フローリングストーンズさんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)床に転がる石ですね。
Q. 眼鏡はかけたままお風呂に入りますか?
そうですね、シャワーを浴びるときの眼鏡、顔を洗うときの眼鏡、髭を剃るときの眼鏡、髪を洗うときの眼鏡、体を洗うときの眼鏡、湯船につかるときの眼鏡があり、ちょっとずつ必要な度数がちがうのでその都度使い分けています。とくに顔を洗うときなんかはめちゃめちゃ邪魔ですが、鼻が邪魔だからといって削ぎ落とすわけにもいかないのと同じ理由で、しぶしぶかけています。
眼鏡にしてみれば頼んでもいないのに泡まみれにされることに強い疑念を抱かざるを得ません。ふとした折にこう呟くこともあるでしょう。「なんでおれだけがこんな目に遭わなくちゃいけないんだ?」
「待ってくれ、それを言うなら」と髭を剃るときの眼鏡が言います。「僕は髭を剃るときの眼鏡だけど、それはもちろん剃るべき髭をよく見るためだ。でもよく考えてみると、髭なんか見なくたって手触りで剃れるじゃないか?百歩譲って必要だとしても、僕が見せるものと言ったら鏡に写る髭だけだ。想像してみてくれ、こんなに世界は広いのに、明けても暮れても目の前にあるのはむさくるしい髭だけなんだぞ!なんでこんな目に遭わなくちゃいけないのかだって?それは僕こそ言いたいよ!」
「待って待って、それを言うなら」と髪を洗うときの眼鏡が言います。「髪を洗うのに眼鏡はいらなくない?」
「そんなことはない」と体を洗うときの眼鏡がいいます。「シャンプーとかコンディショナーとかボディソープを判別するのに必要なはずだ。君には君の役割がある。わたしを見ろ、石鹸なんか他の何とも間違えようがない。だとすれば体を洗うのに眼鏡は不要なはずじゃないか」
「さっきじぶんでボディソープって言ってなかった?」と湯船につかるときの眼鏡が言います。
「ボディソープとシャンプーをまちがえるのはよくないね」と髭を剃るときの眼鏡が言います。「つまり体を洗うときにも眼鏡は必要なんだ」
「とはいえ石鹸なら間違えることもないから…」と髪を洗うときの眼鏡が言います。「眼鏡としてのレゾンデートルを維持するためにはなんとしてでもボディソープを使ってもらう必要があるってこと?」
「待ってくれ、よく考えてみたら」と顔を洗うときの眼鏡が言います。「顔を洗うのに眼鏡がいるのか?何を見るって言うんだ?」
「それはさっきも話してたが」と体を洗うときの眼鏡が言います。「だからと言ってかけないわけにもいかないんだよ。眼鏡を支える鼻と耳が、匂いを嗅ぐことと音を聞くことしかできなくなったらどうするんだ?」
「問題なくない?」と髪を洗うときの眼鏡が言います。
「あれっそういえば」と髭を剃るときの眼鏡が言います。「湯船につかるときの眼鏡は何を見てるの?」
「何も見てないよ」と湯船につかるときの眼鏡が言います。「見てるようで、何も見てない」
「それでいいのかい」と髭を剃るときの眼鏡が言います。
「いいよ、もちろん」と湯船につかるときの眼鏡が言います。
「なんで?」と髭を剃るときの眼鏡が食い下がります。「だってそれは…」
「かけなくてもいいってこと?」と湯船につかるときの眼鏡が言います。「そうかもね。でもかけてる」
「そこがおかしいんだ」と顔を洗うときの眼鏡が言います。「なぜかける?」
「かけたいからでしょ」と湯船につかるときの眼鏡が言います。「みんな一体何の話をしてるの?」
「何って…」と顔を洗うときの眼鏡が言い淀みます。
「それは…」と髭を剃るときの眼鏡が口ごもります。
「君はどうなんだ」と体を洗うときの眼鏡がシャワーを浴びるときの眼鏡に尋ねようとあたりを見渡します。「あれ?」
「帰ったよ」と湯船につかるときの眼鏡が言います。「もう眠いって」
「髪を洗う眼鏡もいないぞ」と顔を洗うときの眼鏡が気づきます。「さっきまでいたよな?」
「デートでしょ」と湯船につかるときの眼鏡が言います。「ずっとソワソワしてたもんね」
…というような話だったらよかったんだけど、残念ながら僕は眼鏡をかけたまま風呂に入ることはありません。温泉とかスーパー銭湯くらい広いとさすがに危ないのでかけます。またその場合、湯船につかるときもかけていますが、これは視力の補助というより、単なる収納として耳と鼻に引っ掛けているだけです。うっかり踏んづけたり、どこかに置いてきてしまう心配がないし、なんと言っても持ち運ぶのにちょうどいいですからね。
A. かけません。
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dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)
その469につづく!
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