2019年12月25日水曜日

安田タイル工業史上最大の衝撃で閉じる2019


2019年は安田タイル工業にとってまさしく躍進の1年であったと申せましょう。

長年温めていたら火が消えたことにも気づかず冷めるにまかせていたタイル月報の発行、京都市営地下鉄駅構内におけるその大々的な掲示



そして7月号のまま強引に年の瀬まで押し切ったかとおもいきや、つい最近になって専務が交通局方面とのやりとりを水面下で継続していたことが発覚、「次はいつ頃になりますでしょうか」「1月初頭です」と主任そっちのけで確約していて「おい」としか口のはさみようがないのですが、何と言っても最大のニュースは東京支社の落成です。


本社の所在地も定かではないのに支社が先に落成してしまうあたり、とらえどころのないタイル精神をみごとに体現した成果であったと社員一同じーんと感極まるものがありました。会社見学に訪れた人々が支社ビルを手のひらに乗せてぱちりと写真に収める夢のような光景を、生きているうちに拝めるなんてまったく冥利の一言に尽きます。

もう言うことはありません。あとはかつてないほど活発な動きを見せたこの1年を、ゆっくり温泉にでも浸かってしみじみ振り返るだけです。そうおもっていたのに、まさか最後の最後で過去最大級の衝撃が待ち受けていようとは……


世界に向けて遠吠えを!

あるかなきかの顕微鏡的零細企業、もしくは世界のミスリーディングカンパニー、安田タイル工業の年末に何かパーッとやるやつが今年も帰ってきた!2018年12月以来となる今回も、専務と社員、総勢2名の大所帯でくりだします。

※これまでの年末興行については以下をご参照ください。
2010年
2011年
2013年
2014年
2015年
2016年
2017年
2018年 前編
2018年 後編

朝5時


いきなり京都

大所帯でくりだすと言いながら、この時点でくりだしたのは主任だけです。安田タイル工業の本社所在地ということになっている京都になぜ主任が赴いたのか……じつは専務に「なるべく小汚い格好で来い」と言われただけでなんだかよくわからないまま来たのです。旅に出るのではないのか……?


「到着時刻に合わせて出迎えてやるから大船に乗ったつもりでいろ」と前夜に頼もしいことを言っていた専務を待つこと30分……

専務登場

しかし朝5時半から行列する後方のマクドナルドのほうが気になって専務のいい笑顔が目に入りません。小汚い格好で来いと言った本人がそこそこ小綺麗なのも忌々しい。

「大船に乗るどころかいかだで漂流ってかんじでしたけど」
「だから言っただろう」
こっちのせりふだよ!
「大船に乗ったつもりでと言ったはずだぞ」
「あっ夢想しろってことですか」
「そうだ」
「はっはっは」
「はっはっは」

後頭部にできた大きなコブをさする専務共々、夜明け前の京都を歩き出す安田タイル工業の面々。

……とおもうそばからまた行列に出くわします。


「これは……」
「ラーメン屋だな」
「ラーメン屋に朝の夜明け前から行列!?」
「開店が6時なんだ」


なぜ6時なのか、なぜ並ぶのか、そしてなぜ朝っぱらからラーメンなのか、一から十までさっぱりわからず、到着早々にカルチャーショックを受けて困惑する主任。この時点で主任の京都に対する認識は「夜明け前からマックとかラーメン屋に行列する土地である」に上書きされています。

さらにてくてくと歩みを進め

着いたのは

京都の名物銭湯です。

「ここで汗を流していこう」
「わーい気が利く!」








長旅の疲れを、と言ってもそれは主任ひとりの話ですがともあれ癒してふたたび出発する安田タイル工業の面々。

「次は朝食だ」
「なんかめっちゃアテンドされてる」
「招いたんだから当然だ」
「そういえばなんで今回は」
「ついたぞ」



戸惑いを隠せない主任

「何このおしゃれな朝餉……」
「インスタ映えするだろ」
僕インスタやってないですけど

とはいえせっかくなのでとてもおいしいおしゃれな朝食を心ゆくまで堪能する主任。なんとなく釈然としない一抹の何かがないわけではないのですが、あんまり考えすぎるのもよくありません。


