると大したことではないように自分でもおもうけれど、そんなことはありません。むしろ致命的です。7インチにとってホルダーがないということは、ターンテーブルがないも同然と言えましょう。つまり、どうしたってかけようがないのです。

もう30分早くわかっていればいったん家に帰ることもできたのだけれど、気づいたときにはもうおそく、あれこれ頭をひねってみたところで結局は途方に暮れるばかりです。

 *

しかし先にも書いたように、レコードはぜんぶかけました。もちろんホルダーはありません。ではどうしたか?

タカツキせんぱいが思案に暮れる僕のそばへニョロニョロとやってきて、こう言うのです。「ガムテープでくるくる巻いて作ったらええんちゃう

というわけで、これが今回の顛末です。


「スミマセン」の5文字を弾にして僕に早撃ちさせたら、ビリー・ザ・キッドにも勝てる気がする。


 *


しかしまあここまでくれば僕もさすがにわかります。この世にあらざる者がそっと背後にしのびよって耳元で「手を引け」とささやいているのです。「次はこんなものじゃすまないぞ」と非情な現実を突きつけてきているのです。きっと次はターンテーブルが謎の大爆発を起こしてフロアが煙でもくもくになるばかりか、ことによるとケガ人が出たり、損害賠償を請求されたあげく破産申請してワーン!


そういうわけなのでもうDJはやりません。たぶん。さすがにこりたし、せめて猿より学習したい。


記念にセットリストを載せておこう…

01. Looking For A Lover / Guys & Dolls
02. Maybe / 3 Degrees
03. Loving Material / Charmels
04. Bye Bye Baby / Dee Dee Sharp
05. I'm In Love / Hodges, James, Smith & Crawford
06. Taboo / Indigos
07. What Ever You Want / Sir Wales Wallace
08. March Across The Land / Linda Clifford
09. Sweet Norma Jones / Spice
10. It's The Right Time To Do / Velvet
11. All I Want Is You Pt.1 / Four Flights
12. Just Looking For My Love / Four Wonders
13. (Call Me Your) Anything Man / Bobby Moore
14. Pops, We love You / Diana Ross, Marvin Gaye, Smokey Robinson, Stevie Wonder
15. Love Me Today / First Love
16. It Takes Two / Summits
17. If You Had My Love / Oncoming Times
18. Tired Of Being Lonely / Valentinos
19. If A Woman Catches A Fool / Voice Masters
20. Looking For A Love / Kenny Hamber
21. No Escape / Concept Nine
22. Yeah You're Right You Know You're Right / Gatur's
23. Annie Got Hot Pants Power / Syl Johnson
24. Superpeople / Notations
25. Soul Girl / Jeanne & The Darlings
26. How Can You Mistreat The One You Love / Katie Love
27. Open Up Your Soul / Erma Franklin
28. Ring Once / Sisters Love
29. Be My Lady / Dynamic Tints


名曲ばっかり…!

2011年7月19日火曜日

それは今もまだつづいているのです



何しろえーと、ふだんからこんな調子なものですから、本人さえときどきその事実を思い出してはハッとしたりしているのだけれど、去年は僕、「オーディオビジュアル」というアルバムをリリースしているのですよね。

ああそうだったそうだった、と膝を打つ方もおりましょう。今ごろ何だと訝しがる向きもありましょう。次から次へと生き馬の目をひっこ抜いて猛進するこの忙しない時代にあって、1年も前の話などすでにひと昔です。ややもすると「懐かしい」とさえつぶやいてしまいかねません。いやまったく、忙しない。

なぜそんな話を持ち出したのかというと、じつはついこの間、敬愛するMASのヤマダタツヤ先輩から「下北沢のビレッジバンガードに小林大吾が終日かかってるコーナーがあったよ」というなんだかエイプリルフールっぽい情報が寄せられたのです。メールに添付された写真をみると、フーム、たしかにコーナーっぽくなっている…。しかしそれにしてもリリースはもう1年も前のことだし、だいたい終日かけっぱなしというのはいくらなんでも誇張がすぎるような気もします。僕らの拠点、渋谷Flying Booksでさえ、店内にエンドレスで流すことはないのです。僕だって1日中小林大吾を聴かされたら心を病むにちがいないし、遠慮なく言ってしまえばたまったもんじゃありません。

でもそこはそれ、いい機会だしせっかくなので、御大・古川耕とフラインスピンオーナーYMZと珍しく3人で連れ立って下北沢へと赴いたところ


ホントにエンドレスで流れてました。


しかもCDではなくて、書籍コーナーです。


おまけにブックレットを丸ごとコピーまでしてくれて、自由に閲覧できるようになっている!


