2021年8月6日金曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その338


マリトッツァンさんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)生クリームがたっぷり詰まったお父っつぁんですね。


Q. 家の鳩時計の鳩がいつからか出てこなくなりました。どうすればまた出てきて鳴いてくれますか?


これはあれですね、それまでしーんとしてたのに閉店するとなったら途端に人々が声を上げて惜しみ始める、いわゆる閉店ラブコール問題の亜種ですね。

ひとつ想像してみましょう。

あなたは今、どこからも光が漏れることのない真っ暗な部屋の中で、膝を抱えながらひとりその時を待っています。部屋には扉があって、一定の時間ごとに数秒間、外に向けて開かれることになっています。外界から完全に遮断され、闇に閉ざされたあなたの役割は、扉がひらくその数秒間だけ外に顔を出し、「ジャジャーン!」と力いっぱい叫ぶことです。それ以外の役割は与えられていません。叫び終われば扉は無慈悲に閉まります。

おわかりかとおもいますが、これは賽の河原シーシュポスの岩と大差ない苦行です。何ならもっと直接的に、刑罰や拷問であると言い換えてもよいでしょう。僕がその立場なら何が何だかわからないまま「僕がやりました」とありもしない罪を自白すること必至です。

とりわけつらいのは、明るく朗らかに笑顔で「ジャジャーン!」と飛び出したその先に誰もいないことです。埋め尽くされた観衆の前ならまだしも、無観客で「ジャジャーン!」を永遠に繰り返させられることほど胸つぶれることはありません。

苦しいし、泣きたいし、いっそ殺してくれ!と心の内で叫びながらも、そのときが来ればいつでも血走った目でムリヤリ笑みを浮かべて「ジャジャーン!」とやらなくてはいけないのです。涙をこらえて屈辱に震えるハトのなで肩をそっと抱き寄せながら「もういい、十分だ。お前はよくやった」といっしょに泣くしかないじゃないですか?

ハトの身になれば、また出てきてほしいと言うことはとてもできません。十分すぎるほど、その務めは果たしてきたはずです。むしろ時計を止めて扉をひらき、自由しかない大空へと解き放ってもいいのではないかとさえおもわれます。

それでもなお、ここにいてほしいと今も心から望むのであれば、するべきことはひとつです。外界に暮らす僕らはそれが1日に24回あることを知っていますが、そのときが来たら家族総出で時計の前に座し、扉がひらいた瞬間、立ち上がって万雷の拍手を送りましょう。

重罪人の立場を一瞬にしてスーパースターへと反転する、これこそが唯一にして無二の解決策です。心身ともに深い傷を負ったハトも、戸惑いながらもすこしずつ自信を取り戻し、いずれは威厳に満ちた堂々たるステージングを披露してくれるでしょう。めんどくせえなとお思いでしょうし、実際のところ僕もそう思いますが、しかたがありません。がんばってください。


A. スタンディングオベーションが必要です。




質問はいつでも24時間無責任に受け付けています。

dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)


その339につづく! 


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