2023年3月24日金曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その386


すっぱいファミリーさんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)


Q. 「プランAでもプランBでも私はそれほど興味がないのでお好きにしてくださいな」をやわらかい言葉に置き換えられずにいます。身の回りに手頃な道具もないときどうやって意思表示をしたらいいですか?


ふむふむ。身の回りに手頃な道具がないとき、というのはおそらくバールとか、振り下ろして意識を失わせるのにちょうどいい鈍器がないとき、ということですね。

できればあまりそこに時間を割きたくないけれども、かといって失せろこのクソボケサルと吐き捨てるわけにもいかない大人としての苦悩がひしひしと伝わってきます。

お気持ちはすごくよくわかりますが、しかしいくら角が立たないようにやわらかく言い換えたところで、求められた意見を放棄するという意味ではまったく同じである点に注意しましょう。そして意見の放棄は印象が悪くなることはあっても、良くなることはまずないというリスクを常に孕みます。ほっといてくれるだけでいいのに、人生の不条理まさしくここに極まれりです。

逆に「AでもBでもいい」のだとしたら、興味がなかろうと何も考えずにAもしくはBを選んでしまうほうが手っ取り早い上に印象もめちゃ良いのではないか、と僕なんかは思います。一瞬でも迷いたくないのであれば、常に先に示されたほうを選べばよろしい。比較も検証も必要ないし、極端な話AとBが何なのかを知る必要さえありません。AとBならA、右と左なら右、1と2なら1、罪と罰なら罪、千と千尋なら千、ヘンゼルとグレーテルならヘンゼル、みきおとミキオならみきお、ハリー・ポッターとアズカバンの囚人ならハリー・ポッターです。理由を聞かれたら「ピンときました」の一言で事足ります。

どっちでもいいけど決めることだけはどうしても避けたいというのであれば、そうですね、これはできれば使いたくなかった奥の手になりますが、深紅の口紅を塗り、妖艶な笑みを浮かべながらねっとりとした口調で ”As you like it.” と甘ったるく伝えましょう。ばちーんと音がしそうなウィンクからの舌なめずりに投げキッスで試合終了です。


A. こんなことにならないためにも、手頃な鈍器を近くに常備しておきましょう。




質問はいつでも24時間無責任に受け付けています。

dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)


その387につづく! 

2023年3月17日金曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その385


荷重100%さんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)


Q. お風呂場のお湯と水が蛇口を閉めても止まりません。漏れ続ける水の利用方法を教えてください。


よい心がけです。あるがままに欠陥を受け止め、それを慈しむばかりか、さらなる高みへと誘う高僧のような姿勢には、わたしたちも大いに学ぶべきものがあります。質問でありながらそれ自体が答えとして完成しているなんて禅問答みたいな話です。個人的には「早く修理しなよ」と思わないでもないですが、考えてみれば徳の高い僧は自分で蛇口の修理なんかしなさそうな気もするし、功徳を積むつもりですこし向き合ってみましょう。

手塚治虫による不朽の名作に「火の鳥」という壮大なシリーズがあります。中でも最高傑作との呼び声も高い一編が、「鳳凰編」です。ここでは隻腕にして隻眼の賊である我王と仏師である茜丸の交錯する人生が圧倒的な筆致で描かれています。

どちらかというと作中で比重が大きいのは我王のほうかもしれませんが、ここで取り上げたいのは茜丸のエピソードです。

一流の仏師となるべく研鑽を重ねていた茜丸はある時、ただ気に入らないという理由で我王に右腕を斬られます。彫刻を生業とする者にとって利き腕の自由を失うことは、死にも等しい悲劇です。

その傷を介抱した寺の住職は、もう仏師ではいられないと絶望する茜丸にある彫刻を見せます。今にも動き出して飛び跳ねそうな、鹿や猿の像です。あまりの出来栄えに驚嘆する茜丸が彫り手の名を尋ねると、住職は境内にある鹿威しを指します。斜めに切った竹が水の重みで石に当たってカコーンと鳴る、アレですね。

要はしたたる水の下に石を置き、長い年月をかけてすこしずつ位置をずらしながら滴の弱々しい力だけで動物の形に仕立てていたのです。

ちなみに僕は鳳凰編を小学生のころ読んでいたので、「雨垂れ石を穿つ」という諺には故事があってそれがこれだとかなり長いこと思いこんでいました。それくらい説得力のあるエピソードです。

もうおわかりですね。漏れつづける水の利用法はいろいろあると思いますが、いただいた質問に対する答えという意味ではおそらくこれしかありません。


A. 何らかの像を彫りましょう。


ちなみにひとつ彫るのに7年くらいかかるそうです。必要ならそれとは別の新しい蛇口を取り付けてください。




質問はいつでも24時間無責任に受け付けています。

dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)


その386につづく! 