きりりと澄んだ空気と穏やかな青空の下、てくてく歩いて鴨川をわたります。






着いたのは趣きある1軒の、それはそれは古いアパートです。








「なんかいいかんじですね」
「ここですこし休んでいこう」
「部屋もすてきだ!」
最悪ここが宿になる」
「え?宿?」
「宿だ」
「最悪って?」
ギブアップしたらということだ

陽光さしこむ古い一室のやわらかな空気につつまれて、明らかに穏やかでない一言が主任の脳にぷすりと刺さります。口ぶりからして専務の住居でないことも確かです。しかしあんまり考えすぎるのもよくありません。

さっそく寝る専務


「おい起きろ」
「ムニャリ」
「昼飯にいくぞ」
「あっもうお昼ですか」
「さわやかより美味いハンバーグをみつけたんだ」

さわやかというのはもちろん、静岡県民の心のふるさとと言っても過言ではないハンバーグレストランのことです。安田タイル工業においてハンバーグは常にこのさわやかが基準になっています。ただし基準と言っても最高峰はつねにさわやかであり、「さわやかより美味い」というのはあくまで「そう言ってしまいたくなるくらい美味い」という意味であって、本当にさわやかを超えるわけではありません。どれだけ美味かろうと頂点には永久欠番的な立ち位置でさわやかが鎮座しています。そんなわれわれが静岡県民であったことなどかつて一度もないのだから、考えてみると不思議なことです。


思い出したように「あっ」となる安田タイル工業の面々


気がつくと日も暮れて、というか撮ってあった写真がいきなり日暮れになっていたので日も暮れて、また移動を始めます。今日はたのしい思いしかしていないので、最後の晩餐を終えた死刑囚みたいなきもちがふと頭をもたげますが、あんまり考えすぎるのもよくありません。



「そうだ食料を買っていこう」
「食料?」
「自販機もないからな」
「自販機もない?」
「おい心配するな、これから行くのは楽園だ」
「いま自販機もないって言ったばかりですよ」
「なくても別にいいだろう」
「食料も自販機もない楽園……」
この日のためにずっと準備してたんだぞ

そう言われて初めて、主任の心にやさしい火が灯ります。「この日のために準備していた」というのは相手が不倶戴天の敵でないかぎり、100%善意の表れです。なんならサプライズと言い換えてもいいでしょう。ミニスカートのサンタさんがいっぱいいて盛大なクラッカー音とともに「メリークリスマス!」とかまず絶対になさそうにおもわれるけれども、そこはそれ、常に人の裏の裏の裏をかいてどっちが表だかわからなくなる人生を脇目も振らずにのしのしと歩んできた専務のことです。「うおおおおおまじで楽園きた!!!」も決してあり得ない話ではないと考えられなくはないと言い切れないこともないような気がしてきます。



そうして着いたのは……





山に囲まれて深閑とした物音ひとつない無人駅です。


言葉もない主任


「着いたぞ、ここだ!」

バーン!

何も見えやしねえ
「そうキレるな」
「ここ以外のどこでキレろというんですか」
「電気がないんだ」
「あっなんかある」
「ふふふふ」




怖い!
「怖くない!」
「だって廃屋が」
「どこが廃屋だ」
どっからどう見たって廃屋ですよ!
「安田タイル工業の本社、その社屋だぞ!」

……え?

「いま何て言いました?」
「安田タイル工業の本社ビルだ」
「専務が建てたんですか?」
「当然だ、よくみろ!」


どっからどう見たって廃屋ですよ!
「よくみろ、木材が新品だろうが!」
「あっ」


メルカリでただでもらった家具を柱にしてるんだぞ!」
「ホントだ……」
「そんな廃屋があってたまるか」
「そんな新築も困りますよ!」
「屋根をみてみろ」
「?……ガラス戸?」
「星空がきれいにみえるとおもってガラス戸を屋根にしたんだ」
「でもトタンでふさがれてますよ」
「うむ……戸と戸の間から雨が滝のように漏れて諦めた

生々しすぎる証言の数々から、これが廃屋でなく、本当に弊社の専務がゼロから建築したものらしいことが戦慄とともにいよいよはっきりしてきます。

ここで改めて釘を刺しておきましょう。弊社の支社ビルがある古書店アルスクモノイは、安田タイル工業が関わっているというただ一点のみのためにその実在を疑われている、というか実際お店で「ホラだとおもってました」と言われたこともあるくらいですが、もちろん新宿区西五軒町に実在します。