 *


ヴィレッジヴァンガードの東京における総本山とも言うべき下北沢店で、目頭を熱くするどころか、予想をはるかに超えたもてなしぶりにむしろ唖然として言葉を失うチーム・オーディオビジュアルの3人…。

何しろ、こんなふうにオススメできたらいいのに、とずっと思い描いていた無茶でワガママなイメージが、そのままのかたちでここにあるのです。書籍コーナーにさりげなくあって、ブックレットを閲覧できて、そのうえ曲までエンドレスで流れている、ここまで空気を読まないトリッキーな離れ業がヴィレッジヴァンガード以外の業態でできるものだろうか?不可能です、ふつうなら!

アルバムにこめた個人的な願いを、ここまで汲んでもらえることがあるなんて思いもよりませんでした。「オーディオビジュアル」というアルバムにとって、ここまで完璧な居場所はそうそうありません。


 *


コーナーを設置してくださった方にお会いしてお話をうかがったところ、企画の時点で「CDのコーナーがちゃんとあるのに、何でまたわざわざ書籍のところに」と反対されたそうです。そうでしょうとも!そのきもちはよーくわかるし、おそらく誰でもそうおもうはずです。それでも是非にと推してくださったというのだから、ほんとうに頭が下がります。

そうして、いつからこれをと訊けば「もう2ヶ月くらいになります」と仰る。2ヶ月もここにあるの!?とあまりの厚待遇にふたたび口を開けたまま絶句する3人…。くわえて、「でも、売れてるから続けられてるんですよ」と気負いなくさらりと仰るのです。


きらきらと後光がさしてもう、面を上げられません。


どういうわけかお礼というよりだんだん償いみたいな気持ちになってきたけれど、いつもは苦手で腰の引けるポップをよろこんで描かせてもらいました。


プロデューサーとレーベルオーナーの2人にも手書きコメントを寄せてもらうのって、ひょっとしたら初めてじゃないだろうか?


 *


くどいようですけれど、リリースは去年の5月です。正直明日には撤去されていたとしても、悔いはぜんぜんありません。これ以上はむしろ身に余ります。

大江さん、本当にありがとう!


2011年7月14日木曜日

それはゾウなのか?それともムシなのか?



爪先からとろとろ溶けて排水溝へと流れ出しそうな暑さのなか、相変わらずこれといった沙汰もなく、風にのせて飛ばす噂のひとつすら持たず、近ごろ如何にと問われたら、せっせと汗水たらしてはひとり油を売っております、と答えるほかはないのです。売ったところで二束三文にもなりゃしないけれど、つくづくそういう性分らしい。

そうやってアレコレ混ざった安い油を叩き売っているかとおもえば

「ゾウなのか?それともムシなのか?」「それは大きいのか?小さいのか?」「なんだかもうわからないよ」云々、といった具合にいっそ清々しくもある水掛け論からミス・スパンコールがちまちまと落書きをして生まれた物体でTシャツでもつくってひともうけするか…といい年こいたおっさんにあるまじき白昼夢のなかをうつらうつら漂っていたりするのです。

どのツラ下げて詩人だこの野郎、という至極もっともな謗りに、このツラだ文句あるか!と跳ね返せるくらいには厚顔になっております。ひとりくらいそんなのがいたって世界は動じやしませんさ。


 *


そういえばひとつお知らせがありました。これまで幾度となくしくじってきたにもかかわらず、懲りずにまたゆるゆるとレコードを回しにいくのです。冒頭の90分(!)おねがいしますと言われたんだけど、レコード何枚持っていけばいいの?和田アキ子とかかけたら怒られる?

ともあれコレ、全体的にすっごい好きなかんじになりそうなので、たのしみです。よかったらいらしてね。期待されてないのをいいことに、まったりと心和むソウル回してます、たぶん。


7/23深夜 渋谷7th floor「UNDER THE WILLOW NITE」
   タケウチカズタケソロライブを軸としたイベント
   OPEN: 24:00
   CHARGE 2,000 (including 2 drinks)
   LIVE:タケウチカズタケ(SUIKA/ A Hundred Birds/ D.I.T.A.)/
      Under The Willow band(タケウチカズタケ, 石村順, 小宮山純平)
   DJs: TOKNOW (Romancrew)/小林大吾/ピーチ岩崎 (CopaSalvo)
   Food: (やみつきキュウリ/古漬けキュウリ)音柳食堂


