2022年12月25日日曜日

ある年のクリスマスがその後の人生を決定づけた話


たまにはクリスマスの話でもいたしましょう。

僕がまだ小学1年生だったころのことです。その年のダイゴ少年はクリスマスプレゼントに以前から欲しかったラジコンを希望していたのだけれど、クリスマス前に悪事が露見してしまい、サンタは来ないことを宣告されました。

悪事といっても7歳くらいのことなので、詐欺とか殺人とかインサイダー取引とかではもちろんなく、タチの悪い万引きだったようにおもいますがよくおぼえていません。ただ子どもにとってはすごく楽しみにしていたプレゼントを撤回されることほどダメージを負う懲罰もないから、少なくともそれに値するだけの悪さだったことだけは確かです。サンタなんか来るわけもない。イブの晩もしょんぼりして寝ただけです。

翌朝、というのはつまりクリスマス当日の朝ですが、目を覚ましたダイゴ少年は枕元に大きな平べったい箱が置いてあることに気がつきます。えっサンタは来ないはずだったのに…まさかこれは…でもこんな平べったい箱にラジコンが入るはずもないし…と困惑と期待が入り混じった気持ちで包みをガサガサと開けたら出てきたのがつまり


塗料です。

しかも30色(!)近くあって、筆も皿も、そして溶剤系塗料なのでそれを洗うためのうすめ液(要はシンナーです)が一式ぜんぶ揃っています。水性塗料とちがって薄めるのも洗うのにもうすめ液が必要な上に部屋にシンナー臭が充満するため、どう考えても小学校低学年向けとは言い難いことを除けば、プラモデルに色を塗りたいとなったときに必要なものがすべてそこにありました。

シンナー臭もどうかとおもうけど、最大の問題はうちにプラモデルなんかなかったことです。

何かプレゼントしてやりたいが、といって容認できない悪さをしでかした以上、純粋に喜んでしまうようでは困る、というややこしい条件を見事にクリアしていて驚かされますが、しかし塗るものがないのになぜ塗料なのか、そしてなぜ水性塗料ではなくよりによってシンナーまみれの溶剤系塗料なのか、当の両親が今も昔もホビー系に詳しいどころか完全に無知(だから謎なのです)な上にこの時のことをまったく覚えていないため、その理由は今もわかりません。

いずれにしてもダイゴ少年はここからこの溶剤系塗料「Mr.カラー」にどっぷりとハマっていきます。何しろそれまでは色を塗るといったら画用紙に絵の具とか色鉛筆くらいしか知らなかったのに、この塗料はゴムにも鉄にもプラスチックにもガラスにも塗ることができるのです。

先にも書いたように、プラモデルはありません。しかし当時、この塗料を使うのにうってつけのあるものがちょうど一世を風靡していました。それがガシャポンの「SDガンダム」です。3センチくらいの大きさで手のひらにちょこんと乗る、デフォルメされたガンダム人形ですね。

絵の具や色鉛筆では塗れなかったものが、この塗料なら好きに塗ることができる、というのはダイゴ少年に爆発的な刺激と興奮を与えました。想像力の可動域を飛躍的に広げてくれた点で、これがおそらく僕にとってものをつくることの原点です。何しろその後、小学校を卒業するまでの6年間ずっとこの「Mr.カラー」でひたすらSDガンダムとプラモデルに色を塗り続けています。しまいには法事の帰りの車の中でちまちま塗ってそのシンナーくささにひどく叱られたくらいです。無色の世界が彩られるのはそれだけで想像力に翼が生えるようなものであって、その楽しさといったらなかった。色それ自体というより、それまで存在しなかった何かを自らの手が生み出す喜びですね。

もしあのとき欲しがるどころかその存在も知らなかった謎の塗料セット一式を両親が用意していなかったら、今の僕にはなっていないはずです。それが良いことだったのかどうか、何ならもうちょいましな人生だった可能性のほうが圧倒的に高いとおもうけれども、どうあれ「Mr.カラー」がその後の歩みを決定づけてしまったのは間違いありません。

ここから導き出される教訓はひとつです。子どもに何だかよくわからないものを何だかよくわからないまま与えてはいけない。いつどこで何がその後の人生を決定づけてしまうかわかりません。良い結果を生むこともあるでしょうが、僕のような大人に育ってしまう取り返しのつかない危険性もあるのです。子を持つ親御さんはどうか気をつけてください。

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