失われた、と彼らは言うのです。
それまで何ひとつ制約を受けなかった在りし日の日常に思いを馳せながら、本来なら得ていたはずの大小さまざまな機会とその尊さを噛みしめます。いずれ収束したら、とすこし先の未来を思い描くこともあるし、ホントそうだよねと頷くほかありません。
2年もたってまだ現在進行形だなんて想像もできなかったこともあるけれど、いっぽうで僕としてはもうこれ以上、何かを取り戻そうとするような向き合い方をしたくない、という気持ちが日に日に強まっています。あるものを大事にするならともかく、ないものをあったと仮定して惜しむその先に何があるのか、以前とは明確に異なっていて思うようにいかない日々を、否定するのにいいかげんうんざりしつつあるのです。
人生の半ばを過ぎてもいまだに地に足のつかない暮らしをしていることもあって、もしあれもこれもなかったらと想像することが今もよくあります。屋根がなかったらとか、ただでさえ少ない友人がいなくなったらとか、本当に文無しになったらとか、記憶がなくなったらとか、運がなかったらとか、今ほど健康でなかったらとか、たとえばそういうことです。ただどれだけ考えても、常に答えはそうなったらそうなったで生きていくしかないの一択しかありません。そしてまだそうなっていないのだとしたら、むしろその恩恵をしみじみ噛みしめたいのです。誰もが共感する大多数の印象は、そうでない人を不可視にしてしまうことも、忘れたくない。たぶん、「多数による当たり前」に対して心のアラートが鳴っているんだとおもう。
だからこそ、じぶんはどうだろう、まだなんとかなってる、明日はわからないけど、ひとまずそれはいい、よし、ふうー、と大きく息をついて、面を上げて、また明日への一歩を昨日と同じように踏み出したいのです。
それらを踏まえた座右の銘として、心の壁面にはいつでも「Peanuts」におけるスヌーピーの一言がチョークで大きく書きつけてあります。
“YOU PLAY WITH THE CARDS YOU’RE DEALT..” (配られた手札で勝負するしかないんだ)
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そうしてどうにかこうにか、今年も大晦日を迎えています。何しろこんな日々なので、振り返るほどのトピックはありません。何か忘れていることがあったかもしれないと一縷の望みを抱いてブログを遡ってみたけれど、1月から10月までパンドラ的質問箱だけがずらずらと並んでいて目ん玉飛び出ました。え、もっと何かないの?いやあるでしょひとつふたつ何かしら、ないの?まじで?10ヶ月もいったい何をしていたの……?
なので挙げられることと言ったらつい先日7年越しに実施された「パン屋再襲撃」と、あとは安田タイル工業の本社ビルが破壊されたこと、並びに弊社の専務が留置場にぶち込まれてこないだ出所したことくらいですね。
改めて、「パン屋の1ダース」に興味を持ってくれたみなさま、本当にありがとう!ちょっとした思いつきで、そういえばまだちょっとだけ残ってた気がするな、と思ったらホントにちょっとだったけど、でもせっかくあるならと久しぶりにレーベルのボスと相談して、ひとつ残らず送り出せたことには感謝しかありません。さすがにあんなことになるとは思いもよらなかったので周章狼狽しきりではあったものの、これもひとえに今もお付き合いくださるみなさまのおかげです。ありがとうありがとうありがとう。
来年はおそらく、今やすっかり雲の上の人になってしまったタケウチカズタケ御大がどう考えても多忙すぎる日々の隙を縫いつつ丹精こめてリメイク(!)してくれた、またそれに伴ってリーディングも新たに録り直したいくつかの楽曲群が形になる…はずです。なるといいな。なりますように。カズタケさんから声をかけてくれたことが本当にうれしくて、新しい作品も生まれたらとか、珍しくそんな気持ちになっています。なぜ恋に落ちないのかと他人事のように首をかしげるばかりです。
さて、長くなりました。ついさっきまで年賀状キャンペーンにひとりどたばたやらかしていて、大晦日なのにおごそかもへったくれもありません。15年以上寄り添ってくれている古参のみなさま、今年初めて出会ってくれたみなさま、新年もこんな調子です。また引きつづき、と言っても特に得るものはありませんが、どのみち昔からそうなのであまりお気になさらず、ひとつよしなにお付き合いくださいませ。
よいお年を!今年もありがとう!