2011年6月28日火曜日

腐草為蛍/tryin to be a piano wire



すぎたことのように
太陽はまたのぼり
列車は今日もおだやかに人をはこぶ
燃えのこった不条理に手をつけるのはやめた
もがけば沈むとわかるくらいの大人にはなった
何が彼をあの場所に追いやったのか?
それを知っていたらまたちがった結末があったか?
すぎたことのように
太陽はまたのぼり
視線に気づいた風見鶏がうろたえて背を向ける

空っぽになったかつてモダンだった家には
黒蜜みたいに甘い沈黙が焼きつく
物干竿から垂れたきれいな糸の先には
あまりの孤独に気を失った蜘蛛が1ぴき
悟るにはわかく
逃げるには遅く
地団駄をふもうにも地面ははるか遠く
つむじ風に吹かれてめくれたいろはかるた
ココンと庭の芝にはねてくだけちる涙

害のない質問にイエスとうなずくこと
帰りの電車賃を残して勝負すること
チョークで描いた 領域になんぴとたりとも
足を踏み入れてはならないと定めること
つぶれた店をいつまでも惜しむこと
およそすべてのできごとを車窓から眺めること
生きているかぎりはいつだって立ち去る側なのに
失ったと錯覚したまま悲嘆に暮れること

and all these fuckin things, you know

手に負えやしないと人がみな言うのを
さもありなんて顔でぼんやり聞いている
目に見えないものをどうかするのは至難の業だ
強いられるのは撓みなくはられたピアノ線のように
つとめてしずかに、
タフであること
ひとかけのバターをパンに塗るように
ただそれとなく、
なだめていくこと
あるいは…


 *


なおも引き出しをさぐる思い切りのわるさ
まちまちの大きさ
不埒なおうさきるさ
すりむいたむきだしの指さきにふれたのは
とっておきの秘密をうすく貼ったプレパラート
知れば知るほどわからなくなるなら
すがるのも冥利がわるいと考え直すそばから
首根っこをつかまれて大人になってゆく
つま先からのびる影が手をふるのをみた

ことの次第を知った物忘れの激しい幽霊が
うらみを忘れて蜘蛛をそっといたわる
泣くなよ、人生ってたぶんそういうもんだろう?
そんなこと言うならおれはどこへ行けばいいんだ?
お互いさまだから慰めるのはむりでも
気をそらすやりかたなら心得たものさ
真っ暗なところでないと見えない星のかすかな
またたきをみるとか、まあそんな具合に

すぎたことのように
太陽はまたのぼり
列車は今日もおだやかに人をはこぶ
多くの人の胸にぽっかりと空いた
丸い穴からのぞく青空と鈴生りの枇杷
蚊遣り火の消えた部屋で折りたたむ黒い服…

腐草為蛍頃

風船に逃げられた子供が

外で泣く以外は

いつもと同じ

暑い一日


 *


何が彼をあの場所に追いやったのか?
それを知っていたらまたちがった結末があったか?
とくべき謎ではなく不可思議としてそのまま
世界はたぶん
そんな理由でうつくしい
強いられるのは撓みなくはられたピアノ線のように
つとめてしずかに、
タフであること
ひとかけのバターをパンに塗るように
ただそれとなく、
なだめていくこと…



2011年6月24日金曜日

ムール貝博士が足をすべらせて地獄に落ちた話



ミス・スパンコール秘蔵のアルバムから1枚

それはエレベーターなのか?それともバナナなのか?


 *


どうもこう、きもちがモヤモヤして晴れきらないと首をひねっていたのだけれど、ふと、近ごろはブログといえば宣伝というか喧伝というかプロパガンダというか、よくいえば合理的、わるくいえばセルフボースト的な更新しかしていなかったことに気がついてポンと膝を叩きました。

いえ、それはそれでいいのです。お知らせできる事柄自体が四葉のクローバー並みに少ないという致命的な弱点はこのさい掃除機でゴーと吸い取ってしまうとして、発信という意味ではこれ以上なくまっとうだし、どこまでも正しい。ですよね?

しかしこのブログはちがいます。今さら何をつくろうことがありましょう。頻度で言ったらお知らせのほうがここではよほど箸休めみたいなものじゃありませんか?そもそもこのブログは一日の終わりにお茶をすすってフーとひと息つきながら、本を2、3ページぺらぺらめくるような感覚で目にふれてくれればそれに勝るよろこびはない、とおもって始めたはずなのに、告知ひとつでそのお茶をにごすなんて、われながらおこがましい話です。ピンカートン先生のくだらないツイートをみて満足している場合ではない。ムール貝博士はいったいどこへ消えたのか?