2023年3月10日金曜日

鮮やかな色彩と共に命を吹きこまれた化石のような


よくぞはるばるここに辿り着きなさった、と時々は言わねばなりますまい。

ところ狭しと生い茂る背の高い雑草をかき分け、山と積まれた古タイヤとか洗濯機、座椅子なんかの粗大ゴミを乗り越えた先にある朽ちかけた扉はペンキが剥がれ、蝶番も外れて立てかけた板も同然の有様、これを蹴り破るも薄暗くて蜘蛛の巣を払いながらでは足を踏み入れるのにも勇気がいるけれども、そうでもしなければ辿り着くはずもない一部屋が、つまりここです。

よくぞはるばる……と目頭を抑えながらやはり言わねばなりますまい。

浜辺に打ち上げられた栄螺の貝殻のようにポツンと異彩を放ち、たまたま散歩あそばしていた貴族の令嬢の目に留まり、その白魚のような指で拾われたのちは末永く愛でられたと今もまことしやかに語り継がれるアグロー案内 VOL.4についてはおおむね語り尽くした気もしますが、最後に異彩中の異彩ともいうべき「すきまから滴る夜に/underground astrologia」についてすこし触れておきましょう。



なぜ異彩かと言えばまずその由来が書いた当人にもよくわかっていないからです。いつ、そしてなぜこれが書かれたのか、今もってさっぱり思い出せません。ただテキストだけがハードディスクにぽつねんと残されており、おそらくこう読まれたに違いないという推測のもとに再現しています。化石から復元された恐竜みたいな一遍です。

ざっくり復元図を描いたのが僕だとしたら、化石からDNAを抽出し、鮮やかな色彩と共に新たな生命として蘇らせた、ジュラシックパークさながらのマッドサイエンティストがタケウチカズタケです。ここには御大の卓越したセンスとその超絶技巧が惜しみなくぶちこまれています。

何しろこれ、トラックが後なのです。トラックに合わせてリーディングをしたわけではない。というか何ならリーディングをどこにどう当てるかを決めたのも僕ではないのです。かなりハードな音韻がこう乗るとは正直思ってもみなかったし、それでいてこの乗せ方こそが全体のファンク度をより高めているあたり、おそるべしと感嘆するほかありません。

肝心のテキストとリーディングがそのクオリティに見合っているのかすこし心もとない気もするけれど、じつはとんでもない音楽的スキルに基づいて完成した作品であることを念頭において、ぜひ聴き返してみてください。

2023年3月3日金曜日

「アグロー案内」の奥行きが変わる細部について、その3


世界各国のウィークリーチャートを瞬く間に席巻してトレンドに上がらぬ時とてなく、取材やらオファーやら次から次へとひっきりなしで片っ端からお断りせざるを得ないような状況のイメトレに余念がないアグロー案内 VOL.4、今回は山本和男待望の新作である「推理の時間/tilting at windmills」についてお話しいたしましょう。

年末に人知れず開催されたライブイベント「アグローと夜(AGLOE AND NIGHT)」では宿敵である森脇(もりわーきー)教授との最後の対決にいよいよスポットが当てられるとお伝えしたような気がしないでもないので「あれ?」と思われた方も数人はいらっしゃるかもしれません。対決ではなかったのか?その気持ちはよくわかります。しかし名探偵といえば何と言っても鮮やかな推理です。推理をしない名探偵など開かないパラシュートみたいなものであって、それはただ地面に激突するだけの落下物にすぎません。パラシュートである以上は開かなければ始まらないし、だとすれば名探偵もまた推理をしなければ始まらないのです。