同じように、今している、そしてこれからする話も、すべて本当です。別に本当じゃなくてもたのしければいいじゃないかと言いたいきもちもあるのですが、残念ながら本当です。

話を戻しましょう。

「あれ?ちょっと待ってください」
「なんだ」
「これひょっとして不法侵入じゃないですか?」
「バカなこと言うな」
「だってこの土地、誰のですか」
「うちのに決まってるだろう」
「持ってたんですか?」
いや、買った
「え?」
「買ったんだ、安かったからな」


専務が

土地を


買いました



「ええええええええ」
いい買い物をした
「えっだって安いったって……いくらしたんですか」
「××××××××」
「めちゃめちゃ安い!」
「うむ、しかしそれにはわけがあってだな」
「そりゃそうですよ」
「うしろをみろ」


「まっくらで何もみえません」
「フラッシュを焚くんだ」


「あっ」
「撮れたか」
なんか心霊写真みたいのが撮れました
「なんだと」
「ほら、もう一枚には写ってないでしょ」


「まあいい、下をよくみろ」
「伐採されたっぽい木の山が……」
「これが本当に山のようにある」
「そういえば足下が土じゃなくて木だなとはおもってました」
これを自力で処理するという条件で安くしてもらった
「これを」
「うむ」
「自力で」
「うむ」
「処理」
「うむ」



バッカじゃねえの、と誰もが心に浮かべる一言をすんでのところで飲みこみ、「よっ大統領!」と返す主任。返しとしてはなんとなく場違いな気もしますが、こういう場合どう返すのが適切だったのか今もってわからないので仕方ありません。

「そんなわけでだな」
「そんなもこんなもないですけど」
今夜は夜通しこの木々を燃やす
「一晩や二晩で燃やし尽くせる量じゃないですよ!」
「燃やせるだけ燃やすんだ」

すべての疑問が氷解した今、どのみち明かりもなければ暖もないので、あとは火を焚くほかありません。そういえばずいぶん前に「焚き火は得意だったな?」「はあ、まあ好きですけど」みたいなやりとりを交わしたかすかな記憶が今ごろぼんやり思い返されます。そうかあのときから布石を打たれていたのか……

あきらめて火を熾し始める主任

18:00

19:00

20:00

21:00

それではここで、安田タイル工業が世界に向けてふと思い出したように放つ渾身のささやきをフルボリュームでお聴きください。

22:00

23:00

24:00

01:00

このあたりで専務が不意に「せっかくだから山尾三省の『火を焚きなさい』を朗読しよう」と言い出します。たしかにそんな機会があるとすればこの時をおいて他にありません。せっかくなのでヘッドフォンを装着し、フルボリュームでお聴きください。



02:00

03:00



04:00

気づけば焚き火というより火災の様相を呈していますが、これは火をキープしつづける主任とちがって特にすることのない専務があちこちから拾ってきた不燃ゴミとしての鏡を暇つぶしに並べたからです。


05:00

ここまで休みなくひたすら木々を火にくべてきたものの、5:30をすぎたあたりで主任がいびきをかき始めたと後に専務が語ります。正直まだ全体の1/30も燃やせていませんが、どうやら限界がきたようです。


♪パ〜パラララ〜(エンディングテーマ)


飽くなき探究心と情熱を胸に、安田タイル工業は今後も逆風に向かって力強く邁進してまいります。ご期待ください。

安田タイル工業プレゼンツ「安田タイル工業本社ビル上棟式」 終わり


おまけ:昼間みた安田タイル工業京都本社所在地

本社ビル近影



焚き火のあと


よく見ると写真右上、屋根の上に座卓のようなものが見えます。
「あれ、なんか乗ってますよ」
「おっよく気づいたな」
「座卓みたいですけど」
「座卓だからな」
「なんで?」
「あそこがわが社の応接室だ」

安田タイル工業本社の応接室



何かを嬉しそうに説明する専務








安田タイル工業ではみなさまからの温かいおたより、工具、重機をお待ちしております。

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