チューインガム宮殿さんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)
Q. もうダメだと思ったとき、自分はもうどうしようもないと思ったとき、気持ちを切り替えるような発想、もしくは言葉などありますか?
こう言ってしまっては身もふたもないですが、僕は基本的にどうしようもないが服を着て歩いているような男であり、もうどうしようもないと言われちゃうと確かにそのとおりだけどそれは「鼻がひとつしかない」と同じでそれこそ他にどうしようもないじゃないかというスタンスをかれこれ数十年貫きつづけてきた男です。
なぜかわからないけど見た目はわりとしっかりしているように見えるらしくて、それがまた生きにくさに拍車をかけつづけています。どう考えてもしっかりしていたらこんな一寸先は闇の日々を送っていないし、なんだかよくわからない書類が何年もしつこく送られてきたりしないし、だいぶいい年になってから国民健康保険に加入して安堵の涙を流したりしません。僕がしっかりして見えるとしたらそれは、ふつうなら絶望して梁に結ぶロープを探しかねない状況がそもそもデフォルトで、今やずらりとぶら下がった色とりどりのロープを暖簾のように手でかき分けながら暮らすくらいには慣れたからです。
したがって、人が日ごろから人であることを意識しないのと同じく、僕がもうダメだを意識することはほとんどありません。むしろ雨のそぼ降る晩なんかは屋根のある部屋で布団にくるまって朝まで誰にも邪魔されずに眠れることを今でも当たり前に思えず、心からありがたいと感謝しているところがあります。ダメじゃないときがどんな感じなのか、言われてみれば僕もすごく興味があるし、知りたい気がする。
それはまあそれとして、せっかくなのでひとつおすそわけしましょう。目にしたのが10代の半ばだったこともあって、今も変わらず心に残る一編です。たしか一度オントローロ(という独演会をかつて開いていたことがあるのです)でも読んだことがあります。どちらかというとそれによって立ち直るというより、心理的な痛みを和らげてくれるような印象ですね。
「This will make you feel better」というタイトルで、詩の形をとってはいますが、ユナイテッド・テクノロジー社が1970年代の後半から1980年代前半にかけてウォール・ストリート・ジャーナル紙に掲載し、多くの反響を呼んだ広告のひとつです。
これですこしは気が楽になるだろう
落ちこんだときは
この人のことを考えよう
彼は小学校を
中退した
雑貨屋を営み
破産した
借金を返すのに
15年かかった
妻を娶った
不幸な結婚だった
下院議員に立候補した
2回落選した
上院議員に立候補した
2回落選した
のちに語り継がれる
スピーチは当時
誰も聞いていなかった
新聞や雑誌では
毎日のように叩かれ
国民の半分に嫌われた
にもかかわらず
想像してみよう
この不器用で
よれよれの
冴えない男に
世界中でいったいどれだけ多くの人が
目を開かされたことか
彼はじぶんのサインを
シンプルにこう書いた
"A. リンカーン"
This Will Make You Feel Better
If you sometimes
get discouraged,
consider this fellow:
He dropped out
of grade school.
Ran a country store.
Went broke.
Took 15 years
to pay off his bills.
Took a wife.
Unhappy marriage.
Ran for House.
Lost twice.
Ran for Senate.
Lost twice.
Delivered speech
that became a classic.
Audience indifferent.
Attacked daily
by the press
and despised
by half the country.
Despite all this,
imagine
how many people
all over the world
have been inspired
by this awkward,
rumpled,
brooding man
who signed his name
simply,
A. Lincoln.
A. リンカーンのことを考えたりします。
ちなみに彼の結婚がどれほど不幸だったかというと、暗殺されるほうがまだマシと言われたほどだそうです。リンカーン…。
*
質問はいつでも24時間無責任に受け付けています。
dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)
その346につづく!
0 件のコメント:
コメントを投稿