この曲のイントロではいかにも古めかしい、時計の金属音が使われています。デジタル中心で秒針という概念すら希薄な今となってはカチコチという擬音も何を意味しているのかちょっとわかりづらくなっていますが、これは実際に今もウチでふつうに使っている振り子時計です。昭和初期のものなので、かれこれ100年近く現役ということになります。良い音だからと使うあてもないのに録音しておいた甲斐がありました。実際これほど完璧な使いどころはこの先絶対にないと思う。古時計も、持っておくもんですね。



今回の英題 "tilting at windmills" についても触れておきましょう。tiltは「突撃」、windmillsは「風車(ふうしゃ)」です。これはかのドン・キホーテが風車を敵と思いこみ、大立ち回りというか盛大な空回りをした有名なエピソードを元にした慣用句で、ありもしない敵に戦いを挑むこと、つまり「独り相撲」を意味しています。

名探偵山本和男がいったい何を相手に勝利を収めようとしているのかを露骨に示唆する、何ならこのタイトルが「事件の謎を解く山本和男」というさらに大きな謎を解く手がかりでもあったわけですね。

それにしても、タケウチカズタケと小林大吾のどちらか一人が欠けたら成立しない表現がまさかこういう形で結実するなんてまったく、しみじみと感慨深いものがあります。

気づいたらシリーズを継続しなくてはならない最大の理由になっているところが最高じゃないですか?

2023年2月24日金曜日

アグロー案内 VOL.4と少年ジャンプの発売日に共通すること


さて、一部のプラットフォームではなぜか1週間くらい前から試聴どころか全曲フル尺で配信されていて関係者一同膝から崩れ落ちたというアグロー案内 VOL.4がいよいよ今晩0時にリリースとなります。人を迎えに行ったら迎えるこちら側にその人がいるような気分です。一体われわれはこれから何を迎えるというのか?

しかし配信開始を2月25日(土)と設定し、実際にそう告知した以上、仮にApple MusicやYouTube Musicなんかでとっくに全曲配信されていようとあくまでリリースは今晩0時です。断固としてそう主張せねばなりません。楽しみですね。

(リリースから遡ること1週間前)
「もう配信されてるっぽいんやけど…」
「なんですって」
「どういうことやねん」
「黙っときましょう」

たとえば少年ジャンプです。ジャンプと言ったら今も昔も発売は毎週月曜であり、今でこそ巻末の次号予告にも月曜発売と書かれていますが、僕が子どものころは火曜発売とありました。どこでも月曜には売られていたので早売りとは言えないとおもうけど、とにかく正式には火曜発売ということになっていたのです。

そしてまた、大っぴらには言えませんでしたが土曜に早売りをする店もありました。最も大胆不敵なケースでは、よりによって集英社のすぐ近所で金曜に売る店がごく最近まで存在していたくらいです。豪胆にもほどがある。

つまり土曜に配信のところを金曜の24時と解釈するのは、本来火曜発売だったジャンプを月曜に売るようなことであり、もしそれよりもずっと早く配信されているとすればそれはジャンプをこっそり金曜に売るようなことである、ということです。世の中にはそういうことが往々にしてあります。それでなくとも人を煙に巻くところのある作品なのに、リリースそのものがこうもとっ散らかるあたり、実にアグロー案内らしいと申せましょう。

予定ではVOL.4に収録された、風変わりな新作掌編についてすこし触れるつもりだったんだけど、それはまた次回にお話しいたします。

いずれにしても数時間後には端から端まで全面的に解禁です。どうか楽しんでもらえますように。

2023年2月17日金曜日

いったい何がそんなに革命的だったのか?


音楽に合わせてリーディングをするとき、僕はかなり几帳面に言葉を配置していくタイプです。曲の長さよりもむしろBPMに言葉数を規定されているところがあります。五七調では全然ないし厳密でもないけれど、このテンポなら文字数はこれくらい、とざっくり決まっている点では短歌や俳句にも近いかもしれません。水を流すように読むのではなく、石を置くように読む感じ、と言ったらいいだろうか。小節単位という意味ではラップと同じですね。

きっちりと配置していく以上、自由度は実のところそんなに高くありません。その是非とかありようはさておき、それはひとつの確固たるスタイルとして定着していました。新しい「ジョシュア」と向き合うまでは。

