2016年5月8日日曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その246


おお牧場はよりどりみどりさんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がなんとなくつけています)


Q: 僕は自称「サメ文学研究」のパイオニアとして、日々精進してます。主な研究の内容は「サメの出てくる小説の傾向の調査と、未来の可能性の追求」です。ですが、サメの出てくる作品をなかなか見つけることができていません。今まで見つけたものとしては
『古事記』
『白鯨』著・メルヴィル
『老人と海』著・ヘミングウェイ
『石の幻影 短編集』著・プッツァーティ
『もうひとつの街』著・ミハル・アイヴァス
『ロールシャッハの鮫』著・スティーヴン・ホール
です。
※ちなみにスティーヴンスンの『宝島』に登場するジョン・シルバーの片足に関しては、戦争で失った旨の供述が作中に書かれているので、サメに喰われたとは換算しておりません。
※今現在、「鮫島」などの固有名詞として出てくるサメは追いかけたらキリがないので無視しています。
以上のように、僕ひとりで探しているため、なかなかサメの出てくる小説を見つけることができていません。ムール貝博士に思い当たる作品か何かあれば、ぜひ教えていただきたい次第です。
よろしくお願いします。


すてきな研究をお持ちです。メルヴィルやヘミングウェイはともかく、その他はぜんぜん知らなかったので気になります。古事記は謎めく生きもの「わに」のことですよね、おそらく。

ともするとググりたくなるような話ですが、それでは説得力がないし、だいじな研究にケチがついてしまうようだし、第一おもしろくありません。ただ、僕も手に入れた本を読んで「うーんおもしろかった!」と満足した数日後に部屋でまったく同じ本をもう1冊見つけて驚愕するくらい記憶がいいかげんなので、ろくすっぽお役に立てないことを先にお詫び申し上げつつ、パッと思いついた作品を2つばかりご紹介しましょう。

「小数点花手鑑」ココで注文するともれなくおまけでついてくる取扱説明書にも書きましたが、アルバム中の一編「100匹数えろ/jonah the insomnia」はもともとカルロ・コッローディによる不朽の児童文学「ピノッキオの冒険」から着想を得ています。具体的に言うと物語のクライマックス、ピノキオが飲み込まれた魚のお腹のなかで育ての親であるジェペット爺さんと再会する有名な場面です。こうして冷静に要約してみると「何言ってんだ?」という気がしなくもないですね。

ディズニーの映画ではジェペット爺さんとピノキオを飲みこんだのはクジラになっていますが、原作ではこれがサメです。

ちなみに「ピノッキオの冒険」については以前のパンドラ的質問箱でもオススメの一冊として紹介しています。そういや前にここで……と見返してみたらもう7年も前の話で開いた口がふさがりませんでした。

そしてもうひとつ、僕にとってもこれはとくにだいじな一冊ですが、レオポール・ショヴォの「年を歴た鰐の話」があります。


十数年前の復刻で初めてその存在を知って以来、いつかそのオリジナルを見てみたいと願いつづけた一冊です。今年の1月、思いがけず手に入ったときは本気で目を疑いました。僕の手元にあるのは昭和22年の再版ですが、再版でさえ70年ちかく前の話だから、探してもなかなか見つからないんですよね。旧仮名遣いの味わいがまたいいんだ……。

それはさておきここに、「のこぎり鮫とトンカチざめ」という短い一編が収められているのです。のこぎり鮫はもちろんそのままノコギリザメ(鋸鮫)、トンカチざめはシュモクザメ(撞木鮫/ハンマーヘッドシャーク)のことですね。

そのあらすじはというと、のこぎりとトンカチで船を沈めては腹を抱えて笑い転げるのが趣味のどうしようもない2匹が最終的に恨みを買ったクジラの尾ひれで叩き潰されて終わる、そんなお話です。根っからの小悪党による最初から最後まで1ミリも共感できないある種のノワールと言っていいような気もしますが、種まで特定できるサメの物語は珍しいし、研究対象としてもかなりポイントが高いのではありますまいか。

しかしこの書物の白眉はなんといっても表題作である「年を歴た鰐の話」でしょう。これほどまでにネジのぶっ飛んだ愛の物語を、僕は他に知りません。これを読んだことがあるのとないのとでは、愛というものに対する考え方がおそらく天と地ほども変わってきます。奥が深すぎて簡単には教訓が導き出せない、おそるべき物語のひとつです。


気づけば復刻も絶版になって久しいですが、まだわりと手に入れやすいとおもうのでぜひ探してみてください。先の2つと合わせて、3つの短編が収められています。著者自身による挿絵も最高だし、こんなのが昭和初期に翻訳されていたなんて未だに信じられない。そしてどのお話も、端的に言ってクレイジーです。この一冊で人生観がひっくり返りましたと言われても、僕はぜんぜん驚かないです。ホントに。


A: カルロ・コッローディ「ピノッキオの冒険」と、レオポール・ショヴォ「年を歴た鰐の話」




質問はいまも24時間無責任に受け付けています。

dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)


その247につづく!

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