そういうわけで、このブログ本来の趣旨にのっとって、どうでもいい話をしようとおもうのです。


 *


行方どころかいまだに素性も知れない博士のことはさておき、日本のどこかに実在する、とあるお店でポイントカードを発行していたのです。500円で1ポイント、10ポイント貯まったらこんなサービスが、というアレですね。

そのお店の説明にはこうありました。
----------------------------------------------------------------------------------------
1)100円お買い上げごとに、1ポイント貯まります。
2)100ポイント貯まると、次回合計額から100円値引きいたします。
3)カード代として100円いただきます。
----------------------------------------------------------------------------------------

それでまあ、ひいふうと指折りかぞえてみたのです。
100円で1ポイントだから…100ポイント貯めるには、えーと…それで値引額が…待てよ、さいしょに100円払ってて…

……あれ?


いくら考えてもこのお店でポイントカードをつくる理由がちっとも思い浮かばないんだけれど、キツネに化かされているようなきもちになるのは気のせいだろうか…?


 *


「ピス田さんピス田さん」
「あれダイゴくんひさし…ヒゲのびた?」
「このポイントカードなんですけど」
「このカードがどうしたの」
「あれ、そういえば博士は?」
「しばらく見てないけど」
「お出かけですか」
「さァ…ここにいないとすれば、そういうことになるよね」
「ものすごい他人事ぶりだ」
「あ、博士がいたほうがいいの?」
「いなくていいです」
「で、そのカードがどうしたの?」
「じつはかくかくしかじかで」
「べんりな日本語をつかうもんだな!」
「そういうわけなんですよ」
「フーム、じゃもう1回計算してみよう」
「100円で1ポイントでしょ…」
「100ポイント貯めると…」
「でもさいしょにカード代が…」
「…」
「…」
「釈然としないね」
「なんかちょっと変なかんじがするんです」
「まァいいじゃないか、1億円も引いてもらえるんだぜ」
「100億円ぶん買ったらでしょ!」
「買えばいいんだ」
「だってケーキ屋さんですよ」
「ほう。ケーキ屋のカードなのかこれは」
「口がすべった」
「散財すればいいんだよ」
「それはそうですけど…」
「イチゴみたいにちっちゃい悩みだ」
「でも肉を切らせて骨を断つというか…」
「…」
「あくびしないでくださいよ」
「だって何言ってるかよくわからないよ」
「つまりですね…」

ドカン

「うわァ」
「しっかりしろダイゴくん、博士が帰ってきただけだ」
「帰ったぞ!」
「おかえりなさい」
「長旅だった」
「何だ博士か…あいかわらず心臓に…アレ?」
「おや」
「何だ」
博士が松葉杖をついている!
「これか。わたしとしたことが、まったく」
「どうしたんですか一体」
「足をすべらせて地獄に落ちた」
「え?」
「足をすべらせたと言ったんだ」
「地獄に落ちたって言いましたよ」
「落ちたよ!だからこのザマだと言っとろうが!」
「足1本で済むものなんですか?」
「足1本とは何たる言い草だ。重傷だぞ」
「地獄に落ちて骨折で済む人はいないですよ、ふつう」
「骨折とは言ってない」
「じゃその足は…」
「捻挫した」
「なんて軽い代償なんだ!」
「せっかくだから湯治してきた」
「血の池は温泉じゃないですよ」
「足裏マッサージもよかった」
「針山だったんじゃないですか?」
「おみやげは閻魔せんべいだ」
「おみやげって…どうして帰ることが前提になってるんですか?」
「うるさいやつだな。何が気に食わないんだ」
「気に食わないことがあるとすれば博士が帰ってきたことですよ」
「いたぶるということを知らんのか」
「いたわるのまちがいでしょ」
「そうだった。いたぶるのはいつだってわたしだ」
「自覚してるんだ!」
「…」
「…」
「…」
「何だ、話は終わりか?」
「そうみたいですね」
「オチはどうした」
「もう落ちたでしょ。博士が。地獄に」