新しく提示されたトラックは、テンポがオリジナルと全然ちがっていました。同じ発語で寄り添うにはテンポが速すぎるし、発語をトラックに合わせるには遅すぎて間伸びするのです。帯に短し襷に長しと言うほかない。

これを自然に、かつきっちりとリズムに添わせるためには、テキストにおける明確な区切りでもあった小節をスルーしなくてはなりません。要はオリジナルのリーディングを分解して、ゼロに戻す、ということです。これは自分でトラックをこしらえ、できたらそれに合わせて詩を書いてきた僕にとって、完全に想定外の状況になります。ビートに合わせて書いてたんだから、テンポが変われば小節単位が無意味になるのは当然です。

意識しないとオリジナルと同じように読んでしまうので、てにをはとか、ワンフレーズで区切りながら、どこにどう乗せるかを決めていきます。今まで経験したことのない、気の遠くなるような作業です。全部やり終えたら、今度はそれを参考にその配置のまま、自然にひと息で読むことを何度も繰り返していきます。

ぜんっぜんそんなふうには聴こえないとおもうけど、そうして出来上がったのが新しいジョシュアです。

そしてこれができたということはつまり、ビートに合わせて書くことなく、何ならビートを聴く前に書いておいたテキストであっても、あとからぴったり添わせることができることを意味します。率直に言ってこれは、今までやってきたことが根底から覆ってしまうほどの衝撃です。ぐあああああ何だよもっと早く教えてくれよ、20年費やしちゃったよ!!!!!!!10年前に気づいてたらあとアルバム4、5枚分は書けてたよ!!!!!と床をゴロゴロのたうち回るほどの衝撃です。

待って待って、本当にそうなのか…?どれだけ好きに書き散らかしても、あとから上手いこと乗せられるなんて、そんなことあるのか…?

という疑問を今さら失うものなど何もない安田タイル工業の新しいタイル製品で2つほど検証してみましたが、今のところ本当に、非の打ちどころなくできています。もはや疑う余地はありません。もうビートに合わせて書く必要は ま っ た く な い 。

20年もの長い年月を経て、いま僕のリーディングはフェーズ2へと移行しています。そのきっかけとなった濫觴こそがアグロー案内 VOL.4に収録された、「ジョシュア2023/fishing ghost revamped」です。

や、聴いてもピンと来ないだろうなとは思うんですけど。

2023年2月10日金曜日

配信日の訂正とトラックリストの公開

僕は昔から誤字とか脱字、文章のてにをはにわりと神経を使うタイプです。1文字2文字をミスったところで全体としては何の影響もないとわかってはいるのだけれど、直せるなら気づいた時点で直す習性があります。

ところがそんな習性がここ数年、だいぶゆるやかになってきているのです。たとえばこないだ新しいトートバッグのデザインをTRINCHに、あっ

そうだ今トートバッグが全品500〜700円OFFです。そうだったそうだった、よかったら見てみてね。


そこで「博愛の超強力接着剤モチダイン」をうっかり「博愛の超協力接着剤モチダイン」としてしまったことにしばらくしてから気づいたのだけれど、あわてて直すどころか「博愛なんだからむしろ協力でいいじゃないか」とそのまま放置している始末です。大らかになったものだとおもう。

なぜ藪から棒にこんな話をしているのかというと先週、満を持して発表したアグロー案内 VOL.4の配信日に誤りがあったからであり、さらに言うとそれを、来週訂正すればいいかと放置して今日になったからです。誰にも気づかれないくらい多くの人にご覧いただいているのに、不甲斐ないことでまことに申し訳ありません。改めてお知らせすると、

アグロー案内 VOL.4の配信開始は2月25日(土)の0時です。


そして肝心のトラックリストはこちらになります。


アグロー案内における主人公が山本和男であるのは今さら申し上げるまでもないとして、次に注目してほしいのはやはり「ジョシュア」の2023年版…と言ってももともとがライブ用にこしらえた一編だったので、実際にはこれが初の正式なリリースとなります。感無量というほかありません。

