2024年6月7日金曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その429


ジャングルジム大帝さんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)


Q. 毎日夢に出る猫がいつまで経ってもなつかないときどうすればいいのでしょうか。


夢に出る、というのがいいですね。現実だったらなつかなくても不思議はないけど、夢となると話がちょっと変わってきます。その猫の存在やなつかないことに意味はあるんだろうか?それともないんだろうか?

質問に深い意味はないとおもうし、深掘りしなくてもよさそうなものですが、しなくていい深掘りをして無駄に大きな穴を空けるのがこの質問箱の骨頂でもあるので、ここはやはり真剣に悩んでいて夜も眠れず、気づけば毎日夢に出るどころか眠れていないので最後に見た夢の記憶すら定かではなく、しかしそうすると悩む理由がないので眠れない理由もないという、Excelで言うところの不毛な参照循環に陥っていることを前提に考えてみましょう。前提の時点ですでにある種の解決を示唆しているように見えなくもないですが、そう見なければいいだけの話です。

個人的に気になるのは、「なついていいのか」という点ですね。

なつかなかった猫がなつくとすれば、それは明らかに劇的な変化です。考えようによっては無から有に転じたとも言えるのだから、天地創造に比肩すると見なすこともできるでしょう。現実世界ならそのままハッピーな日々がつづくと考えてよさそうですけれども、夢となるとそうはいきません。なんとなれば夢の中では、その猫が何らかの象徴である可能性も否定できないからです。以前と以後で何かが決定的に変わってしまうかもしれないことを肝に銘じる必要があります。

たとえば夢の中の猫が平穏の象徴であったとしましょう。それならなおのこと、なつくほうがよっぽど平穏に思われるかもしれませんが、逆になつかないことのほうが変化がない点でむしろ平穏を意味しているかもしれないのです。

また一度なついた猫は、こちらが適切な愛情をもって接するかぎり、以前と同じ距離まで退くことはありません。とすればそれは不可逆の変化です。人生にも不可逆の変化はいろいろありますが、以前と以後で決定的に変わって二度とは戻らない、その最たる変化が死であることを考えると、夢の中の猫がなつくことを無条件に受け入れていいものだろうか?

死ほど極端ではないにせよ、「なつかない=失いたくない」、「なつく=失う」に置き換えるだけで背筋を冷たいものが伝います。そう考えるとむしろこれはどんな手を使ってでも絶対になつかせてはいけないミッションであるかもしれないのです。愛らしいネコチャンを使って失いたくないものを失わせるなんて、狡猾にもほどがある。

もちろん、実際にはなつかせることができれば、決定的な不可逆の変化として、その後の人生は薔薇色が保証される可能性もあります。その対極が死である以上、一か八かで賭けるにはちょっと心理的コストが高すぎる気もしますが、そもそも日々が地獄みたいなものなのであまり気にならない、もしくは死とは竹馬の友なので、夢の中の猫をなつかせることにはどう転んでもメリットしかない、という人もいるでしょう。

ただその場合、問題になってくるのは、なつかせるために駆使したい諸々のアイテムを夢の中に持ちこむことができない、という点です。また覚醒時にいいアイデアが閃いても、それを夢の中の自分が引き継ぐとはかぎりません。

なので僕としては、蕎麦殻の枕を木天蓼の実と入れ替えることをおすすめします。枕だけでなくパジャマを木天蓼柄にするなど、寝具とベッドを木天蓼一色に染めてしまいましょう。夢の中でも木天蓼にうなされるくらいになれば、なつくかどうかを考えるよりも先に、猫がゴロゴロと喉を鳴らして近づいてくるはずです。また仮にそれでも近づいてこないとすれば、それは猫ではありません。猫の形をした別の何かであって、距離を縮める必要のないことがはっきりします。一石二鳥です。試す価値はあるでしょう。

ただし、その結果起きるかもしれない不可逆の変化については責任を負いかねます。がんばってください。


A. 木天蓼に埋もれて寝てみましょう。




質問はいつでも24時間無責任に受け付けています。

dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)


その430につづく!

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