2011年6月19日日曜日

ムール貝博士の安全宣言/doctor's view



専門家がおれであるから心配はご無用

そこかしこに落ちているこの爆弾は

点火しても爆発をしない。

ただ点火しなくとも爆発をする。

とはいえ専門家がおれであるから心配はご無用

こっぱみじんだ。痛みもないし

問題はない。死人が出るというがしかし

ひとは死ぬものだ。死なないのなら

なおさら問題ない。したがって

対策チーム編成の必要はない。

爆弾は高性能である。また仮に全人類が

ふっとばされたとしても心配はご無用

だれも気づかない。

爆弾は高性能である。


2011年6月10日金曜日

Mr. Jukebox と鋼鉄の乙女ふたたび



ミス・スパンコール秘蔵のアルバムから1枚

※写真は本文といっさい関係ありません。


 *


ほとぼりの冷める頃合いを見計らって、雨だれのようにポツポツとキーを叩きはじめているのですが、先日は日曜夜のメロウな憂鬱なぐさめミュージック・プログラム「Happy Sad」にゲストとしてお呼ばれしてきたのです。縁あってのお話とはいえ、人前でろくにしゃべったこともない馬の骨を引っぱりだすとは Happy Sadクルーもだいぶむちゃなことをなさいます。

※当日の写真が1枚もないのは、持っていったカメラに電池が入っていなかったからです。


番組の後半30分は「グッド・フレンズ」と題して、「毎週、週替わりのゲストを迎えてクロストーク。音楽の魅力をワンテーマでトリッキーに語り合」う時間なのだけれど、僕が「ことば」をテーマに3曲をえらび、20分しゃべくりたおしてきたのはこのコーナーです。

この「グッド・フレンズ」しかり、御大・高橋芳朗が大いに語る音楽ミニ・コラム「マイ・フェイヴァリット・シングス」のコーナーもしかり、Happy Sad の魅力はオンエアされるすべての曲に「視点」を加える、そのジャーナリスティックな姿勢にあります。全編をきもちのよい音楽でたっぷりと満たしながら、一方では情報番組としての濃度もある、ということですね。おいしいだけじゃなくて、おなかもいっぱいになるのです。満足度高い!

それから、曲を選ぶ基準のひとつに「甘酸」という新鮮なキーワードがあることも、すごく大きい。というのもこのキーワードによって、多岐にわたるジャンルをつねに一貫した視点で語ることができるばかりか、番組の主体がパーソナリティではなく曲そのものに与えられることになるからです。主役はいつも音楽であり、パーソナリティはあくまでその忠実な介添人であるということ。それでいて主役を引き立てるトピックの引き出しをわんさか持っていること。書いてしまえば当たり前のように響くけれど、じっさいにそれができる人はどれくらいいるだろう?

だいたい、本来はブラックミュージックが専門のはずなのに(I.N.I.という伝説的なヒップホップグループにリアルタイムでインタビューをしたことがあるような人ですよ!)、それに気づいてないリスナーもいるんじゃないかとおもうくらい、守備範囲がひろくてビックリしてしまう。「広く浅く」ならゴマンといるけど、広いうえにメチャメチャ深い、まるで海みたいな「本物の音楽好き」を目の当たりにしたのは僕の人生で初めてかもしれない。Mr. Jukebox と呼びたくなる所以です。


何よりそんな奥行きを微塵も感じさせずに、スタジオからラジオのスピーカーを通して聴く人の耳をふわふわと包みこむ、雰囲気からしてもう甘酸っぱい!オンエアされないブース内でのキャッキャとしたやりとりには、アドバイザーの古川さんも「こっちとあっちで一体何がちがうんだ」と苦々しく舌打ちをするくらいです。僕もその場にいたから、きもちは痛いほどわかります。

実際にお会いしてつくづくおもったけれど、コミュニケーション能力に致命的な欠陥があって第一印象がつねに最悪な僕としては、本気で生まれ変わったら高橋芳朗になりたいです。何を食べて育ったらあんなキュートな人柄になれるんだ?あのまろやかでやさしい語りくちを見習いたい。


 *


というわけで、一聴しただけではそのモノ凄さが1ミリたりとも伝わってこない、Happy SadはTBSラジオで今週も明日夜18時30分から。CDショップでうっかりジャケ買いをすることも減り、音楽がよりピンポイントでパーソナルな嗜好品としての意味合いを強くしつつある今にあって、本来なら至極当然の「共有」を前面に掲げるホントに貴重な番組です。とっとと全国ネットにしていただきたい。

ぜひお聴きあそばせ。


ちなみにアシスタントの川瀬さんも周囲を惹き付ける魅力にあふれたたいへん美しい人ですが、プロ意識がハンパないせいか、じかにお話をしても素顔がぜんぜん伺い知れない鋼鉄の人でした。師匠が翻弄されるわけだ…。


 *


ここまで書いて読み返したら知らないうちにラブレターみたいになっていてきもちがわるいから公開するのやめようかとおもったんだけど、まあいいや!

僕がきもちわるいのは今に始まったことではない。

ヨシアキさんの目にふれないことを祈ろう。