そしてこれは僕にとってこれまでの20年とはフェーズが完全に変わった、掛け値なしにエポックメイキングな一編です。

ふつうにリーディングをしているように聴こえるとおもうけど、ふつうにリーディングをしているように聴こえることがまずすごい。何しろトラックがオリジナルとまったく異なるアプローチだったので、これまでのやり方ではリーディングをどうやっても合わせられなかったのです。まさかワンフレーズずつ位置を探りながら録音することから始めるとは思わなかった。

しかし結果として、まるで初めからこうだったかのように自然でとても美しい、完璧な一編に仕上がっています。

どう聴いてもそんな特別なことをしたようにはとても聴こえないこの一編がなぜ僕にとって革命とも言えるほどに画期的だったのか、これができると一体何が変わるのか、それはまた次回に改めてお話ししましょう。

たぶん数人しか興味ないとおもうけど、数人いてくれれば十分です。

2023年2月3日金曜日

そして来る「アグロー案内 VOL.4」のこと

もう確定していつでも発信してよい情報をいつ解禁したらよいのだろうと考えてしまうのです。あんまり早いと本人も忘れてしまうし、更新できる情報もべつにないので、後がもちません。当たり前すぎて誰も気づいてないから僕が言いますけど、告知にはその期待感を維持するだけの継続的な活動が必要とされるのです。

いつでも解禁していいよと言われてからあんまり無沙汰でも冥利がわるい。しかし今この時点で発信したらそのあと1ヶ月をどうもたせたらよいのかわからない。そんなやるせない逡巡を振り払ってのお知らせです。アグロー案内 VOL.4のリリースが正式に決定いたしました。


配信日は2月25日(金)の午前0時です。

またこのVOL.4は、VOL.3の時点でなんとなく予想されたものとはちょっと様相が異なります。と言ってもそんな大層なことでは全然ないんだけれど、それでもこの組み合わせになるのは僕も予想していなかった。

すでに予告というか呟いたこともあるので念のためここでお伝えしておくと、「棘」の新しいバージョンは含まれません。言うまでもなくこれは、シリーズがさらに先へと続くことの布石と保証でもあります。

なぜそうなったかというと、手探りでおそるおそる進めていた一編がこれ以上ないほど美しい着地を見たからです。また、きわめてイルな新作が含まれます。まさかこうくるとは思わなかった、中毒性の高い一編です。そしてもちろんメインディッシュとして、山本和男シリーズの新作もあります。

「アグロー案内」の片翼を担うタケウチカズタケはこのVOL.4を「挑戦的」と表現していましたが、僕も同感です。その理由についてはまた改めて、トラックリストと共にお伝えしましょう。

リーディングと音楽で何がどこまでできるのか、ますますおもしろくなる予感に満ちたアグロー案内 VOL.4、刮目してお待ちあそばせ! 

2023年1月27日金曜日

改めて安田タイル工業とは何か、またはタイルであるとはどういうことか


このところ世間では10年に1度の大寒波、もしくは安田タイル工業の革新的な新製品である通称ワンカップがとくに話題にも上らないことで持ちきりですが、鑑みるにここらで一度あらためて、きちんと弊社の説明とかアピールとか示威をなんなら威嚇も込みでしておくほうがいいように思われるのです。

というのも、弊社を知る人に「安田タイル工業をご存知ですか」と尋ねるとまず100%「知ってます」と返ってくるほど高い認知度を誇るにもかかわらず、そのあとに「いまいちよくわかってないですけど」と付言される割合もまた100%なのです。

「サクセス」とか「ビリーブ」とか「アスタラビスタベイビー」とか「吹き抜ける一陣の蒼い風に揺れる君の髪のキューティクル」とかそういう社名ならわかりますというか、わからないのはわかります。何の会社か全然わからないし、その気持ちはすごくよくわかる。しかし弊社は「安田タイル工業」です。「タイル」「工業」ときたらそれはもう「パン」「焼く」と同じくらい直球かつ明白だし、パン屋に「パンを焼く店」と名付けるようなものであって、なぜいまいちよくわからないと言われてしまうのか、どうも解せないものがあります。

東京支社はアルスクモノイの店内のどこかにあります

安田タイル工業は、タイル製造を旨とする心の中小企業です。だいじなことなのでもう一度言いますが、タイル!製造を!旨とする!心の!中小企業です!

