かぼちゃの煮つけ、茄子の揚げびたし(に生姜)、枝豆のしょうゆ漬け、だし巻き、納豆(に葱)、韓国海苔、大葉とじゃこのおろし和え、ごはん、わかめと茗荷の味噌汁、ヨーグルト、梨(幸水)
というある朝の献立(これが毎日ぜんぶ入れ替わるわけではないけれど)をつらつら眺めていたら、なんだかずいぶん遠くまで来たようにおもわれて、しんみりさせられました。最初はおむすび2つくらいから始めて、ときどき手間のかからなそうな常備菜をひと皿添えたりしながら、あせらず、ムリをせず、足掛け10年くらいかけた結果がこれだから、千里の道も一歩からだとつくづくおもう。
今ではほとんどの動作がルーチンなので、よしやるぞ!と腕まくりをしなくても、起きてムニャムニャしているうちに自然と食卓ができあがります。時間がないときめつけてコーヒー1杯で済ませていたころが遠い夢のようです。そのかわり昼と夜はいまだに食べたり食べなかったりとものすごく適当ですけど。
ちなみに上の献立にはどう考えても季節にそわない不自然な一皿がしれっとまぎれこんでいます。
どれかわかりますか?
*
七人のさむがりさんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)
Q. なんでもいいので1つ秘密を知りたいです。
ふむふむ。本来ならばこれはおそらく小林大吾かでなければムール貝博士の、という意味だとおもわれますが、しかしよくよく見るとそうは書いてないことだし、ここはひとつ目玉焼きの秘密を開陳するといたしましょう。
そんな秘密はお呼びでない、とここでブラウザを閉じてしまうのは大きなまちがいです。何しろこれから僕がしたためるのは秘伝中の秘伝であり、これを知っているのとそうでないのとではキャベツと芽キャベツくらいの開きがあると言わねばなりません。ぜんぜん関係ないけど僕は芽キャベツの、スーパーでみかける愛らしい姿からはとても想像がつかない、ほとんどモンスターのような畑での異形ぶりを知って、心底ぶったまげました。まるでぶどうだよ!
それはそれとして、いいですか。目玉焼きと言えば物心ついたちびっこでも容易にチャレンジできる、あるいは道具がなくとも炎天下のボンネットさえあれば代用できる、初等ともいうべき料理のひとつです。わざわざ語るまでもないようなそんなひと皿が、ちょっとしたつくりかたひとつでメインディッシュとしてもひけをとらない輝きをキラキラ持ち始めると想像してご覧なさい!彼氏彼女の見る目だってそりゃあ劇的に変わろうというものじゃありませんか。それでなくとも目玉焼きなんて誰がつくっても同じだとおもいこんでいるだろうし、「これくらいしかつくれないけど…」とか言いながら差し出したりすれば、もろもろのギャップが掛け合わさるその効果はまったく計り知れません。得意料理と言うにはあまりにシンプルすぎる、しかしその控えめな立ち位置こそがこのひと皿ではなんといっても最大の武器になるのです。ざっくり言ったらモテるってことだぞ!
オホン。
(調子に乗って風呂敷を広げすぎたことの当惑を咳で散らしています)
最上の目玉焼きにおけるポイントは2つです。
1. 油をたっぷり引くこと。
2. とろ火で気長に焼くこと。
たっぷりの油というのは、焼き上がったあとオイルポットに戻すくらいの量です。フライパンもあらかじめ温めておく必要はありません。フライパンを取り出したら「いちばんちいさな火」にかけ、油をたっぷり引き、冷蔵庫から出した卵をぽとんと落とす、それでおしまいです。その上に胡椒と塩をてきとうにふりかけておきます。とにかくゆっくり焼くことが肝心なので、熱が回りやすくなるふたはしないでおきましょう。じぶんの好みまで黄身が固まればできあがりです。
え、ふつうじゃね?
とおもいますね?でもふつうは油をそんなに引きません。それに中火でわりと手早く焼いてしまうはずです。
ところが「たっぷりの油」と「初めから最後までひたすら弱火」をきちんと守ると、得られる結果がぜんぜん変わってきます。いちばんはっきりとちがいが出るのは、白身です。白身は熱しすぎると端からキツネ色にパリパリとゴム化してきますが、まずこれが全然ありません。端っこまでずっとまっ白なままです。だからなのかどうか、焼き上がっても白身はふわりとやわらかく、舌ざわりもいたいけなほどぷるんとしています。じっさい、最上の目玉焼きにおいてむしろ黄身は脇役になると言っても過言ではありません。それくらい、今まで知らずにいた白身本来の魅力に目をみはるはずです。
せっかくなのでアレンジも加えてみましょう。用意するのは一切れのベーコンと葱を1/3本です。どちらもこまかく刻んでください。これを卵の下に敷いて同じようにじわじわ焼きます。それだけです。葱は油で熱して「葱油」をつくるくらい香りの豊かな野菜だし、ベーコンの脂にはもちろんこってりとした味わいがあるから、相乗効果でえも言われぬおいしさになります。
さらにゴハンを用意しましょう。ゴハンにしょうゆをちょいちょいとふりかけて、もみ海苔かアオサをばらばらと撒き、その上に先の目玉焼きを乗せます。黄身をつぶして、よく混ぜながらいただきましょう。うそいつわりなく、これだけで店が出せるくらいの美味さです。
ためしてみてね。
A. 目玉焼きは弱火でゆっくりゆっくり焼きましょう。
どうでもいいけど今日ゴハンのことしか書いてないな。
*
質問はいまも24時間無責任に受け付けています。
dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)
その170につづく!
7 件のコメント:
ベーコンとネギと油の目玉焼き!読むだけで充分おいしそうなお話ですね。こんどひとつやってみます!毎日献立に追われる身としては、料理上手な大吾さんにこの話題でコーナーをひとつ作って欲しいくらいです。いつかパンケーキの秘密も教えて欲しい!
詩で十分知っていた気になってましたが、なんというか、改めて言葉の力を思い知りました。
目玉焼きがこんながおいしそうに聞こえたのは初めてです。それってもしかして世界で一番おいしい食べ物なんじゃないかと思えてくるほどです。
なので、今から作って食べます。
> みわさん
この方面に手を伸ばすと
ホントそればっかりになりそうでこわいですね…
ちなみにパンケーキも決め手は白身ですよ!
> 赤舌さん
ふーむ。すると書き方が功を奏したのかな?
作ってみましたか?
作ってみました。想像以上でした。
うわ!うめぇ!って一人でいうくらいうまいです。
今まで食べてた目玉焼きとは別のカテゴリーに分類されるくらい違いました。
あれ?これ僕が頂いたペンネームやぞ?っと思ったら、僕の質問でした!まさかの目玉焼きの秘密..休日にでも試してみます!あ!僕ソース派なんです。
> 赤舌さん
でしょー。
> 七人のさむがりさん
ふふふ。たしかにソースもオツですが、
それはふつうの目玉焼きしかご存じないからです。
ためしてごらんなさい!
目玉焼きも朝食のレギュラーメンバーですw
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