2013年5月22日水曜日
さらにその先にあるレコードの話 前編
前回、レコードについて「何はなくとも7インチ」みたいなことをしたり顔でしたためたそばからこんな話をするのもアレですけれども、といってなかったことにするのもアレなのでおそるおそるお話しすると、週明けに渋谷のちいさなレコード屋さんを訪れたのです。
マンションの一室ということもあって、営業日や営業時間に決まりがありません。事前に連絡をして、店主が在室のときだけ入れてもらいます。基本的には少数の決まったお客さんを相手に直接やりとりしているそうだから、店舗というよりむしろ事務所としての機能に重きが置かれているようなところです。他とくらべて敷居は高い気もするけれど、代わりに良いものだけを選りすぐって置いているかんじ。
そんなお店でさのみ多くもないレコードストックのなかから気になった7インチを1枚ひっぱりだし、カウンターに置かれたターンテーブルで試聴させてもらっていると、店主がふいに「あ、これモノラルか。じゃ針替えよう。あとせっかくだから真空管アンプで聴かせてあげるよ」とおっしゃるので、とたんに血圧が上がりました。
真空管アンプとは文字通り真空管を使った前時代の増幅器です。数十年前なら格別、今はレコードを聴くのにわざわざこれを用意する必要はぜんぜんありません。ただ真空管ならではと言われる音質を愛好する人もいて、その文化は今もほそぼそと息づいています。とはいえ僕も具体的に何がどうちがうのかを語れるほどオーディオ機器に親しんでいるわけではないし、ここではただ、そんな機会に恵まれただけでも望外のよろこびだったと記しておくにとどめましょう。すくなくともその音を耳にして「うわッ」とのけぞったことはたしかです。ふだんがホントに最低限の機器で間に合わせているせいもあるとおもうけど、風景の見え方ががらりと変わったような印象がありました。
「時間あるならコーヒー飲んでく?」
「わ、いただきます」
「ソウルは7インチを聴いちゃうとホント抜け出せなくなるよね」
「ですよね…って言うほど僕も持ってないんですけど…」
「ブルースなんかだとSP盤もいいよ」
「SP盤?SP盤て聴いたことないです。というか聴く環境もなくて」
「このターンテーブル、78回転もいけるんだよ」
「え、あ、ホントだ!」
「なんかかけてみようか」
SP盤、というのは7インチよりもさらに一世代さかのぼった時代のレコードです。材質もちがえば回転数もちがい、7インチが45回転なのに対してSP盤は78回転とずいぶんな速さでくるくる回ります。前回、回転数による情報量のちがいについてちょっとふれた気がするけれど、それで言うとSP盤は7インチの1.5倍以上、LPと比べるとじつに2倍以上の差があるわけですね。何しろ1950年代までのメディアなので、ふつうにソウルミュージックを聴いていてもそこに辿り着くことはまずありません。どこに行けば買えるのかもそういえば知らないし、そもそも今のターンテーブルでは78回転に対応していないものの方が多いのです。ブルースもどちらかといえば60年代以降でソウル寄り、わけてもファンク寄りのものしか聴いてこなかったから、50年代のブルース(このジャンルの年代としては古くない)、しかもSP盤てどんな感じなんだろうと知らない文化の入り口をのぞくようなきもちでかけてもらったらこれがあなた
うっすら思い描いていた音のイメージとはまったく違っていたのです。デカい隕石が落ちてくるレベルの衝撃は覚悟していたのに、実際に落ちてきたのは月だった、というくらいの別次元ぶり。
もちろん時代を問わず語り継がれるような名曲を選んでかけてもらったからなんだけど、それにしても超イイんです…!
長くなりそうなので、さらにのけぞることになった後編につづく!
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2 件のコメント:
前の記事のコメントで申し訳ないんですが…。
「ニャロメのうた」どっかで見たことあるな~と思って調べてたら…猫の本に乗ってました。
で、なんとこの盤「俺と結婚しろニャロメ」なんていうのもあるのだとか!
残念ながらどちらも未聴ですが…もしかして持ってたり…しますか!?
> 柴田 "Big-Dream" 大夢さん
いわゆる「ネコード」というやつですね。
大きな口をたたいておいて何ですが
そういえば「俺と結婚しろニャロメ」は僕も持ってないです。
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