そしてまた、タイルを主要な製品として位置づけながらもその一切を必要としない革新的なアプローチによって、タイルがなくともタイルたりうることを理屈抜きで証明した、世界でも類を見ない会社として数人の人々に知られています。

タイルがなくともタイルたりうるということはつまり、タイルを製造せずともタイル製造たりうるということです。弊社の長い歴史におけるまさしく最大のブレイクスルーがここにあったと申せましょう。なんとなれば何物にも縛られない、自由かつ気ままな無限の可能性しか、ここにはないからです。

しかしもちろん、何でもいいというわけにはいきません。仮にこの世のすべてがタイルだとしたら、当然タイルと名付ける意味も消え失せます。したがって、こう言い換えるべきでしょう。弊社のタイルは今も歴然と陶板でありながら同時にひとつの概念へと昇華したのです、と。


ではタイルとは何か?

そもそも弊社の設立は、人々の暮らしをより豊かにするという至極真っ当な企業理念に基づいています。豊かさは主として物質的な豊かさと精神的な豊かさの2つに分けられますが、ただそこには常に「意味」「甲斐」「価値」が付き纏っていて、それらのうちひとつでも満たさない限り、豊かであるとは言われません。

でも、本当にそうだろうか?意味や甲斐や価値がなくても、心を満たしてくれるものはあるんじゃないだろうか?

というか豊かさの何たるかを問うこと自体がすでに豊かであることの立派すぎる証拠であって、そういうもともと豊かな連中は初手からお呼びじゃねえんだよ、去れ!とキレ散らかしたくなる人々の心にそっと寄り添ってくれるものがあるんじゃないだろうか?

たとえば道端に落ちているバナナの皮です。多くの人にとってそれは単なるゴミですが、弊社の社員たちのように目を留めてしんみりとシンパシーを抱く人もいます。ゴミではないとまでは言わないし、実際100%ゴミだし、もちろん意味も甲斐も価値もない。それでも何か胸に響くものがある。

これがタイルです。物質的、精神的に続く第三の豊かさこそがタイルであり、ここに弊社のレゾンデートルがあります。

理解しようと努める必要はありません。気に留める人はその時点で直観的に理解しているはずです。

何を表現しているとか、どんな活動をしているとかもまた、あまり問題ではありません。タイルによって何ごとかを成そうとしているのではないからです。むしろタイルあるところに弊社ありと言うほうがおそらく当を得ています。

したがって昔も今も弊社としては、登山家ジョージ・マロリーよろしく「Because it's there.(そこにタイルがあるからだ)と申し上げるほかないのです。


2023年1月20日金曜日

安田タイル工業プレゼンツ「焼成したタイルがでかすぎて地球どころか宇宙まで平面になってしまった件について社員2人が獅子奮迅の働きを見せようとするまさにそのとき昔助けた亀が現れ絶世の美女がお待ちですとかうまいこと言って巧みに誘うものだからいそいそついて行ったのが間違いの始まりだったとは言え弊社に金などないことくらいわかりきっているのだからむしろ亀のほうこそどうかしていると結論づけざるを得ない冬の朝に凍てつく水たまりからかじかんだ手で掬った1枚の氷に白い息を吹きかけあなたのことを想いながらまたひとつ足元にワンカップ大関」リリースおめでとうの巻

そんなわけで弊社の社歌である通称「ワンカップ」はぶじリリースと相成りました。やった〜!







タイトルが途中で端折られています。

表示できずに勝手に端折るくらいなら最初から文字数に制限を設けとけやあああああああ!!!!!!!!!

と普通はキレようのないところでキレ散らかすあたりいかにも弊社らしくもあるし、何食わぬ顔でこのまま続けましょう。「聴かずとも味わえる世界初の楽曲」との触れ込みは残念ながら「聴かずとも途中まで味わえないこともないではないが全体としてはどうも釈然としない世界初の楽曲」に後退しましたが、それはそれとしていちおう楽曲なので各種配信サービスでもお楽しみいただけます。

