2018年5月10日木曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その290



ハゼと共に去る犬さんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)だれもおぼえていないとおもいますが、ハゼシリーズの3作目です。


A. 歯医者に治療完了まで通いきれたことがありません。コツはありますか?


そうですね、僕がもし歯医者に治療完了まで通いきれる男だったら、こんな中年になるまでもたもた社会の底辺暮らしをつづけてはいないし、地域に溶けこむ温かな家庭を築き、一公務員として波風を立てることなく立派に定年まで勤め上げ、なんなら「おじいちゃんだいすき」と孫に慕われながら人生を全うしていたにちがいありません。いったいいつになったらこの荒れ狂う大海原を抜けることができるのかと数十年もの間ハラハラしながら航海をつづけてきましたが、今となっては嵐のなかでも鼻歌がでるくらいにはそんな夢をみることも少なくなっています。いずれ荒波にさらわれて海の藻くずが関の山です。

それもこれも、僕が歯医者に治療完了まで通いきれる男ではなかったからだし、なぜそうなのかといえばそこに歯医者があるからだし、翻ってだいたいぜんぶ歯医者のせいである、ということになります。まったくもって因果なことです。

どこでもというわけではないでしょうが、最近はアドレスを登録しておくと前日にメールでリマインダーが届く歯医者もあります。うっかり忘れてしまうケースを防ぐ手立てとしてこれはかなり有効です。予約時間の直前までしつこくピーピー鳴らしてくれるスヌーズ機能なんかついてたりしたらいいですね、と他人事みたいに書いているのは当の僕がこのリマインダーを利用していないからです。

ライトなすっぽかしはこれでよいとして、問題は「わかっているのに行かない」ケースです。僕なんかは完全にこれにあたります。わかってるんなら行けよとお思いでしょうが、ことはそれほど簡単ではありません。実際わかっているのに行けていないからこうして問題になっているのです。

歯医者の治療は他のケガや病気とちがってメンテナンスの要素が大きい、ということもあります。そもそも歯医者にあたらしく予約を入れるタイミングというのは明らかに治療を必要とする場合だとおもいますが、いちばん大きな問題が解決してもそれで解放されることはほとんどありません。大きな問題があるときはまずまちがいなくそれ以下の小さな問題を山ほど抱えているからです。そしてこれらの問題はいっぺんにではなく、ひとつひとつ片付けていくことになるので、当然それに見合った年月が費やされます。ひとつが片付いても1年たてばその間に状況はがらりと変わるし、なんなら片付いたはずの問題にまた立ち返る場合もあるでしょう。気づけば口の中のどこが今どうなっているのか判然としなくなり、そしてそのなんだかよくわからないきもちが臨界点を超えた時点で、歯医者はすっぽかされます。

ではいったいどうすればよいのか?

僕の場合は気づくのがおそかったこともあり、今となってはリスクが大きくなりすぎて断念せざるを得なかったのだけれど、しかしもしまだ間に合うようであれば、やはりこれがいちばんだろうと今でもおもいます。


A. 歯医者と結婚すればよいのです。


ただし、歯科医は配偶者に「虫歯のない人」を選ぶ傾向があります。というか、僕がそういうケースをいくつか知っているだけですが、考えてみたらそりゃそうかという気もするので、虫歯のために結婚したいのに虫歯のある人は向こうにとってそもそも対象外、というこの強烈なジレンマを踏まえたうえで挑んでみてください。

あと既婚者はきちんと離婚を済ませてからにしましょう。




質問は10年たった今でも24時間無責任に受け付けています。

dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)


その291につづく!

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