また、こうしてぶじ配信されてもなお、大丈夫なのかこれはと懸念される点が実はまだ他にもあるのです。やぶへびになってもいけないので具体的にこれと示すことはしませんが、クレームを頂戴したり配信が差し止めになったりした場合は、これまたじつに弊社らしいということで改めてお知らせいたしましょう。

iTunes Storeでは表示されている模様です

実を言うと今回はすでに、こんなことが可能なのも配信ならでは!みたいなことをドヤ顔で延々と書き連ねてあったのだけれど、まさか「登録はできるが各プラットフォームで勝手に端折られる上にデバイスによって表示される文字数も異なる」とは正直想定しておらず、話がぜんぜん変わってきてしまったため、全削除です。

さらに今後は「配信タイトルにおける文字数の上限を探る」という新たな目標も掲げていたのだけれど、こうなるとこれも撤回せざるを得ません。何となれば「何文字でも登録できるけど表示はしないよ」ということにしかならないからです。こんな屈辱的な結末があるだろうか?

せめてここで強く念を押しておきましょう。正式なタイトルは「焼成したタイルがでかすぎて地球どころか宇宙まで平面になってしまった件について社員2人が獅子奮迅の働きを見せようとするまさにそのとき昔助けた亀が現れ絶世の美女がお待ちですとかうまいこと言って巧みに誘うものだからいそいそついて行ったのが間違いの始まりだったとは言え弊社に金などないことくらいわかりきっているのだからむしろ亀のほうこそどうかしていると結論づけざるを得ない冬の朝に凍てつく水たまりからかじかんだ手で掬った1枚の氷に白い息を吹きかけあなたのことを想いながらまたひとつ足元にワンカップ大関」です。

くやしい。

2023年1月13日金曜日

安田タイル工業のニュースリリース2023


安田タイル工業(本社:取り壊し、支社:東京都新宿区、代表取締役代理:専務)は、長らく忘却の彼方に打ち捨てられていた乾坤一擲の社歌「焼成したタイルがでかすぎて地球どころか宇宙まで平面になってしまった件について社員2人が獅子奮迅の働きを見せようとするまさにそのとき昔助けた亀が現れ絶世の美女がお待ちですとかうまいこと言って巧みに誘うものだからいそいそついて行ったのが間違いの始まりだったとは言え弊社に金などないことくらいわかりきっているのだからむしろ亀のほうこそどうかしていると結論づけざるを得ない冬の朝に凍てつく水たまりからかじかんだ手で掬った1枚の氷に白い息を吹きかけあなたのことを想いながらまたひとつ足元にワンカップ大関」(通称:ワンカップ)を2023年1月20日(金)に地球全域で同時配信いたします。

つい先日まで2年以上忘れていたとは思えない熱量で曲タイトル、というか正確にはそのあり方を極限まで突き詰めた結果、曲名を主楽曲を従とすることに成功した、画期的なバックファイア作品です。

ジャケに必要な表記をぜんぶ入れ忘れた

1月20日(金)配信開始
安田タイル工業プレゼンツ
「焼成したタイルがでかすぎて地球どころか宇宙まで平面になってしまった件について社員2人が獅子奮迅の働きを見せようとするまさにそのとき昔助けた亀が現れ絶世の美女がお待ちですとかうまいこと言って巧みに誘うものだからいそいそついて行ったのが間違いの始まりだったとは言え弊社に金などないことくらいわかりきっているのだからむしろ亀のほうこそどうかしていると結論づけざるを得ない冬の朝に凍てつく水たまりからかじかんだ手で掬った1枚の氷に白い息を吹きかけあなたのことを想いながらまたひとつ足元にワンカップ大関」
再生時間:2分53秒

配信プラットフォーム:Spotify, Apple Music, iTunes, Instagram/Facebook, TikTok/Resso/Luna, YouTube Music, Amazon, Soundtrack by Twitch, Pandora, Deezer, Tidal, iHeartRadio, ClaroMusica, Saavn, Boomplay, Anghami, KKBox, NetEase, Tencent, Qobuz, Triller, Joox, Kuack Media, Yandex Music (beta), Adaptr, Flo, MediaNet

ささやかな証拠

世界初となる「聴かなくても楽しめる音楽」の配信

これは曲名そのものを味わうという、ボンタンアメのオブラートにも似た発想によって、図らずも世界初となった「聴かなくても楽しめる音楽」です。聴かずに楽しめるということはつまりPC、タブレット、スマートフォンといったデバイスを必ずしも必要としないということでもあり、多くの人にとって楽しむためのハードルが劇的に下がることは疑う余地がありません。たまたまとはいえ「タイルがなくともタイルたりうる」を社是とする弊社の面目躍如たる製品に仕上がっています。

1. 配信のねらい

安田タイル工業はかれこれ十数年前の設立以来、虚無すぎてあとくされのない品質がお客様から高く評価され、心のタイル市場成長を弊社のみで牽引してまいりました。
このたび弊社の印象について広く調査したようなきもちになったところ、生活者の多くは安田タイル工業を知らないこと、知っている人もごくわずかには存在するもののそれを説明できる人はさらに少なく、どこで何がどうなっているのかを完全に理解しているのは世界人口の
0.00000000025%にとどまることがわかりました(母数を80億として換算:2022年12月当社調べ)。

この割合をせめて0.000000005%くらいまで高めるべく配信するのがこの通称「ワンカップ」です。

2. 商品特徴

1)聴かなくても楽しめます。
2)再生すると音楽が流れます。
3)心にうるおいを与え、カサつきを防ぎます。
4)スポンジの除菌も可能です。

3. 備考

配信が決定したのは確かですが、本当にこれでデータ登録が完了してしまったのか実際のところ疑わしくもあり、最終的にはもろもろの制限や規約に引っかかって配信されない可能性があります。また配信にかかるすべての手続きを一手に担っているのが弊社の専務なので、仮にきちんと登録されていたとしても肝心の配信日が間違っている可能性もかなりあります。怒られたり訴えられたり逮捕されたりしても今さら失うものなどないという全社員合意のもとに指す一手がこれです。あらかじめご了承ください。

4. 追伸

そうは言っても、普通に社歌です。専務は真剣にごりごりとラップしているし、主任も思いのほか韻を踏んでいてびっくりします。なんだちゃんとしてるじゃないか、と社員一同、他人事のように感心したものです。

2023年1月6日金曜日

VTuberの次に待つカーボンナノチューバーへの道、その他もろもろ


あけましておめでとうございます。

宇宙的には何ひとつ変わっていないのにどういうわけか日々がリセットされた気になるという、ありがたい1年の始まりです。今年は全国ドームツアー、ドラマの主演、多忙な日々のちょっとした息抜きだった芸術活動が認められての大規模な個展、YouTuberとVTuberとカーボンナノチューバーへの立て続けのデビュー、直木賞やギャラクシー賞、イグノーベル賞からダーウィン賞その他何らかの栄誉ある受賞、またカッパドキアのデリンクユ最下層への移住や火鼠の皮衣の採取、テラフォーミングといった心躍る最先端プロジェクトへの参画まで、早くも予定がパツンパツンに詰まっていて息つく暇もないのはひょっとすると僕ではなく別の人かもしれませんが、人類というマクロ視点からすれば大差ないので、僕でもよろしい。

夢があります。というかむしろいつでもあるのは夢だけです。そして今年も見果てぬ夢を追い続けるためには湯たんぽを用意し、毛布をかぶり、万全の体勢で安らかな寝息を立てる必要があります。ラムを垂らした温かいミルクやラベンダー系のアロマオイル、ナイトミン耳ほぐタイムなんかも効果的です。

目覚めたときこそ夢の終わりです。目覚めるわけにはいきません。夢のない人生など何の価値がありましょう。断固として抵抗し、死力を尽くして取っ組み合い、夢を掴まなくてはなりません。やつらはアラームやスヌーズだけでなく、場合によっては野菜を刻むトントンというまな板の音、味噌汁のいい香りといった非人道的なプロパガンダをためらうことなく投入してきますが、こちらには数え切れないほどのスヌーズを薙ぎ払ってきた歴戦の屈強な睡魔がいます。数十年の培養を経て完成した、巨神兵レベルの睡魔です。遅刻、降格、馘首といった猪口才な現実など恐るるに足りません。

今こそ立ち上がり、というか横たわり、盛大な鼾で高らかに喊声を上げる時です。新しい年の始まりは、すなわち新しい夢の始まりでもあります。

この苦難を乗り越えることができたら、また夢で会いましょう。幸運を祈ります。おやすみなさい!本年もよろしくお願いします!